湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分後に世界が変わる」に収録・スターツ出版文庫版、野イチゴジュニア文庫版。 漆黒婦人がやってくる・「5分で読書 恐怖はSNSからはじまった」に収録・カドカワ読書タイム。

湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分後に世界が変わる」に収録・スターツ出版文庫版、野イチゴジュニア文庫版。 漆黒婦人がやってくる・「5分で読書 恐怖はSNSからはじまった」に収録・カドカワ読書タイム。

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レインメーカー 第一話

本編  満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。  百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題で、島内には様々なアクティビティが存在し娯楽も豊富だ。無人島でありながら何不自由

    • アポカリプスデリバリーピザ

       どうやら世界は、本格的にアポカリプスを迎えているらしい。  アメリカ東海岸ではゾンビが大量発生し、西海岸では様々な特殊能力や形状を持った鮫が人間を食いまくってる。南アメリカ大陸には連日UFOが出現し、空軍と空中戦を繰り広げているし、中東の砂漠地帯で確認されるサンドワームの数は増える一方だ。ドラゴンの襲撃に見舞われたヨーロッパでは、新たに北欧に出現した霜の巨人の驚異も加わり、状況は混迷を極めている。  地球温暖化や第三次世界大戦による終末を想像することはあっても、まさか、

      • コーヒー牛乳とチョコレート 第十三話(完)

         謎を解読した僕は、胡桃を探して校内を巡っていた。居場所を探すならやっぱり、先ずは胡桃の友人をあたるべきだろう。 「楠見くん。まだいてくれてよかった」  お昼まで焼き鳥を焼いていた楠見くんは、午後になってもまだ中庭に留まり作業を続けていた。担当時間が終わっても自主的に残っているようだ。最終日である今日は撤収作業もあるし、人手が多いに越したことはないと考えたのかもしれない。働き者の彼には頭が下がる。 「何度もごめん。あれから胡桃を見てない?」 「いや、俺は見てないけど。風

        • コーヒー牛乳とチョコレート 第十二話

          「楠見くん。胡桃はいる?」  陽炎祭二日目。昨日と同じ要領で、午前中に遊技場の仕事を終わらせ、その足で胡桃が担当する中庭の焼き鳥の屋台に向かったのだけど、そこに胡桃の姿は無かった。胡桃の所在を、数少ない顔馴染みの楠見くんに尋ねる。 「さっきまでいたけど、午前の仕事が終わったらさっさと切り上げたよ。昨日も一緒だったし、てっきり猪口と一緒だと思っていたけど」  面と向かって謝らせてももらえないなんて……胡桃はそんなに僕と顔を合わせたくなかったのか。 「何かあった? 比古も

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        レインメーカー 第一話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第十一話

          『ご来場の皆様へお知らせいたします。陽炎祭一日目は、間もなく終了いたします。どなた様もお忘れ物のないように――』 「嘘っ? もうそんな時間なの?」  ホラーハウスを出た直後。実行委員会による校内放送が流れた。時刻は午後三時四十五分。閉場までは残り十五分なので、帰宅の準備を促す内容のようだ。生徒である僕たちは翌日の準備という名目で、まだ学校に残ることは出来るけど、展示や模擬店は回れなくなるので、謎解きも一旦ここで中断だ。 「名残惜しいけど、初日でスタンプを二つ集められたなら

          コーヒー牛乳とチョコレート 第十一話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第十話

           僕たちは再び食堂に戻り、漫研の羽里先輩から渡された次の謎の封筒を開封することにした。お昼時も終わり、食堂に生徒の姿はまばらだけど、見覚えのある顔が一人。 「二人揃っていると思ったら、一体何事だよ?」 「ちょっと謎解きをすることになって。よかったら楠見くんも一緒にどう?」  休憩所としてたまたま食堂に居合わせていた楠見くんは、挨拶するなり、突然テーブルで謎の封筒を開け始めた僕らに困惑気味だ。状況の説明は開封しながらしていくことにしよう。 「おいおいおい。何だそれは?」

          コーヒー牛乳とチョコレート 第十話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第九話

           午後の担当のクラスメイトに遊技場を引き継いだ僕は、同じく午後の担当に焼き鳥の仕事を引き継いだ胡桃と合流し、一階にある学食へと足を運んでいた。学食は生徒向けの食事、休憩の場所として解放(学食自体は閉まってて、食事は各自持ち込み)されており、僕たちは胡桃が持参した午前中に余った焼き鳥と、僕が屋台で買って来た焼きそばをおかずにしながら、この後の予定を話し合うことにした。 「先ずはどこに行く?」  笑顔で焼き鳥を頬張りながら、胡桃がフロアマップに視線を下ろす。屋外で火を扱ってい

          コーヒー牛乳とチョコレート 第九話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第八話

           十月の謎 コーヒー牛乳とチョコレート  季節は移ろい十月中旬。早いもので僕が陽炎橋高校に入学してから半年が経った。  今日は陽炎橋高校の文化祭、「陽炎祭」の当日だ。一般のお客様も多数来場される都合上、学校という場所が一年で最も活気に溢れる日になることは間違いない。  ちなみに、陽炎祭という名称だけを見たら、地域に古くから伝わる伝統行事のようだが、意外にも市内に類似の名称の祭事は存在せず、本校だけのオリジナリティであるそうだ。  晴天にも恵まれ人出は上々。僕が在籍する一

          コーヒー牛乳とチョコレート 第八話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第七話

          「一度冷房の利いた建物に入ると、もう出たくなくなるね」  そう言って、風花の表情はアイスのようにとろけていた。  一通りテナントのアパレルや雑貨屋で買い物を済ませると、私と風花はミラージュの四階にある休憩スペースで水分補給をしていた。  眼下には窓越しの大通りの景色が広がっているけど、流石に四階から見下ろすと、髪や服の色以外で個人を識別するのは難しい。十人十色はこの場合は比喩ではなく、個人を識別する記号としての意味を持っているように感じられた。大袈裟かもしれないけど、同じ

          コーヒー牛乳とチョコレート 第七話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第六話

           八月の謎 サマータイムアベニュー  私は決して探偵などではない。探偵と呼ばれるべき存在は、そう在りたいと願い、そう在ろうとしている猪口黎人を置いて他にいないからである。私は確かに黎人と一緒に謎を追いかけてるけど、それは相棒という立場で支えているだけであり、少なくとも私は自分のことを探偵だとは思っていない。  だけど、私の自己評価と周りの人間からの評価は必ずしも一致しているわけではないようだ。五月からの三カ月間で、大小様々な日常の謎と出会い、周囲の助けを得ながら解決の糸口

          コーヒー牛乳とチョコレート 第六話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第五話

          「鍵が閉まっているね」  神様はご都合主義を許さないらしい。視聴覚準備室には人の気配が無いうえに、施錠されていて中には入れなかった。 「君達、映画研究会に何か用?」  視聴覚準備室前の僕たちのやり取りが気になったのだろうか。向かいにある地歴教室から、一人の女子生徒が顔を覗かせた。陽炎橋高校はリボンやネクタイの色で学年が分かるようになっている。緑色のリボンは二年生なので先輩のようだ。切れ長の目と赤縁の眼鏡が印象的で、百七十センチ近い長身の持ち主だ。髪形は長い黒髪をポニーテ

          コーヒー牛乳とチョコレート 第五話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第四話

           七月の謎 怪人蜥蜴人間陽炎橋高校に現る  夜の学校で目撃する恐ろしいものといえば何だろう?  よくあるイメージとしてはやはり、幽霊の類が鉄板だろう。あるいは学校に伝わるいわゆる七不思議だろうか。普段は十二段のはずの階段が十三段(階段の数なんていちいち数えたことないけど)になっているとか、音楽室の飾られた音楽家の肖像画の目が動く(そもそも僕の通った小、中、高の音楽室には飾られていなかったけど)とか。夜の学校でストレッチャーを押す看護師に追いかけられる(なぜ学校で看護師?)と

          コーヒー牛乳とチョコレート 第四話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第三話

          「校舎で黎人と会うのは初めてだよね」 「そういえばそうだね。普段は入れ違いで登下校だから」  二日後。私は普段よりも三十分早く登校して生徒玄関で黎人と落ち合った。黎人は今日も塾だけど、一本遅いバスでもギリギリ間に合うからと学校に残ってくれていた。答え合わせはやっぱり二人でしたいから。 「あれ、黎人の友達?」 「何だ風雅か」  下駄箱で上履きに履き替えていると、通りがかった全日制の男子生徒が声をかけてきた。お互いに名前を呼んだということは、黎人の友達だろうか? 長めの髪の

          コーヒー牛乳とチョコレート 第三話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第二話

           翌日。私は再び登校前に公園で黎人と落ち合っていた。デートなら嬉しかったんだけど、目的はもちろん捜査の進捗状況を確認するためだ。夜、家に帰ってからメッセージで多少はやり取りはしたけど、話し合いはやっぱり、直接会った方が捗る。 「黎人の予想通り、本を借りていたのは定時制の生徒だったよ。名前は生井好さんで、年齢は五十六歳。図書室を利用している定時制の生徒はほとんどいないことも先生に確認済み。これも推理の補強になるよね」 「僕の予想と矛盾しない。東さんから話を聞いた時、随分と珍し

          コーヒー牛乳とチョコレート 第二話

          コーヒー牛乳とチョコレート 第一話

          五月の謎 ライラックライブラリー 「本当に五月? 全日制は体育とか大変そう」  お店の外に出ると、高い位置から太陽が激しく自己主張していた。流石は陽キャのトップに君臨する太陽様。まだ五月だというのに夏顔負けの存在感だ。  体の火照りを感じながら、私は店先のボードを営業中から準備中へと切り替えた。陽炎橋市のオフィス街の近くで営業する「比古さん食堂」。ここは私のお母さん、比古玄が経営する食堂で、娘の私も日中はお店を手伝っている。今年でオープン十年目。ありがたいことに平日はオフ

          コーヒー牛乳とチョコレート 第一話

          罪花狂咲 第十八話(完)

           綴は車を走らせ、永士と共に越無村を目指していた。  泉太の起こした事件の混乱は未だ冷めやらない。一連の不審死の関係者であることや小暮の遺体の第一発見者であることから、二人も連日警察から事情を聞かれていた。二人に嫌疑がかかることはなかったが、呪いという常識外れの現象が関係しているために真実を伝えることが出来ない。泉太が鈴木を殺害してしまったことは事実だし、もうこれ以上二人に出来ること何もなかった。 「鈴木堅城の件、永士くんが泉太さんに吹き込んだの?」  ずっと抱いていた

          罪花狂咲 第十八話(完)