川㟢雄司

詩人。カワサキユウジと呼ばれている。詩、随筆、小説、その他を好む。余白で生きてる。 I…

川㟢雄司

詩人。カワサキユウジと呼ばれている。詩、随筆、小説、その他を好む。余白で生きてる。 Insta @y.k.works

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最近の記事

鬼の呪い

「いつの頃かは、知らない」 子供たちや私のような観光客を並べて、婆さんは語り始めた。 山の頂を太った岩で潰して、その岩を囲んで暮らす、鬼の一族がいた。岩の北端に塒を構える一家に、ある鬼の子がいた。 鬼の子は、鬼の一族始まって以来と言われるほど、なまちょろで青白く弱々しかった。鬼は皆猛々しい。赤く硬い皮膚は、溢れるように滾った肉を膨れて包み、蒸気の立ち昇るほど熱く、ちぢれた髪には岩穿つほどの角を生やし、牙は上下にはみ出して噛み合ず、目玉はめり込むようにぎょろついて、眼孔は永

鬼の呪い

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  • 小説
    6本
  • 雑文
    8本
  • 50本
  • 既刊:私家版
    5本

記事

    寄るべない二人

    バスは苦手で、特に後ろの方へ座るとエンジンの振動で酔ってしまう。まんなかのドアより手前の、足元に段差のある座席がすきだ。棒のように突っぱって出た膝小僧をさすりながら窓外を眺める。後ろに座ったオリバーが耳元でささやいてくる。 「バラがたくさんあるんだ。すごい数なんだよ。品種も多いし、珍しいのもある。今日はバラ日和でよかったよ。暑いから蕎麦も美味しいだろうね。ね、蕎麦。食べようね」 似たようなことをここ数日ずっと言っているので、適当な返事で済ませた。  私も植物園は好きだけ

    寄るべない二人

    夏の家族

    名前をあげましょう 遠く離れても思い出せるように 口にふくんでも忘れられるように 耳を澄ませなさい 空気と水の密度の差に 震えてきらめく光がある 生命の燃える季節に 猛々しくなくともよいのです 静かな眼差しで 嘘を射抜きなさい 温もりはいつも 姿を変えて そっとあなたを呼ぶの #夏の家族 #夏 #家族 #詩 #名前

    夏の家族

    全裸でカレーを食べていたときのことです。つまり、そう、ついさっき。なに、ちょっと春めけば当然の出来事です。 台所の横へ設けられた小窓には格子が嵌めてある。集合住宅の廊下が静かにストライプに割られて、隣の家の父親が帰宅する時などには、人影がアニメーションのようにタラリララとちらついて過ぎていく。 窓の鍵には、友人がチェコの土産にくれた鳥の、平たいストラップが掛かっている。スナメリの胸ビレのような耳が垂れている。しょうゆの屋号のような目をしている。部族のペニスケースが逆さになった

    われ彫刻になりたや

    過去や今やの別なくし 音や光の包みきたり 啞も吽も漏れぬまま われ彫刻になりたや 不動の体を愛づればいつか 明王となりましか 眺むる人を迎えては そのあわいで真に 生命となりたや #詩 #彫刻 #生命

    われ彫刻になりたや

    夢より深く醒めていて

    あれから何が育っただろう 野蛮なほどに存在を 肯定するのはいつだろう 荒れ狂う赦しが 腹から湧き出して満ちるのを ずっと待っている 目印のようにそっと置かれて 世界のへその如く 連続を断ち切られたあとに この指先で何に触れよう 朽ちた言葉のウロのなかで ずっと 夢より深く #詩 #夢

    夢より深く醒めていて

    わたしの小石

    かなしいかなしい夜でした 涙のこぼれる夜でした どうしてかなしいのか 分からないので よけいにかなしくてたまらない なみだにぬれて 心がそっくり返るのでした ひっそりとした夜の底に 小石がひとつおかれている 小石はひかりというひかりを みんな吸い込んでしまうので あたりは暗くて何もみえない 音さえ吸いついていくようで  ただただかすかに しっとりとして しめっている 誰の目も声も届かず ひっそりとした夜の底に おかれたひとつの小石のような心地がして かなしいのでした 吸い

    わたしの小石

    詩展「さっきまでが向こうから歩いてくる」を巡って 鼎談  中編

      かわさきは満足したように   体を伸ばしながら瓶から離れる。   入口上部にある絵を眺めている。  か この絵は全部自分で描いたの?  川 そうですよ。ちょうど二年前から画材を    集め始めました  か そういえば別に絵とか描いてませんでし    たもんね  川 ここにあるのはほとんどこの半年くらい    で描きましたね。使い勝手が分からなく    てずいぶん大変でした   三人しばらくぼんやりと眺める。  カ なにかこう人体を感じますね  川 人体で

    詩展「さっきまでが向こうから歩いてくる」を巡って 鼎談  中編

    詩展「さっきまでが向こうから歩いてくる」を巡って 鼎談 前編

    登壇者  川㟢雄司、かわさきゆうじ、カワサキユウジ   会期中某日、薄曇り、回廊数十分後、East   Factory Art Gallery 入口に架けられた構   造物を見つめながらかわさきゆうじとカワ   サキユウジが歩いてくる。二人を認めて会   場内から迎えに立つ川㟢雄司が構造物の脇   で声をかける。  川㟢雄司(以下川)どうも   川㟢雄司に視線を移し二人はまばらに応じ   る。  かわさきゆうじ(以下か)こんにちは  カワサキユウジ(以下カ)どうも

    詩展「さっきまでが向こうから歩いてくる」を巡って 鼎談 前編

    新しき墓  –石神雄介個展「光景の背後」に寄せて–2020.7/11-20 efag.cssにて開催

    序  記憶と認識 育った環境が、今もってなお、自らの空間認識に影響している。日々を送る最中より、旅した先でこそ、鳴り響くものでもある。帰宅に際しては、遠く地形の連なりがゆっくりと肌になじんで迎えてくれる。  平らである 産まれこそ違うものの、私はすっかり平野の民として育ってきた。関東平野の民である。千葉北西部の民である。日本は土地の七、八割が山岳であるけれども、私の生活に山はとんと現れない。すこし出張れば海があるが、滅多なことでは訪れない。ここいらの生活にあるのは、平たくひ

    新しき墓  –石神雄介個展「光景の背後」に寄せて–2020.7/11-20 efag.cssにて開催

    寒暖差

    朗々と鳴る緑の毛並み 苦汁に浸した灰の空 崖のような風がのたうつ つまみあげたような木々が狂れる 充分に濁った騒ぎのなかを ゆっくりと清らかに 疑わしいほど 発光しながら 白鷺が 知覚を縫って飛んでいく 濁った頭の中で 千切れた純粋のように

    立ちくらみ

    知らないよ 違うかもしれないね 眼球てヤツはさ 都合がいいからな つまんないことばっかりだ 一瞬の繰り返しが 立ちくらみを起こしちゃう 血が薄く透けて ほら 朝がくるよ

    立ちくらみ

    家出

    ロウヤって漢字を忘れた クッキーって漢字だとどうなるかね 楽器なんか弾ける? つまんねぇヤツだな 自由ってどこまで耐えられるかね 許すってどうやるんだ 嘘つかないヤツがあるかよ 仕方がないとは言いたかないね ちまっこい犬だな 人間なんてのはさ 地球から家出したくてたまらねぇんだ