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ショートステイ

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クリエイター・リンク集「バスを待つ間に触れられるものを探しています」
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#エッセイ

書評 『三行で撃つ』

書評 『三行で撃つ』

 小説家志望ならば物の書き方の本を読んではいけない。大昔に読んだ本にあった言葉だけれど(しかし、それは物の書き方の本の一節だったから、自己矛盾を起こしていると思う)、私は物の書き方の本を結構読む。

 物を書くと一口に言っても、誰が、どういう媒体に書くのかによって、注意すべき点は少し異なるだろう。最初の数ページに「小説はぬるい」とあって、具合が悪くなったけれど、それでもこの本には得られるものがあっ

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2人の老人どちらに譲るか

2人の老人どちらに譲るか

電車に乗っていて、お婆さんが立っているのに気づいた。お婆さんは私の左斜め前にいる。私は席に座っていたので、ここはひとつ席を譲ろうかと思った。

私は席を譲るタイミングを見計らい、お婆さんの方へ視線をやった。視線をやってから席を譲るべきか迷った。改めて見ると、お婆さんはお婆さんじゃない気がしてきた。

少し若いのである。お婆さんだとしても、まだ成り立てだ。お婆さんとしての自覚が足りてないかもしれない

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彼女は夢の本編

夢の中のあの人はいつも怒っている。

それは私があの人の夢を見ることに負い目を感じているからなのか、あの人を好きでいることに罪悪感を抱いているからなのか、それとも本当に怒っているからなのか、よくわからないけれど、とにかく夢の中のあの人はいつも怒っていて、私は目が覚めるたびに誰もいないさびれた浜辺に打ち上げられたような気分になる。不思議な時空の空白に放り出される。

夢の中で私はあの人とゆるやかな長

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「絵を描くのはしんどい、でも完成したら達成感がある」

「絵を描くのはしんどい、でも完成したら達成感がある」

「絵を描くのはしんどい、でも完成したら達成感がある」

今日もこうしてアートのことを考える時間が与えられしことを天に感謝します。

僕の専門は絵画でありますが、それは1日で描けるものもあれば何日もかかるものもあります。私は描くのが早いのでアクリル画で80号くらいのも5時間くらいあれば完成させることもできます。まあ、そんな早く描けるのですが油絵のようなものは何日も何週間もかかるものもあります。

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坂道

話が長いのが苦手だ。というか多分、つまらないから早く話を終わらせたいのだと思う。間延びしている会話はじれったくて仕方がない。良かれ、と思って話を広げられるのも嫌だ。リズムよく必要なことを話して、次のステップを踏みたい。長い時間を共に過ごせば、みたいなことで生まれる一体感みたいなものは幻想だと思っている。余白は必要だけれど、それは誰かと共有しなくても良い。やりたいことは沢山あるのだ。人が集ったという

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2020/09/08【立ち喰い蕎麦】

2020/09/08【立ち喰い蕎麦】

物語の主人公になれる人ってだいたいさ、昔ながらのナポリタンとか、駅前の安い立ち喰いそばが好きだよね。社会人何年目になっても、東京には染まらず、高級なお店には背伸びしていくよね。

いつまで経ってもそういった安い立ち喰いそばが好きなことが、青春を忘れないための布石になっていて、いつまでも舌が肥えていないことが、あえて、優位になる世界な気がする。
私がそういった物差しでしか物事を図れないのかもしれない

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コップの水

人は距離感を間違える生き物だ。満員電車は当たり前で、その空間の苦痛は我慢すべきものとして理解されている。孤独な人の痛みを知らないで土足で踏み荒らしていく人はとても多い。一人一人の身体の距離感や心の距離感はなかなか尊重されない。自分だけの場所をゆっくりゆっくり耕していきたいのに、それさえ許されないことばかりだ。果たして人は、群れることで失うものの行方を目で追っているだろうか。手放してきたことたちの重

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ホウキと雑巾、あるいは掃除機

ホウキと雑巾、あるいは掃除機

20200605

掃除機がキライだ。

部屋をきれいにするなら、ホウキと雑巾がいい。

別に機械が好きとか嫌いとかではない。掃除機はモノとしての存在感が大げさだし、なんだか野暮ったい。そう感じる。見た目のことではない。あと電源プラグをさして機器をコントロールする、その感じが重たい。

その点、ホウキも雑巾も、軽い。

自分の体の一部みたいに、サッサッサッとことが済

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キュリオシティ

キュリオシティ

火星探査ほどわくわくした気持ちを持てるものは、今の私に他に無い。

あの荒れた赤土の地表を駆け抜けるローバーたちは、生まれ故郷を去り、

全くの新天地で、自分たちの足跡を大地に刻む快感を感じているのだろうか。

信じられないくらい、平たくてずっと続く平原。

系内でいちばんの、高々とそびえ立つ巨山。

ぱっくりと大地を分かつ暗黒の渓谷。

私たちがいけないばかりに、彼らが代わりに見つけてきてくれる

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おちこむことがあっても

おちこむことがあっても

 おちこんでしかたのない日も、ある。

 明日もそうかもしれない。うまくいかなくて、足の裏に力を入れてこらえて、自分のわがままな甘さに嫌になってしまうこと。余裕がなくなってしまうこと。周りが見えなくなって、帰り道に反芻して、動けなくなること。なんだか、いっぱいいっぱいです、とお手上げ状態になって、なかなか何も手につかない。

 それでも、過去を変えられるわけではない。過ぎたことは、戻らない。明日が

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絶望

絶望

絶望の底を見てる
昨日からずっと

日が変われば楽になるとか
思ったけど戯言だった

吐き出せもせず
浮き上がれもせず
昨日からずっと
同じ風景を見てる

いつか上見れるのかな

こんな時はとことん
底を見るのがいいと
教えてくれた人がいるけど
底を見続けるってそれなりに辛い

今度も耐えれるのかな

絶望って全部奪うよね
楽しいことも
楽しいと感じる心も
楽しもうとする気も
楽しかった過去も

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鳥の声

同じ町に住む一人暮らしのおばあさんが亡くなった。80歳くらいだったらしい。最後は自宅で、帰省してきた息子さんに看取られて旅立った。

おばあさんはヨウムを飼っていた。いつも窓際の鳥かごにいて、私が物心ついたときにはすでにヨウムはいた。名前はむーちゃん。

むーちゃんはおばあさんの言葉を真似る。おはよう、こんにちは。笑った声、えー?という口癖まで。

通夜の日、鳥かごは奥の部屋に隠されていた。それで

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今日は

今日は

去年の夏、長野に行った。
お土産に蕎麦を買った。
渡しそびれた蕎麦を、今日食べた。
賞味期限は半年前に切れている。

冷蔵庫からわさびを出す。
未開封だが、賞味期限は一年前だ。

蕎麦に付属のつゆだけが、来月まで保つらしい。

今日はいつなのだろうか。
よく分からなくなった。

賞味期限が切れていても、
特に問題はなかった。
美味しくもなかった。
賞味期限というのは、なるほど。
いくらか確からしい

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ちくりしない

かすかななにか。これといっていいたいこともない。しょうたいふめいのものとはらはらとおちるもの。ほうっておいてあふれるもの。しろいしろいぴんく。まろやかなさむらい。ささいなやさしさ。ひとりもいいよ。あなたのふともも。ねこのおなか。いぬのおしり。ゆれるいなほ。