湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分…

湖城マコト

湖城マコトと申します。主に小説を書いています。 書籍化作品 アンドロイドの夏・「5分後に世界が変わる」に収録・スターツ出版文庫版、野イチゴジュニア文庫版。 漆黒婦人がやってくる・「5分で読書 恐怖はSNSからはじまった」に収録・カドカワ読書タイム。

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固定された記事

レインメーカー 第一話

本編  満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している…

湖城マコト
2か月前
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罪花狂咲 第七話

「三年前。今回と似た連続不審死が発生しました。遺体はみな胸部を大きく損傷し、心臓は裂けてまるで花が開花したかのようだった。異様な死に方ではありましたが、事件性を…

湖城マコト
2時間前
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罪花狂咲 第六話

『香苗。具合は大丈夫? これからお見舞いに行ってもいいかな? 買い物していくから、何か必要なものがあれば言って』  姫野香苗はベッドに横たわり、綴からは送られて…

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罪花狂咲 第五話

 数日後。片桐美夕の葬儀が執り行われた。  それまで平穏な日常を送っていた少女の突然の死であることに加え、美夕には同級生を恐喝し、自殺未遂の原因を作った疑惑が浮…

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罪花狂咲 第四話

「もう一日くらいお休みしたら?」 「大丈夫。学校に行く方が気が紛れそうだし」  疲労感を隠しきれない様子で制服に袖を通す美夕の姿に、小夜子は不安を覚えずにはいら…

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罪花狂咲 第三話

「こないだのあれ、いったい何だったんだろうね」  梨恋キャンプ場でのバーベキューから数日後。大学内のカフェテリアで一服していた倉田隼人は廃村での奇妙な体験を思い…

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罪花狂咲 第二話

「近くに廃村があると知って事前に色々と調べて来たんですが、どうやらいわくつきの場所らしいですよ」  持ち寄った食材もほぼ使い切り、バーベキューが終盤に差し掛かっ…

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罪花狂咲 第一話

本文  実丸様。あの日、あなた様と出会ったことで私の人生は変わりました。  あなた様は私が生まれて初めて恋焦がれたお方。  外の世界を知らない田舎娘の私にとって、…

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烏賊墨色ノ悪夢 第十六話(完)

 1月12日午前。  繭美がノルウェーから帰国してから二週間。  日本国内では【FUSCUS】に関連したと思われる怪死がさらに増加している。最初の犠牲者である二…

湖城マコト
4週間前
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烏賊墨色ノ悪夢 第十五話

 12月29日午後。  小栗峰行の死から二週間後。繭美はノルウェーの首都オスロを訪れ、都市部から北西三キロに位置するヴィラーゲン彫刻公園を訪れていた。この地を訪…

湖城マコト
4週間前
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烏賊墨色ノ悪夢 第十四話

 12月12日午後。  房総のアトリエでの事件から一ヵ月後。  虎落繭美は世間を騒がせた『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前…

湖城マコト
1か月前
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烏賊墨色ノ悪夢 第十三話

 11月14日20時。 「皆さん、こんにちは、こんばんは! 今日もあなたをちょっと不思議な世界へと導く。怪奇系ストーリーテラーのクリオネさんです」  『そのAI…

湖城マコト
1か月前
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烏賊墨色ノ悪夢 第十二話

「いらっしゃい雪菜。会えて嬉しいわ」 「つい最近も会ったじゃん。瞳子ったら大袈裟なんだから」  烏丸家を訪れた雪菜を瞳子が満面の笑顔で出迎えた。シャワーを浴びて…

湖城マコト
1か月前

烏賊墨色ノ悪夢 第十一話

「三年前。美墨と一緒に【FUSCUS】の開発に専念するため、二人でこの屋敷に移り住んだ。美墨のためにアトリエも併設したわ。私達の出会ったオスロは港町だったから。…

湖城マコト
1か月前

烏賊墨色ノ悪夢 第十話

 11月10日。 「くそっ! 八起深夜はいったいどこにいる」  進展しない状況に苛立ち、光賢は都内のコンビニの駐車場に止めた車の運転席で、飲み干したペットボトル…

湖城マコト
1か月前
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烏賊墨色ノ悪夢 第九話

 11月9日午後。 「虎落。ちゃんと休んでいるのか? 何だかやつれて見えるぞ」 「そう見えますか?」  繭美は勤務する鈍山警察署の屋上で、先輩刑事の曲木房一郎と…

湖城マコト
1か月前
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レインメーカー 第一話

レインメーカー 第一話

本編

 満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。

 百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題

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罪花狂咲 第七話

罪花狂咲 第七話

「三年前。今回と似た連続不審死が発生しました。遺体はみな胸部を大きく損傷し、心臓は裂けてまるで花が開花したかのようだった。異様な死に方ではありましたが、事件性を示す所見は見当たらず、結局捜査は途中で打ち切りとなってしまいました」

 車を走らせながら、小暮が静かに語り出した。

「そのことに納得がいかず、個人で捜査を続けた刑事がいました。一之瀬郷太、当時私とバディを組んでいた男です。最初に遺体で見

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罪花狂咲 第六話

罪花狂咲 第六話

『香苗。具合は大丈夫? これからお見舞いに行ってもいいかな? 買い物していくから、何か必要なものがあれば言って』

 姫野香苗はベッドに横たわり、綴からは送られてきたメッセージを確認していた。

 体調が優れず、ここ三日間は大学もアルバイトも休み、家に閉じこもっていた。
 バーベキュー明けから感じていた胸の違和感は日に日に大きくなり、最近は鋭い痛みを感じる日も増えた。竜崎と美夕、すでに関係者が二人

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罪花狂咲 第五話

罪花狂咲 第五話

 数日後。片桐美夕の葬儀が執り行われた。
 それまで平穏な日常を送っていた少女の突然の死であることに加え、美夕には同級生を恐喝し、自殺未遂の原因を作った疑惑が浮上。美夕の親族は混乱を極めていた。そういった事情から担任教師を除く学校関係者の参列は見送られ、親族と一部のごく親しい知人のみのが参列。永士や七草兄妹も顔を揃えていた。

「俺と海鈴はもうしばらく残るが、永士はどうする?」

 葬儀が終わった

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罪花狂咲 第四話

罪花狂咲 第四話

「もう一日くらいお休みしたら?」
「大丈夫。学校に行く方が気が紛れそうだし」

 疲労感を隠しきれない様子で制服に袖を通す美夕の姿に、小夜子は不安を覚えずにはいられない。普段は一人暮らしをしている小夜子は、美夕のことが心配で、ここ数日は実家に身を寄せていた。

 三日前。竜崎信義が亡くなった。美夕との待ち合わせ場所に向かう際に歩道橋の階段から転落。その死には謎が多く、事件事故の両面で警察が現在も調

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罪花狂咲 第三話

罪花狂咲 第三話

「こないだのあれ、いったい何だったんだろうね」

 梨恋キャンプ場でのバーベキューから数日後。大学内のカフェテリアで一服していた倉田隼人は廃村での奇妙な体験を思い起こしていた。向かいの席では竜崎信良がコーヒーを啜っている。姫野香苗、真中綴の二人はこの日、午後の講義がなかったためすでに大学を後にしている。

「隼人、その話なら幻覚だったてことで決着しただろう」
「直後はパニクってたからそれで納得した

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罪花狂咲 第二話

罪花狂咲 第二話

「近くに廃村があると知って事前に色々と調べて来たんですが、どうやらいわくつきの場所らしいですよ」

 持ち寄った食材もほぼ使い切り、バーベキューが終盤に差し掛かった頃、温めていた話題を倉田が切り出した。

「廃村があるとは聞いていましたが、いわくつきというのは初耳ですね」

 管理人から廃村の存在を聞かされていた泉太が倉田の話題に興味を示す。噂話として楽しむ程度ならば怖い話は嫌いではない。泉太同様

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罪花狂咲 第一話

罪花狂咲 第一話

本文

 実丸様。あの日、あなた様と出会ったことで私の人生は変わりました。
 あなた様は私が生まれて初めて恋焦がれたお方。
 外の世界を知らない田舎娘の私にとって、外からやって来た実丸様はとても輝いて見えました。

 例えあなた様が大罪を犯した逃亡者だと知っても、あなたに恋焦がれるこの気持ちに一切の迷いはございません。これこそが殿方を愛するということなのでしょう。そんな己を誇らしく思います。

 

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烏賊墨色ノ悪夢 第十六話(完)

烏賊墨色ノ悪夢 第十六話(完)

 1月12日午前。

 繭美がノルウェーから帰国してから二週間。
 日本国内では【FUSCUS】に関連したと思われる怪死がさらに増加している。最初の犠牲者である二輪和仁の死から三ヵ月余り、【FUSCUS】による犠牲者は確認されているだけでも十万人を超えると推計されてる。把握されていない事例も含めれば、その件数はさらに跳ね上がるだろう。すでに【FUSCUS】による怪死は、前代未聞の災厄として世間にも

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烏賊墨色ノ悪夢 第十五話

烏賊墨色ノ悪夢 第十五話

 12月29日午後。

 小栗峰行の死から二週間後。繭美はノルウェーの首都オスロを訪れ、都市部から北西三キロに位置するヴィラーゲン彫刻公園を訪れていた。この地を訪れた理由は一つ、峰行から受け取った手紙で、12月29日にこの場所で会いたいと海棠美墨に呼び出されたためだ。手紙を読んだ翌日から遠征の準備を始め、海外へ向かうためのパスポートの取得や現地の下調べ、航空券や宿泊先の手配、実際の移動時間等を総合

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烏賊墨色ノ悪夢 第十四話

烏賊墨色ノ悪夢 第十四話

 12月12日午後。

 房総のアトリエでの事件から一ヵ月後。
 虎落繭美は世間を騒がせた『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』内に仮名で登場した警察官であることが発覚。一部の情報を民間人に漏らしていた疑惑も持ち上がり、正式な処分が決定するまでの間、自宅謹慎を命じられていた。

「はい。虎落です」

 繭美のスマホに着信が届いた。相手は先輩刑事の曲木房一郎だ。

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烏賊墨色ノ悪夢 第十三話

烏賊墨色ノ悪夢 第十三話

 11月14日20時。

「皆さん、こんにちは、こんばんは! 今日もあなたをちょっと不思議な世界へと導く。怪奇系ストーリーテラーのクリオネさんです」

 『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』というタイトルがつけられたその動画は、クリオネさんの定番の挨拶から始まった。画面の中では暗い部屋の中でライトに照らされた、黒いスーツ姿の小栗峰行が、神妙な面持ちで語り始め

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烏賊墨色ノ悪夢 第十二話

烏賊墨色ノ悪夢 第十二話

「いらっしゃい雪菜。会えて嬉しいわ」
「つい最近も会ったじゃん。瞳子ったら大袈裟なんだから」

 烏丸家を訪れた雪菜を瞳子が満面の笑顔で出迎えた。シャワーを浴びて髪も整え、服も先日買いそろえた新しい物に着替えている。

「瞳子、服の趣味変わった?」

 今日の瞳子は黒いライダースジャケット白いカットソー、ダメージデニムを合わせた辛めのカジュアルスタイルだった。スタイルが良いので何を着ても似合うが、

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烏賊墨色ノ悪夢 第十一話

烏賊墨色ノ悪夢 第十一話

「三年前。美墨と一緒に【FUSCUS】の開発に専念するため、二人でこの屋敷に移り住んだ。美墨のためにアトリエも併設したわ。私達の出会ったオスロは港町だったから。海の見える場所がいいなと思って」

「海棠美墨が亡くなるまでの一年間、ずっと【FUSCUS】の開発を?」

「そうよ。美墨の性格、趣味嗜好、画風、記憶、思考パターン、美墨を構成するあらゆる要素を、私は当時開発していたAIに事細かに学習させて

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烏賊墨色ノ悪夢 第十話

烏賊墨色ノ悪夢 第十話

 11月10日。

「くそっ! 八起深夜はいったいどこにいる」

 進展しない状況に苛立ち、光賢は都内のコンビニの駐車場に止めた車の運転席で、飲み干したペットボトルを感情的に握り潰した。直前まで生前の海棠美墨と交流があったという画廊の主人から話しを聞いていたのだが、八起深夜の所在に関する有力な情報を得ることは出来なかった。

 ここ数日は、一向に足取りの追えない八起深夜に代わり、彼女のパートナーだ

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烏賊墨色ノ悪夢 第九話

烏賊墨色ノ悪夢 第九話

 11月9日午後。

「虎落。ちゃんと休んでいるのか? 何だかやつれて見えるぞ」
「そう見えますか?」

 繭美は勤務する鈍山警察署の屋上で、先輩刑事の曲木房一郎と缶コーヒーを飲み交わしていた。繭美が先月から、仕事の傍ら別件で何かを調べていることは曲木も薄々気づいていた。優秀な繭美に限って妙なことにはならないだろうとこれまでは静観していたが、ここ数日は疲労感が目に見えている。流石に心配だ。

「例

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