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罪花狂咲 第二話

「近くに廃村があると知って事前に色々と調べて来たんですが、どうやらいわくつきの場所らしいですよ」

 持ち寄った食材もほぼ使い切り、バーベキューが終盤に差し掛かった頃、温めていた話題を倉田が切り出した。

「廃村があるとは聞いていましたが、いわくつきというのは初耳ですね」

 管理人から廃村の存在を聞かされていた泉太が倉田の話題に興味を示す。噂話として楽しむ程度ならば怖い話は嫌いではない。泉太同様、ほとんどの者が倉田の話に興味を示す中、怖い話を苦手としている海鈴と小夜子は、何も食後にこんな話をしなくてもと、目を細めている。

「江戸時代後期に村で住民の大量死があったそうで、村は一度廃村となったそうです。大正期になってからは林業の拠点とすべく、廃村だった土地を再び居住地として活用し始め、村は再び活気に溢れていたそうですが、昭和初期に入った頃から不可解な出来事が立て続けに起こるようになり、一人また一人と村を去っていた。村を去った者たちは口々に、あの村は呪われていると話したそうです。そうして、昭和中期には村は再び廃村と化した」

 身振り手振りを加えたり、言葉の要所要所で抑揚を加えたり、倉田は語り部としての立場を満喫している。

「呪いで廃村となった村ですか。雰囲気は抜群ですね」
「でしょう。そこで提案なのですが、食後の運動がてらみんなで村を見に行ってみませんか?」
「肝試しは夏の定番だよな」
「ノスタルジーは好きよ」

 余興に語った現場は直ぐ近くにある。流れとはしてはある意味自然だ。
 竜崎と香苗は面白そうだと乗り気だが、終始興味なさげだった永士と綴はまったくの無反応。怖い話が苦手な海鈴と小夜子は絶対に嫌と言わんばかりにあからまさに首を振っているが、姉とは対照的に美夕は興味津々といった様子で目を輝かせている。

「倉田さん、流石にそれを良くありませんよ」

 意外にも真っ先に反論を口にしたのは、怖い話を一番乗り気で聞いていた泉太であった。

「怖い話として楽しむ分には俺も嫌いじゃないが、勝手に廃村に立ち入るのは非常識だし何より古い建物ばかりで危ない。俺は学生連れの保護者でもああるし、危ない真似には賛成できません」

 正論を受けて場が一瞬静まり返る。泉太の発言に海鈴と小夜子はホッとした様子だが、後ろの方で美夕だけは、「空気読みなよ泉太さん」と小声で悪態をついていた。

「嫌だな。冗談に決まっているじゃないですか」

 これ以上場の空気を悪くしないように倉田は咄嗟に笑顔で取り繕った。本心ではないはずだが素直に反省しているように見えるのは、一つの才能かもしれない。
 
 ※※※

 バーベキューが終わっても直ぐに帰路へはつかず、都会から離れた自然の中で各々が穏やかな午後を満喫していた。綴はキャンピングチェアの上で読書にふけり、海鈴と小夜子は涼を求めて湖の周りを散歩するなどしている。

 そこに、追加で飲み物の買い出しに車で出かけていた泉太と永士が戻って来たのだが。

「小夜子、美夕ちゃんたちは?」

 倉田、竜崎、香苗、そして美夕の姿が見えないことに泉太は首を傾げる。

「四人で敷地内を散歩してくるって言ってたけど、そういえば遅いわね」

 それほど広くないキャンプ場だ。一周したところで大した時間はかからないはずだが、ここ十分程、姿はおろか話声一つ聞こえてこない。四人は廃村探索に興味を示していた。行き先はまず間違いないだろう。

「もしかして、例の廃村に向かったのか」
「ありえますね。竜崎くんと香苗はノリ重視みたいなところがあるし、言い出した手前、倉田くんも引き下がれないでしょうし」
「ごめん。もっと注意深く見ておくべきだった。美夕ってばけっこう考えなしなところがあるし」

 事態を察し、泉太の周りに全員が集まる。仲間達だけならばともかく、泉太たちの連れである美夕が一緒であることに責任を感じているのだろう。この時ばかりは綴も積極的に参加した。

「海鈴、美夕ちゃんに電話してみてくれ」
「駄目。繋がらないみたい。向こうは電波が弱いのかも」
「参ったな」

 小夜子や綴もそれぞれ発信してみるが、海鈴同様に繋がる気配はない。連絡を取ることは難しそうだ。

「そうそう危険な目には遭わないだろうが、何かあってからじゃ遅い。俺は四人を捜しに行ってくる」
「僕も行くよ。人手が多いに越したことはない」

 泉太ほどの危機感は抱いていないが、この場で待機しているよりは面白そうだからと思い、永士も名乗りを上げた。純粋な正義感だと受け取ったのだろう。泉太は「助かる」と微笑んだ。

「美夕が心配だし、私も行くわ」
「お兄ちゃん、私も行く」

 姉として小夜子も参加に迷いはない。控えめな海鈴については、泉太や永士となるべく離れたくないからという、やや消極的な理由からだ。

「もしかしたら入れ違いで四人が戻ってくるかもしれない。真中さんはこの場で待機していてください」
「分かりました。倉田くんたちが戻ってきたら、先にお説教の一つでも加えておきます。皆さんお気をつけて」

 入れ違いとなって混乱が生じては本末転倒だ。冷静な綴なら上手く立ち振る舞ってくれるはずだ。

「クマよけにラジオを持ってきておいてよかった。足元にも十分注意しろよ」

 携帯ラジオを手にした泉太を先頭に、四人は廃村方面へと続く森の中へと足を踏み入れた。
 
 ※※※

「分かれ道か。参ったな」

 草の生い茂る道を三百メートルほど進んだところで、道が二又に別れた。倉田たちも一度道に迷ったのか、草が踏まれた跡が両方に残っている。片方が間違った道で、途中で正しい道へと引き返したのだろう。ある程度進んでみないと、最終的にどちらの道に進んだのか判断がつかない。

「時間が惜しい。二手に分かれよう。俺は左の道を見てくるから、永士たちは右の道を見て来てくれ。行き止まりだったり、一向に村が見えてこない時はこの二又まで引き返して連絡を待つ。これでいいか?」
「僕は問題ないよ」

 女性二人だけで行動させるのは気が引ける。三対一、年長者で男性の泉太が単独行動を取るのが無難だ。まだ学生だが永士は年齢以上に落ち着いているし、成人の小夜子もいる。チーム分けとしては妥当なところだ。

「泉太くん、一人で大丈夫?」
「心配するな。ラジオを渡しとくから、小夜子たちも気をつけてな」

 小夜子にラジオ手渡すと、泉太は一人で左の道へと進んでいった。

『続きまして高速道路情報をお知らせいたします――』
「永士くん、あれ」
「どうやらあれが例の廃村みたいですね」

 さらに森の奥深くへと進むと徐々に道が大きくなり、森の中に開けた一角が見えて来た。多くの朽ちた家屋が連なっており、ここがくだんの廃村で間違いなさそうだ。

「……気味が悪い」

 雰囲気抜群の廃村に気圧されたのか、海鈴は怯えた様子で永士の服の裾を握っている。

「こえる、む?」

 村の入り口には柱が折れた木製の看板が倒れている。村の名前だろうか? 朽ちて掠れているが、辛うじて「越無」という文字が確認出来る。

『続きましては全国のお天――ザザザザザザザ』
「何だ?」

 これまで快調に音を発し続けてきた熊除けのラジオに、突然耳障りなノイズが生じる。永士に縋る海鈴がピクリと体を震わせた瞬間、さらなる衝撃が一向に襲い掛かる。

『ドウカ、ドウカ、ワタシ、ワタシヲ、オスクイ』
「ひっ、な、何なの?」

 驚きのあまり尻餅を付きそうになった海鈴の腰に永士は咄嗟に腕を回し、転ばぬように支えた。不気味な音声は永士が肩にかけるラジオから発せられ続けている。

『スクイヲスクイヲスクイヲスクイヲスクイヲ――』
「うるさいな」

 永士が冷静にラジオの電源を落とすと、辺りは一転静寂に包まれた。不気味な廃村で起こった不可思議な現象に、海鈴はもちろん小夜子までもがその場で凍り付いている。

「……今のは何だったのかしら?」
「分かりません。電源を切って止まったなら、とりあえずは大丈夫でしょう」

 理解の追いつかないことに答えを求めても仕方がない。それよりも、ラジオの電源を落とし場が静まり返ったからこそ、永士はあることに気が付いた。

「小夜子さん、聞こえましたよね?」
「美夕たちの話し声。やっぱりこの村に来てたのね」

 目視は出来ないが、村の奥から男女の話声が微かに聞こえる。美夕たちはまだこの村にいるようだ。

「美夕たちを連れてさっさと引き返しましょう。ラジオといい、この村なんだか気味が悪い」

 泉太への連絡を再開しつつ、小夜子が声のする方向へと進んでいく。永士も続こうとするが海鈴の足取りは重い。

「ここで待っているか?」
「……ううん、私も行く。ちょっとの間とはいえ、こんな場所で一人になる方が怖いもの」
「……歩きづらいんだけどな」

 肩に手を乗せピッタリと後ろに張り付く海鈴を伴い、永士も廃村へと踏み入った。

 ※※※

「美夕!」
「あれ、お姉ちゃん?」

 廃屋が密集した村の中心部まで進むと、あっさりと美夕たちと再会出来た。小夜子たちの心配をよそに、美夕や倉田たちはあっけらかんとした様子で目をパチクリしている。

「あれ、じゃないわよ。どれだけ心配したと思ってるの」
「大袈裟だな。キャンプ場からちゃんと道が続いてるし、倉田さんや竜崎さんだっているし」
「そういう問題じゃないでしょう!」

 悪びれる様子のない美夕を前に小夜子が語気を強める。

「まあまあ、片桐さん落ち着きましょうよ」

 険悪な雰囲気を見かねて竜崎が間に入るが、妹を思う姉にとってその行為は火に油だ。

「あなたたちこそ何考えているんですか! 未成年の子を勝手に連れまわして」
「連れまわすだなんて人聞きが悪い。付いてきたいと言ってきたのは美夕ちゃんの方からですよ。そもそも廃村探索くらいでそんな大袈裟な」
「あなたね!」
「ちょっとお姉ちゃん、竜崎さんに当たんないでよ」
「あなたは黙っていなさい」
「……善人ぶっちゃって」
「えっ?」

 竜崎に食って掛かる小夜子へ、美夕は姉に対するものとは思えぬような冷めた態度で呟いた。周りに聞こえぬよう、そのままそっと小夜子へ耳打ちする。

「あのこと、泉太さんにバラしちゃってもいいんだよ?」
「……あなた何を言って」
「私が知らないとでも思ってた? だとしたらそうとうおめでたいよ、お姉ちゃん」

 侮蔑の言葉と共に顔を離すと、美夕は今度は周りにも聞こえる音量で、満面の笑みで口を開いた。

「私が悪かった。ごめんなさい、お姉ちゃん」
「……分かればいいのよ」

 悪魔の笑みを前に、威勢を失った小夜子はただそう呟くことしか出来なかった。

「片桐さん、妹さんを勝手に連れ出してしまい申し訳ありませんでした。お姉さんの許可は取ったと聞いていたもので。本当にすみません」

 ノリを重視しているだけで根は真面目なのだろう。廃村探索の言い出しっぺである倉田が心底申し訳なさそうに小夜子へと頭を下げた。浅はかであったことは間違いないが、美夕の件についてはその通りなのだろう。

「……もういいんです。それよりも、気味が悪いし早くここを出ましょう」
「分かりました。戻りましたら泉太さんに改めましてお詫びさせて頂きます」

 一通り探索を終えても大した収穫はなかったのだろう。謝罪を重ねる倉田を除く三人は、飽き飽きとしているのか、退屈さを隠しきれないでいる。

「永士、美夕ちゃんと小夜子さんの様子、何だかおかしくなかった?」
「そう? 元からあんなものだと思うよ」

 小夜子はともかく、美夕に関しては永士としてはいまさら驚くほどのことではなかった。

『ツミヲツミヲツミヲ!』
「ひっ!」

 永士の腰元のラジオから再び声が大音量で鳴り響いた。海鈴は驚きのあまりその場で腰を抜かし、咄嗟に耳を塞いだ一同の視点が永士へと集まる。耳障りな音に、この時ばかりは永士も表情をしかめた。

「永士くん、脅かさないでよ」
「小夜子さん、電源は落したままです」
「嘘……」
『ツミヲツミヲツミヲ――』

 永士が掲げたラジオは確かに電源が落とされたままの状態になっていた。にも関わらずラジオは気味の悪い声が発生し続ける。

「おいおい少年、悪戯にしては手が込み過ぎだぜ」

 突然の出来事に驚きながらも、一度目の怪奇現象を経験していない竜崎は永士の悪戯を勘繰り、苦笑交じりに肩を竦めた。

「どう細工すれば電源の入っていないラジオから――」
『ワタシハツミヲオカシマシタ――』

 永士の反論を遮るように、一際大きな音声が鳴り響いた瞬間にそれは起こった。
大きな音に驚き反射的に瞬きをしたら、次の瞬間、これまでとは明らかに異なる光景が目の前に広がっていた。

「建物が蘇った?」

 突如発生した異変に誰もが言葉を失う中、永士だけが冷静に状況を見極めようとしていた。

 廃屋だった場所は、しっかりとした木造家屋が立ち並んでいる。無造作に生えていた草は綺麗に刈り取られ、村の中を通る道も石や草が取り除かれしっかりと整えられている。まるで村が健在だった時代にタイムスリップしてしまったかのようだ。

「な、何が起こっているの?」

 腰を抜かし地面に両手を付いていた海鈴の右手が、何か液体のようなものに触れた。

「えっ?」

 反射的に海鈴は視線を手元へと落とす。手を濡らしていたものは、おびただしい量の鮮血であった。その先には、血の海の源泉である、全身を切り刻まれた着物姿の男の死体が転がっていた。

「きゃああああああああああああああ!」

 堪らず海鈴は悲鳴を上げ、恐怖はどんどん伝播でんぱしていく。

「うわあああああああ! ここにも死体が!」

 後退った倉田が何かにつまずき転倒。血だまりに触れた背中が真っ赤に染まる。倉田が足を引っかけたのは首のない、和服姿の女性の死体だった。

「あ、辺り一面死体の山だ……いったいどこから」

 体格の良い竜崎もこの瞬間はただ恐怖に震えていた。死体は二体だけではない。村中の至るところに転がり、血だまりを作っている。目視出来るだけでも二十体は下らない。

「み、見て。死体から花が」

 小夜子が震える手で死体の山を指差す。無数の死体やそこから生じる血だまりから、彼岸花に似た真っ赤な花が次々と芽吹き、有り得ない速度で開花していく。あまりにも現実離れした光景がそこにはあった。

 やがて赤い花は恐るべき速度で増殖を続け、ついには村中の死体と血だまりを覆いつくしてしまった。

「に、逃げよう! 早くこの村から出るんだ!」

 恐怖に震えていた面々は、倉田の叫びで我に返る。

「くそっ! なんなんだよこの村は」
「竜崎さん、置いて行かないで!」

 最初に駆け出したのは竜崎と美夕だった。死体と、そこから生える赤い花を避けながら村の出口目掛けて駈け抜けていく。

「く、倉田くん。死体がたくさん」
「周りを見ちゃ駄目だ。僕が手を引くからしっかり付いてきて」

 次に倉田が、恐怖に立ち尽くしていた香苗の手を引き出口へと向かう。

「海鈴ちゃん、私達も早く」
「は、はい」

 血に触れたショックで腰を抜かしていた海鈴を小夜子が抱き起し、肩を貸した。

「綺麗な花だ」

 永士だけがその場を動こうとはせず、血の海から一転、赤い花畑と化した村を興味深そうに見回していく。

「永士くんも海鈴ちゃんに肩を貸してあげて」
「分かりました」

 小夜子に呼ばれ、永士も踵を返して村の出口へと向かうが。

「私は罪を犯しました」

 永士は一度ラジオへ視線を落とした後、直感的に振り返り、まだ足を踏み入れていない村の最深部を凝視した。

「ラジオから、じゃなかったな」

 一際大きな音声を発して以降、ラジオは完全に機能停止している。だとすれば今の声はいったいどこから発せられたものだったのだろうか。

「倉田くん、背中の血が消えてる」
「えっ?」

 村を出た直後、香苗は自分の手を引く倉田の変化に気が付いた。血だまりに転び真っ赤に染まっていた倉田の背中から血の色が消え、ただ地面に転んだだけのように、土汚れだけが付着していたのである。

「……本当だ」

 足を止めた倉田が着ていたアロハシャツを脱ぐと、ベットリと張り付いていた血の跡が綺麗さっぱり消えている。何度洗濯したところでここまで綺麗にはなるまい。よく見ると背中と一緒に地面についた両手からも、血の跡が消えている。

「良かった、追いついた」

 倉田と香苗に小夜子、海鈴、永士の三人が合流。真っ先に逃げ出した美夕と竜崎の背中はすでに見えなくなっている。

「倉田さん、服の血が」
「はい、いつの間にか消えていて」
「小夜子さん、私の手からも血が消えてるよ」

 倉田の姿を見て海鈴も初めて自分の変化に気が付いた。あれだけはっきりと両手を濡らしていた血が綺麗さっぱり消えている。生々しい感覚さえもすでにあやふやになりつつある。

「変化があったのは、血だけじゃないみたいですよ」

 永士は一人冷静に、今し方脱出したばかりの恐ろしい村を凝視していた。もうあんなおぞましい光景を見るのはごめんだと女性陣が振り返る勇気を持てぬ中、意を決して倉田が村の方へと視線を向けた。

「あれ? 廃村に戻ってる?」

 入口から覗き込んだ村には、死体の山も血の海も、奇妙な赤い花の姿もない。廃屋が立ち並ぶただの廃村へと戻っていた。

「僕たちは、夢でも見ていたのか?」

 有り得ない状況に理解が追いつかず、倉田はその場で頭を抱えるばかりであった。

『続きまして、週末のお出かけ情報をお届けいたします』

 突如ラジオから発せられた音声に驚き、永士以外の四人がビクリと体を震わせた。

「驚かせてすみません。ラジオの調子はどうかなと思って」

 今度のラジオの音声は、永士が電源を入れたことで発せられたものだ。ラジオからはもう、あの奇妙な音声は聞こえては来ない。

 ※※※

 その後一向は、道が二又に別れた地点で泉太と合流。そのまま無事に梨恋キャンプ場まで帰還した。

 当初は軽率な行動を取った倉田たちにいきどおりを覚えていた泉太だったが、鬼気迫った様子で村で起こった出来事を訴える倉田たちの様子に只ならぬものを感じ、結局は強く責めることが出来なかった。一緒に四人の捜索に向かった小夜子たちまでもが同じ証言をするのだから尚更反応に困る。

 あまりにも非現実的な話だが、全員の証言が一致している以上、何かが起こったことは間違いない。無理やりな仮説ではあるが、廃村の雰囲気と夏の暑さに飲まれ、集団で幻覚でも見たのだろうということでその場は話を落ち着けた。無理やり話をこじつけないと、当事者達の方が恐怖に押しつぶされそうだったからだ。
 
 ただ一人、灰谷永士を除いていだが。

「灰谷くん。何を調べているの?」

 恐怖を振り切るべく、早くこの場を立ち去ろうと帰り支度が急がれる中、一人静かにスマホで調べものをしている永士の手元を綴が覗き込んだ。綴はキャンプ場で待機していたため、別の場所を探していた泉太同様に村に足を踏み入れていない。そのため恐怖よりも好奇心の方が勝っていた。

「例の廃村の衛星写真です」
「ただの廃村に見えるね。死体の山や血の海はもちろん、真っ赤な花とやらもない」

 あれだけ大量の赤い花や死体が存在していれば、衛星写真にも確実に痕跡が写る。永士の検索した衛星写真は、やはり村は廃村であることを裏付けるものであった。

「僕たちの経験した話、真中さんはどう思いますか?」
「あまりにも非現実的だけど、皆の様子を見るに何かが起こったことは間違いないよね。無理やり納得したように、集団幻覚という線もなくはないけど」

 そう言って、綴は永士の顔を指差した。

「少なくとも灰谷くんは、どんな状況でも幻覚を見るタイプには見えないかな」
「はい。僕もそう思います」

 綴の指摘を受け、永士は自信満々に頷いた。

 
 第三話

 第一話


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