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レインメーカー 第一話
本編
満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。
百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題
烏賊墨色ノ悪夢 第十六話(完)
1月12日午前。
繭美がノルウェーから帰国してから二週間。
日本国内では【FUSCUS】に関連したと思われる怪死がさらに増加している。最初の犠牲者である二輪和仁の死から三ヵ月余り、【FUSCUS】による犠牲者は確認されているだけでも十万人を超えると推計されてる。把握されていない事例も含めれば、その件数はさらに跳ね上がるだろう。すでに【FUSCUS】による怪死は、前代未聞の災厄として世間にも
烏賊墨色ノ悪夢 第十五話
12月29日午後。
小栗峰行の死から二週間後。繭美はノルウェーの首都オスロを訪れ、都市部から北西三キロに位置するヴィラーゲン彫刻公園を訪れていた。この地を訪れた理由は一つ、峰行から受け取った手紙で、12月29日にこの場所で会いたいと海棠美墨に呼び出されたためだ。手紙を読んだ翌日から遠征の準備を始め、海外へ向かうためのパスポートの取得や現地の下調べ、航空券や宿泊先の手配、実際の移動時間等を総合
烏賊墨色ノ悪夢 第十四話
12月12日午後。
房総のアトリエでの事件から一ヵ月後。
虎落繭美は世間を騒がせた『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』内に仮名で登場した警察官であることが発覚。一部の情報を民間人に漏らしていた疑惑も持ち上がり、正式な処分が決定するまでの間、自宅謹慎を命じられていた。
「はい。虎落です」
繭美のスマホに着信が届いた。相手は先輩刑事の曲木房一郎だ。
烏賊墨色ノ悪夢 第十三話
11月14日20時。
「皆さん、こんにちは、こんばんは! 今日もあなたをちょっと不思議な世界へと導く。怪奇系ストーリーテラーのクリオネさんです」
『そのAIは人間の死を描き取る? 画像生成AI【FUSCUS】の全て・前編』というタイトルがつけられたその動画は、クリオネさんの定番の挨拶から始まった。画面の中では暗い部屋の中でライトに照らされた、黒いスーツ姿の小栗峰行が、神妙な面持ちで語り始め
烏賊墨色ノ悪夢 第十二話
「いらっしゃい雪菜。会えて嬉しいわ」
「つい最近も会ったじゃん。瞳子ったら大袈裟なんだから」
烏丸家を訪れた雪菜を瞳子が満面の笑顔で出迎えた。シャワーを浴びて髪も整え、服も先日買いそろえた新しい物に着替えている。
「瞳子、服の趣味変わった?」
今日の瞳子は黒いライダースジャケット白いカットソー、ダメージデニムを合わせた辛めのカジュアルスタイルだった。スタイルが良いので何を着ても似合うが、
烏賊墨色ノ悪夢 第十一話
「三年前。美墨と一緒に【FUSCUS】の開発に専念するため、二人でこの屋敷に移り住んだ。美墨のためにアトリエも併設したわ。私達の出会ったオスロは港町だったから。海の見える場所がいいなと思って」
「海棠美墨が亡くなるまでの一年間、ずっと【FUSCUS】の開発を?」
「そうよ。美墨の性格、趣味嗜好、画風、記憶、思考パターン、美墨を構成するあらゆる要素を、私は当時開発していたAIに事細かに学習させて
烏賊墨色ノ悪夢 第十話
11月10日。
「くそっ! 八起深夜はいったいどこにいる」
進展しない状況に苛立ち、光賢は都内のコンビニの駐車場に止めた車の運転席で、飲み干したペットボトルを感情的に握り潰した。直前まで生前の海棠美墨と交流があったという画廊の主人から話しを聞いていたのだが、八起深夜の所在に関する有力な情報を得ることは出来なかった。
ここ数日は、一向に足取りの追えない八起深夜に代わり、彼女のパートナーだ
烏賊墨色ノ悪夢 第九話
11月9日午後。
「虎落。ちゃんと休んでいるのか? 何だかやつれて見えるぞ」
「そう見えますか?」
繭美は勤務する鈍山警察署の屋上で、先輩刑事の曲木房一郎と缶コーヒーを飲み交わしていた。繭美が先月から、仕事の傍ら別件で何かを調べていることは曲木も薄々気づいていた。優秀な繭美に限って妙なことにはならないだろうとこれまでは静観していたが、ここ数日は疲労感が目に見えている。流石に心配だ。
「例