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ゆっくり読みたい創作大賞記事

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#ミステリー小説部門

言の葉ノ架け橋【第1話】

言の葉ノ架け橋【第1話】

第1話 かけはし
まだ夏は遠いけど、紫外線の強くなる季節。
首元に日焼け止めクリームを丹念に塗り込んでいると、「希生先生、希生先生」と庭から優しい声で呼ばれて慌てて振り返った。

「ヨウちゃん、そんなところにいたの。びっくりさせないで」
「希生先生、いそがんと学校に遅れるよぉー」

私はふぅと息を吐き、手の甲にもクリームをたっぷり塗り込んだ。
「サチ祖母ちゃんの声マネするのいい加減やめて欲しいわ。

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花畑お悩み相談所 プロローグ 

花畑お悩み相談所 プロローグ 

プロローグ

 寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
 そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
 深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた

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残夢【第一章】①手錠

残夢【第一章】①手錠


女は髪を振り乱して俺から逃れようともがく。手首は白くて折れそうに細い。
俺はそのコートから伸びでた手首を素早く掴んで捻りあげ、女がそれ以上抵抗できないようにブロック塀に体を押し付ける。

「イヤッ……」

小さく息を漏らした女のおくれ毛は汗ばんだ頬に張り付き、思うように身動きの取れなくなった上半身を必死に動かし振り向こうと再び藻掻く。

抵抗しても無駄だ。
俺は必要最小限の力を込め女にそれ

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スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)

スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)

 あらすじ
 自殺願望のある者達が、闇サイトを通じて南海の孤島に集まる事に。闇サイトの主催者は、孤島で参加者全員が美食を楽しんだ後1週間後に苦しまない方法での死を約束。
 にも関わらず、なぜかその前に1人ずつ殺されてゆく……。

『当サイトでは、30歳以下の自死志願者を募集しています。先着8名で打ち切りますので、お早めにご応募ください』

 スマホをいじっていた時に、そんな文章が倉橋翠(くらはし 

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【第一話】探偵は甘すぎる~固めプリンにJKクッキーを添えて~

【第一話】探偵は甘すぎる~固めプリンにJKクッキーを添えて~

【あらすじ】
「お父さんの浮気の証拠をつかんでほしいんです!」
朝日野探偵事務所は昭和の匂いのする雑居ビルの二階にひっそりと存在している。
そんな探偵事務所にやって来た訳アリ依頼人は、可憐な女子高生の吉津玲香だった。彼女の健気さに絆された探偵は、手作りクッキーで依頼を引き受けることに。
すでに二度目の成人式を終えた探偵朝日野譲治とその助手、月影静佳。
秀麗な見た目の探偵は拳で、筋肉マッチョな大男の

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創作大賞2024 ミステリー小説部門 作者様&作品一覧(2024/06/20 更新)

創作大賞2024 ミステリー小説部門 作者様&作品一覧(2024/06/20 更新)

noteの創作大賞の各小説部門のページ、作品が入り乱れていてなかなかに見にくいですよね。元々小説向きのサイトではないので仕方ないのですが。少しでも見やすく、また過去にアップロード作品にも光が当たればと、一覧を作成しました。

良かったら💗くださいね♪

※注意事項現在「#ミステリー小説部門」に参加されている方で、作品に「#創作大賞2024」のタグを設定されているnoteを対象としております。

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毒の反哺 第1話 田嶋美月

毒の反哺 第1話 田嶋美月

 2018年6月2日㈯、親友の由奈が死んだ――。

 私は田嶋美月、高校3年生。親友の斎藤由奈とは、同じ高校に入学して以来の親友だった。

 とろくて、人と話すのが苦手で地味な私と、美人で活発で華のある由奈。対照的な二人が親友であることに、まわりはいつも不思議がった。私にとって、由奈は「憧れ」の存在だった。

 そんな由奈が廃墟ビルから転落死した。その日は土曜日で、雨が降っていた。死亡推定時刻は、

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「幻日」 第1話

「幻日」 第1話

あらすじ:

伊崎 朱音は、最近誰かに見られているような気がしていた。それも複数の視線に追われている。 複雑な家庭環境の中、絵画の才能を持つ朱音は、ある日コンクールに出す絵を壊され、駅のホームで背中を押され「音弥」と名乗る男の子と出会う。不思議と音弥に惹かれる朱音は、彼をモデルに絵を描こうと決める。
 犯人が誰かわからないまま、十年前の事件をにおわすような手紙が届く。

 深沢 朋奈は、子連れ同士

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リンナとカンナ【第一話】

リンナとカンナ【第一話】

※この作品は、 noteが開催している #創作大賞2024 に応募しています。

【あらすじ】第二話はこちら
第三話はこちら
第四話はこちら
第五話はこちら

第一話【プロローグ】

 朝から、姉の凛菜が起こした殺人事件でワイドショーは持ち切りだった。環奈は、やれやれとため息をつく。

「私があの時……あの時引き取っていれば……」

 環奈の母は、テレビでそのニュースを見るなり、その場に泣き崩れた

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レインメーカー 第一話

レインメーカー 第一話

本編

 満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。

 百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題

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私を 想って 第一話

私を 想って 第一話

 思春期特有の悩みなら数年我慢すれば解決するけれど、
 私の悩みは一生続くと思う。

「鞠毛さん、そろそろ晩ご飯にしましょう」
 私は台所から呼ぶ涼花さんに「はい」と返事をして、通知表を手にとった。
 気が滅入る。その原因は、通知表の中身ではない。表紙に書かれた自分の名前だ。
 鮎沢鞠毛。
 やっと馴染んできた名前であると同時に、ずっと私を悩ませてきた名前。そしてこれからも悩ませ続けていくのだろう

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「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第1話

「なにかと困る 磯貝プリント株式会社」第1話

第一章 また蓋がなくなりました1 返ってきた蓋

 自転車のチェーンケースがカチャカチャ鳴る。家には母親が乗らなくなったママチャリしかないんだから仕方がない。自分の自転車は原付バイクを買った時に手放した。高校の時だから、かれこれ十年も前になる。それ以来自転車に乗る機会なんてなかったけれど、案外普通に乗れるものなんだなと妙に感動する。
 大通りから逸れて、歩道もない裏道に入るとすぐに、板金工場や寂

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「断罪パラドックス」   第1話

「断罪パラドックス」   第1話

第一章   一条美紀

 お集まりいただきましたみなさまには、本日貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。通常でしたら、土曜日の午後、この体育館では部活動が行われていたでしょうね。昨年度はバスケットボール部が県大会で準優勝だったとか。私もPTA会長になりちょくちょく学校に来るものですから時折体育館を覗きました。若人が真剣にスポーツに取り組む姿は本当に美しいものですね。

 校舎も三年前に建

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ミスティー・ナイツ(第1話 怪盗ミスティー・ナイツ見参!)

ミスティー・ナイツ(第1話 怪盗ミスティー・ナイツ見参!)

 (あらすじ)
 近未来が部隊のサスペンス・ミステリー。怪盗ミスティー・ナイツが活躍する冒険譚です。

 美山誠(みやま まこと)は、都内にある自宅のソファーでそっくりかえって存分にくつろいでいた。3階まである一戸建て。どこまでもやわらかな革張りのソファーに身を沈め、手には赤いシチリア産のワインを満たしたチェコ製のグラス。

 窓枠に美しい彫刻を施されたフランス窓の外には、5月の太陽に照らし出され

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