湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分…

湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分後に世界が変わる」に収録・スターツ出版文庫版、野イチゴジュニア文庫版。 漆黒婦人がやってくる・「5分で読書 恐怖はSNSからはじまった」に収録・カドカワ読書タイム。

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レインメーカー 第一話

本編  満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。  百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題で、島内には様々なアクティビティが存在し娯楽も豊富だ。無人島でありながら何不自由

    • 烏賊墨色ノ悪夢 第十四話

       12月12日午後。  房総のアトリエでの事件から一ヵ月後。  虎落繭美は世間を騒がせた『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』内に仮名で登場した警察官であることが発覚。一部の情報を民間人に漏らしていた疑惑も持ち上がり、正式な処分が決定するまでの間、自宅謹慎を命じられていた。 「はい。虎落です」  繭美のスマホに着信が届いた。相手は先輩刑事の曲木房一郎だ。曲木は繭美に対して協力的で、謹慎中の彼女のことを何かと気にかけてくれている。

      • 烏賊墨色ノ悪夢 第十三話

         11月14日20時。 「皆さん、こんにちは、こんばんは! 今日もあなたをちょっと不思議な世界へと導く。怪奇系ストーリーテラーのクリオネさんです」  『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』というタイトルがつけられたその動画は、クリオネさんの定番の挨拶から始まった。画面の中では暗い部屋の中でライトに照らされた、黒いスーツ姿の小栗峰行が、神妙な面持ちで語り始める。 「今回僕が紹介するのは【FUSCUS】という画像生成AIに纏わる世にも恐

        • 烏賊墨色ノ悪夢 第十二話

          「いらっしゃい雪菜。会えて嬉しいわ」 「つい最近も会ったじゃん。瞳子ったら大袈裟なんだから」  烏丸家を訪れた雪菜を瞳子が満面の笑顔で出迎えた。シャワーを浴びて髪も整え、服も先日買いそろえた新しい物に着替えている。 「瞳子、服の趣味変わった?」  今日の瞳子は黒いライダースジャケット白いカットソー、ダメージデニムを合わせた辛めのカジュアルスタイルだった。スタイルが良いので何を着ても似合うが、これまではブラウスやスカートを取り入れたファッションを好んでいたので、印象がガラ

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        レインメーカー 第一話

          烏賊墨色ノ悪夢 第十一話

          「三年前。美墨と一緒に【FUSCUS】の開発に専念するため、二人でこの屋敷に移り住んだ。美墨のためにアトリエも併設したわ。私達の出会ったオスロは港町だったから。海の見える場所がいいなと思って」 「海棠美墨が亡くなるまでの一年間、ずっと【FUSCUS】の開発を?」 「そうよ。美墨の性格、趣味嗜好、画風、記憶、思考パターン、美墨を構成するあらゆる要素を、私は当時開発していたAIに事細かに学習させていった。画風の修正には美墨からの意見を無限に取り入れて、画像生成AIとしての【F

          烏賊墨色ノ悪夢 第十一話

          烏賊墨色ノ悪夢 第十話

           11月10日。 「くそっ! 八起深夜はいったいどこにいる」  進展しない状況に苛立ち、光賢は都内のコンビニの駐車場に止めた車の運転席で、飲み干したペットボトルを感情的に握り潰した。直前まで生前の海棠美墨と交流があったという画廊の主人から話しを聞いていたのだが、八起深夜の所在に関する有力な情報を得ることは出来なかった。  ここ数日は、一向に足取りの追えない八起深夜に代わり、彼女のパートナーだった海棠美墨に焦点を当てて調べてきた。  近年、デジタルアートの分野は目覚まし

          烏賊墨色ノ悪夢 第十話

          烏賊墨色ノ悪夢 第九話

           11月9日午後。 「虎落。ちゃんと休んでいるのか? 何だかやつれて見えるぞ」 「そう見えますか?」  繭美は勤務する鈍山警察署の屋上で、先輩刑事の曲木房一郎と缶コーヒーを飲み交わしていた。繭美が先月から、仕事の傍ら別件で何かを調べていることは曲木も薄々気づいていた。優秀な繭美に限って妙なことにはならないだろうとこれまでは静観していたが、ここ数日は疲労感が目に見えている。流石に心配だ。 「例の女子大学生の転落死についてまだ調べてるのか? お前の知り合いらしいし、入れ込む

          烏賊墨色ノ悪夢 第九話

          烏賊墨色ノ悪夢 第八話

           烏丸瞳子は空を飛び、世界を俯瞰する。    水面に反射した瞳子は一羽の烏の姿をしていた。飛び方なんて誰にも教わったことはないのに、二枚の翼でどこまでも飛んでいける。重力の枷から解き放たれた体は、これまでにない自由を謳歌出来る。自分は人だった頃よりも小さくなっているのに、眼下に広がる街並みは人間だった頃よりも小さい。人間がどれほど矮小な生き物なのかを、鳥の目線が教えてくれた。  野を越え、森を越え、山を越え、墓を越え、住宅地を越え、繁華街を越え、柵を越え、かつて瞳子だった烏

          烏賊墨色ノ悪夢 第八話

          烏賊墨色ノ悪夢 第七話

           11月3日午後。 「雨谷玖瑠美の兄の、雨谷光賢だ。普段はIT系のジャーナリストをしている」 「烏丸瞳子。高校二年生です」 「僕は小栗峰行。普段は【クリオネさん】名義で動画投稿をしてます。本名は公表してないので、オフレコでお願いしますよ」 「鈍山警察署刑事課所属の虎落繭美よ。あくまでも現状は個人的な捜査の域だけどね」  段永樹の死の二日後。都合を合わせた四人は、光賢が借りた都内の会議用のレンタルルームへと集合していた。他三人と直に連絡を取った繭美以外はこれが初対面な

          烏賊墨色ノ悪夢 第七話

          烏賊墨色ノ悪夢 第六話

           8年前。ノルウェーの首都オスロで、二人の日本人女性が出会った。 「時々ここで絵を描いているわよね」 「あなた誰?」 「日本語で返してくれた。やっぱり日本人なんだ」  オスロの都市部から北西に三キロ程いった地点にあるフログネル公園で、風景をスケッチしていた小柄な女性に、長身の女性が笑顔で語り掛ける。小柄な女性は長い黒髪に白いインナーカラーを入れており、服装もレザーのライダースジャケットにダメージデニムとカジュアルな印象だ。長身の女性は対照的に、黒髪のショートボブに、タート

          烏賊墨色ノ悪夢 第六話

          烏賊墨色ノ悪夢 第五話

           段永樹の死亡現場に居合わせていた瞳子は警察への証言を終えた後、ショッキングな光景を目の当たりにした影響で体調不良を訴え、近くの総合病院で診察を受けていた。幸いにも少し休んだら不調は回復し、これから帰路へとつくところだ。 「烏丸瞳子さんね?」  病院を出た直後、瞳子にスーツ姿の女性が声をかける。段が亡くなったとの一報を受けて、急遽出先から戻って来た刑事の虎落繭美だ。段の死は繭美の担当ではないが、どうしても目撃者の証言を得たくてこうして接触を図った。 「どちら様ですか?」

          烏賊墨色ノ悪夢 第五話

          烏賊墨色ノ悪夢 第四話

           11月1日午前。 「最後までご視聴いただきありがとうございました。また次の動画でお会いしましょう! バイバイ!」  編集した動画を通しで確認すると、【クリオネさん】は確認作業を終えて大きく伸びをした。【クリオネさん】こと小栗峰行は、チャンネル登録者数五十万人を超える人気動画投稿者だ。  得意ジャンルはオカルトであり、最新の怪談や都市伝説などを紹介し、そこに心理学や民俗学の知識から、独自の分析を加えた解説動画が人気を博している。三年前、大学生二年生の頃から動画投稿活動を

          烏賊墨色ノ悪夢 第四話

          烏賊墨色ノ悪夢 第三話

          「私もいつかこんな絵が描けたらな」  瞳子は自室の机で画家、海棠美墨の画集を開き、中でも一番のお気に入りである、海外の都市公園の池をセピア調で描いた「絆」という題名の作品を眺めていた。美墨がノルウェーの首都オスロで活動していた時期に描かれた初期の作品だが、一目見た時から瞳子はこの作品の虜だった。  都市公園の池を優雅に泳ぐ水鳥たちと、水面に反射する雄大な雲との共演が見ていて楽しい。同時に、行ったこともない土地にも関わらず、セピアの色味が郷愁のようなものを感じさせてくれる。

          烏賊墨色ノ悪夢 第三話

          烏賊墨色ノ悪夢 第二話

           10月26日正午。 「段永樹です。大変な時期にお呼びだてしてしまい申し訳ありません」 「……佐藤根佐那です」 「玖瑠美の兄の雨谷光賢だ」  玖瑠美の葬儀が終わってから二日後。光賢は玖瑠美の通っていた大学に近い喫茶店で、玖瑠美の友人の段永樹、佐藤根佐那の二人と相席していた。  通夜の会場で妹の友人だった二人と知り合い、後日改めて顔合わせする約束をしていたのだ。玖瑠美の死からまだ十日。隈の目立つ光賢の面差しには、不条理な現実に対する悲愴感と怨色とが混在している。長身と色白

          烏賊墨色ノ悪夢 第二話

          烏賊墨色ノ悪夢 第一話

           自宅で一心不乱にデスクワークに励んでいた雨谷光賢がPCのモニターを確認すると、時刻は日付変わって10月16日の深夜1時を回ったところだった。  光賢はITジャーナリストしてビジネス誌やカルチャー誌に連載を持っており、メタバースやAIといった先端技術および、最新のガジェット等をテーマにした記事を得意としている。  この日も取材から戻るなり、風呂にも入らぬまま取材記事をまとめていた。記事は生物だ。自らが見聞きした情報を新鮮な内に文章に落とし込んでおきたい。 「玖瑠美の喜ぶ

          烏賊墨色ノ悪夢 第一話

          レインメーカー 第十八話(完)

          「……ここは?」  改が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。頭がボーっとする中、かすみ目を瞬かせて周りの様子を伺う。真っ先に視界に飛び込んできたのは、来客用の椅子に座る渚が、寝息を立てている姿だった。 「……渚?」  眠りが浅かったようで、渚は呼び掛けに反応して、直ぐに目覚めた。最初は何が起きたか分からずに目をパチクリさせ、改と目が合った瞬間、感極まって大粒の涙を浮かべた 「馬鹿! 心配したんだから。改くんがこのまま目覚めなかったどうしようって、私、不安で不安で

          レインメーカー 第十八話(完)