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コーヒー牛乳とチョコレート 第四話

 七月の謎 怪人蜥蜴人間陽炎橋高校に現る


 夜の学校で目撃する恐ろしいものといえば何だろう?
 よくあるイメージとしてはやはり、幽霊の類が鉄板だろう。あるいは学校に伝わるいわゆる七不思議だろうか。普段は十二段のはずの階段が十三段(階段の数なんていちいち数えたことないけど)になっているとか、音楽室の飾られた音楽家の肖像画の目が動く(そもそも僕の通った小、中、高の音楽室には飾られていなかったけど)とか。夜の学校でストレッチャーを押す看護師に追いかけられる(なぜ学校で看護師?)とか。

 失礼。うっかり個人的な感情が漏れ出してしまったけど、学校の恐怖体験と聞いて、こういった不可思議な現象は想像しやすいのではないだろうか。

 だけど今回、胡桃が夜の学校で目撃したそれは、一般的にイメージされる学校での恐怖体験とは、何やら一線を画すもののようで……。

 ※※※

 期末テストが終わり、夏休みまであと一週間と迫った七月の土曜日。比古さん食堂でお昼を食べ終えた僕は、お昼の営業が終わり、準備中となった比古さん食堂の店内で、幼馴染の比古胡桃とテーブルを挟んで向かい合っていた。胡桃やお母さんの玄さんとは生まれた時からの付き合いだし、従業員の方々ともすっかり顔馴染みなので、自分で言うのもなんだけど、準備中の店内にも僕は完全に溶け込んでいる。お邪魔している形だし、帰る前に掃除ぐらいは手伝っていこうかな。

 そもそも今日、比古さん食堂を訪れたのは、前日に胡桃から面白い話があるとメッセージを受け取ったからだ。せっかくならと食堂でお昼を頂いて、そこから相談を受ける流れとなった。

「一昨日学校で不思議なことがあってさ。これも黎人の言う日常の謎ってやつなんじゃないかなと思って。興味あるよね?」
「もちろん。謎は僕の大好物さ」
「えーっ! 私特製の比古さん定食よりも?」
「すみませんでした。おばさんの料理が一番です!」
「うーん。レイちゃんはやっぱり優しいな」
「お母さん! 今いいところなんだからちょっかい出さないで」
「えー。たまには私も話に混ぜてよ」
「お母さんは夕方からの仕込みがあるでしょう」

 突然話に割って入るもおばさんも、それをあしらう胡桃も相変わらず賑やかだな。我が家は一人親の母さんが仕事で家を空けがちなこともあって、自炊出来るようになるまでは、比古さん食堂でご飯を食べさせてもらったり、お家に泊めてもらうこともしょっちゅうだった。家族ぐるみの付き合いを越えて、僕にとって比古家は、もう一つの家族といっても過言ではない。

「話を戻すね。一昨日、学校でとても恐ろしいことがあって……四時間目の化学の授業で移動教室があったから、授業前に教室から科学室に移動したんだけど、一階の渡り廊下を移動してる時に、暗い部室棟ぶしつとうの方から突然光が差して、そっちを見たら部室棟の窓から……誰かがこっちを見つめていたの。あの日は夕方から雨が降り続いていたから雰囲気も抜群で」

 とても恐ろしいことと前置きしながらも、胡桃は言葉の節々で抑揚をつけて、どことなく芝居がかった印象だ。語り部としての立場を満喫しているのだろう。胡桃のホラー耐性が強いのは、小さい頃にトラウマになるぐらい、何度もホラー映画鑑賞に付き合わされてきた僕が一番よく理解している。同時に僕は一番の被害者でもあるけど……。

 周りの反応は知らないけど、きっと胡桃のことだから「あー、何かいるな~」ぐらいの、呑気な感じで淡々と状況を受け止めたに違いない。

「季節感タップリの幽霊でも見たのかい?」

 季節は七月中旬。陽炎橋市の名を体現するような暑い季節が到来している。夜の学校で目撃される霊的な存在も、ある意味では風流かもしれない。

「幽霊というよりも、あれは怪人の類だね。怪物じゃなくて怪人」
「怪人って、オペラ座的な?」
「ううん。どちらかというと日曜の朝的な」
「なるほど。そういう方向ね」

 つまり、人に近い姿をしながらも、人型ではないと分かる程度の異形といったところだろうか。確かに人型の何かなら、幽霊を見たと錯覚しても、少し冷静になった後、「幽霊の正体見たり、見回りの先生か用務員さんでした」となるのがせいぜいだろう。

 だけど、怪人としか形容出来ない異形を目撃したのなら、話は根本的に変わってくる。

「念のため聞くけど見間違いの可能性は?」
「私一人ならともかく、一緒に移動してた楠見くんたち同級生も同じ怪人を目撃してるから、その可能性は限りなくゼロ」

 胡桃の発言は最初から信用しているけど、目撃者多数ならばより確実だ。一目で怪人と分かる何かがそこにいたのは間違いない。

「その怪人がどういう姿をしていたかは分かる?」
「一瞬だったから、細かい部分は微妙だけど、頭のシルエットは蜥蜴とか恐竜みたいな感じ。体の部分は比較的シンプルな人型だったような気がする」
「なら、その蜥蜴頭の怪物の名前はリザードマンと呼称しておこう」
怪奇かいき蜥蜴人間とかげにんげんじゃなくていいの?」
「なぜ昭和の特撮風? いや、理解している僕も僕だけど。それじゃあ呼称はリザードマンで」

 呼称は正直どっちでもよいのだけど、いちいち怪奇とつけるのも面倒なので、西洋風のリザードマンで統一させてもらうとしよう。異論は出なかったので、胡桃も冗談半分だったのだろう。

「四時間目の移動教室って話だったけど、具体的な時間は?」
「四時間目が八時三十分からだから、その数分前ぐらいかな」
「その時間なら、流石に全日制の生徒は残っていないか」

 胡桃の目撃した渡り廊下側の部室棟は、様々な部室が集まった建物だけど、この時期部活は、遅くとも午後八時前後には終わっているはず。胡桃も部活棟は真っ暗だったと言っていたし、生徒が残っていた可能性は低そうだ。

「身も蓋もない話だけど、正体を確かめたりは?」
「気にはなったけど、移動中だったからそれ以上は踏み込めなくて。帰りは暗くてよく見えなかったし」
「目撃したのは一昨日だよね。昨日、明るいうちに確かめたりは?」
「もちろん渡り廊下越しに部室棟を見に行ったけど、窓から怪人の姿は消えていて。近くで確かめたかったけど、勝手に部室棟に立ち行ったら怒られちゃうし」

 確かに定時制の生徒が無関係の教室や施設に入ることは難しそうだ。昨日は金曜日。真相不明のまま週末に突入してしまい、胡桃としては消化不良で落ち着かないといったところか。

「事情はだいたい分かった。全日制で自由に動き回れる僕に、怪物の正体を突き止めさせたいわけだね?」
「そういうこと。忽然と姿を消した学校に潜む怪物。何だかワクワクする響きじゃない?」
「ここまで話を聞いてしまったら、確かに怪物の正体を確かめずにはいられないね」

 胡桃に焚きつけられるまでもなく、俄然やる気が湧いてきた。夏休み前にまた一つ、刺激的な体験が出来そうだ。

「そうと決まれば、早速これから学校に顔を出してみるよ」
「やる気十分だね」
「あまり胡桃をヤキモキさせてたら可哀想だからね。早期解決を目指して頑張るよ」

 怪人が部室棟に関連しているのなら、部活動が活発な週末の方が色々と分かるかもしれない。加えて今は、一学期の期末テストが終わり、夏休みを目前に控えた時期。十月に開催される文化祭へと向けて、文化部を中心に一部の部活動は、夏休み前の今の時期から製作に取り掛かっている。週末でも人手が多いので、普段は帰宅部の僕がしれっと校内に紛れ込んでいても、大して目立たずに済むだろう。

「あれ? 土曜なのに何で黎人が学校に?」

 午後三時前。学校に到着するなり玄関で、同級生の司風雅と遭遇してしまった。静かに一人で調査をするつもりだったけど、面倒な奴に見つかってしまったな。

「僕だって週末に学校に来る用事の一つや二つあるさ。そういう風雅は何部の活動で?」
「さっきまでは手品部の打ち合わせ。ちなみに明日は、文化祭に向けたSF研究会の企画会議に参加予定だ」
「相変わらずフットワークが軽いね。今は何個兼部してるんだっけ?」
「昨日の放課後に歴史研究会に所属したから、五個めかな」
「また一つ増えてるよ。風雅は最終的にはどこを目指しているんだ?」
「俺は誰にも縛られない。故に最終地点も存在しないね」
「かっこいいけど、寂しいからあまり遠くには行かないでくれよ」

 僕が把握していたのは手品部、ボードゲーム同好会、SF研究会、クイズ研究会の四つだけだったはずなのに、さらに一つ増えているとは……一年生の七月でこれなら、二年に上がる頃にはどうなってしまうのだろうか? 風雅は少しでも興味を持ったら直ぐに部活動に所属する思い切りの良さと行動力がある。出会ったばかりの頃は驚いたものだけど、流石に四カ月も一緒にいればだんだん慣れてきた。もしも部員不足で存続の危機にある部活があるなら、風雅は救世主となり得る存在かもしれない。

 一方で考え無しにたくさんの部活に参加しているわけではないようで、管理の厳しい運動部ではなく、比較的自由参加が許されている文化部に所属することで身軽さを維持している。状況に応じて参加する部活を使い分けているようだ。

 もちろん活動の一つ一つに対しても真摯に向き合っており、その姿勢は先輩や顧問の先生方からも高く評価されている。複数の部を掛け持ちしながらも、軽薄さや不真面目な印象は皆無。むしろ風雅が架け橋となって、各部活に横の繋がりが生まれるなど好循環を生み出しているらしい。さながら、あらゆる組織に所属してきた歴戦の傭兵といったろころか。

「それで、結局のところ黎人は何用で? やらかして職員室か?」
「何で怒られる前提なんだよ。一昨日の夜、胡桃が興味深いものを目撃したそうでね」

 風雅に一度遭遇したらもう逃げられない。好奇心の塊の彼は、その積極性も相まって、いとも容易く僕の口から目的を聞きだすだろう。遭遇した時点で僕の負け。時間を無駄にしないためにも、風雅には状況を説明しておくことにしよう。

「夜に現れた謎の怪人ね。面白そうじゃん。この後暇だし、俺も付き合うぜ」
「誰も助力は求めてないんだけどな」
「つれないこと言うなって。俺の顔の広さはお前も知っているだろう? 部室棟ってことは部活関連の調査なんだし、何かと便利だと思うぜ」

 確かに、普段部活に所属していない僕がいきなり、調査という名目で色々と嗅ぎまわるのは角が立つ。対して弁が立つ風雅が、それを活かして円滑に交渉を進める様は有り有りと想像出来る。僕も決して人見知りするタイプではないのだけど、風雅の圧倒的なコミュ力を前にすると時々自信を失いそうになる。

「お力添えよろしくお願いします!」
「素直でよろしい」

 こうして、調査隊のメンバーが一人増えることとなった。歴戦の傭兵を仲間に出来たようで心強い。

「早速だけど、胡桃ちゃんが目撃した窓というのは具体的にはどの位置だ?」
「渡り廊下から見える、一番奥の窓と聞いているよ。あと、胡桃ちゃん呼びはやめろ」

 気安く胡桃ちゃん呼びなのは気になるけど、風雅は誰に対しても距離感が近いので、決して胡桃が特別というわけではない。僕にとっては胡桃は特別だけども……。

 玄関からも近いので、実際に渡り廊下から、問題の部室棟を見てみることにした。週末とあって部活に励む生徒の姿が窓越しにチラホラと見えるが、件の窓には人の気配は無く、リザードマンらしき姿も確認出来なかった。

「あそこは何部?」
「あれは確か部室じゃなくて、複数の部が共同で使っている物置みたいな場所じゃなかったかな」

 直接確認にいくまでもなく、風雅はあそこがどういう部屋かを把握していた。流石は多くの部活を掛け持ちしているだけある。

「ということは、リザードマンの正体はどこかの部の備品と考えるのが自然か。共同で使っている部というのは?」
「筆頭は演劇部で、被服部の衣装作品なんかもチラホラと。後は俺の所属するボードゲーム部の備品も幾つか」
「ボードゲーム部も? そんなに備品がかさばるの?」
「現在進行形で使用している物は部室で管理しているけど、卒業生が製作したオリジナルゲームとか、以前使われていた物はそっちで保管させてもらっている。無碍には扱えないからな」
「なるほど。ちなみに念のため聞いておくけど、リザードマンの正体が超バカでかいゲームの駒である可能性は?」
「もしそうなら、もっと黎人を泳がせてから楽しくネタばらしするさ。等身大の駒を使ったボードゲームとか。実際にあったら楽しそうだけどな」

 僕も冗談で聞いただけだけど、確かに高校でそんな催し物があったら話題を呼びそうだし、なんなら僕もやってみたい。確実に採算度外視になるだろうけど。

「リザードマンと仲良しの可能性があるとすれば、その中だと演劇部かな」
「だとすれば、なかなかにファンタジー寄りの演目だが、調べてみる価値はありそうだ。確か花凛も確か演劇部だったはずだし」
「そっか。東さんも演劇部か」

 五月に生井好さんと、「ライラックの歌」に関する謎を調査するきっかけとなった同級生の東花凛さん。図書委員のイメージが強くてすっかり失念していたけど、そういえば以前、部活は演劇部に決めたと言っていたのを思い出した。東さんは僕が謎解きに情熱を燃やしていることを知っているし、前回の縁もある。今回も快く話を聞いてくれることだろう。

「試しに演劇部に顔出してみるか。普段は多目的室で練習してるはずだ」
「いきなり押しかけて大丈夫かな?」
「この時間ならたぶん、全体練習が終わって自主練だろうから、とっつきやすいと思うぜ」
「やけに詳しいね。実は演劇部も兼部?」
「残念ながら、流石の俺もそこまで多才じゃない。手品部の部室も同じ階だから、ご近所さんなだけさ」

 風雅は大仰に肩を竦めて苦笑する。本人は自嘲気味だが、風雅は口が回るし、物怖じしない抜群の安定感も持ち合わせている。僕からしたら役者向きに見えるが、本人的には柄じゃないのだろうか?

「ところで、風雅の所属する諸々の部活は文化祭で何か披露するのかい?」

 二階の多目的室への移動がてら、十月に開催される文化祭の話題を振ってみた。僕たちはまだ一年目だからあまり感覚を掴めていないけど、文化部は一つの成果発表の場として文化祭に情熱を注ぎ、例年大きな盛り上がりを見せると聞いている。夏休みに一気に作業を進める部も多く、五個の部活を掛け持ちする風雅は、各所を奔走する日々を送ることになるのだろう。

「手品部は例年、第一体育館でプログラムを披露して、SF研究会と歴史研究会はまだ企画会議中。ボードゲーム同好会は細やかな体験会を企画中で、クイズ研究会は文化祭実行委員会と連携して、一般の来場者も参加出来るクイズ大会の実現に向けて色々と準備中ってところかな」

「風雅はその全てに携わると?」
「刺激的な夏休みになりそうだ。ご好意で手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「かっこつけた直後に本音を見せるな本音を。生憎と夏休みもみっちり塾の予定が入ってる。たまたま暇な時があったら考えておくよ」
「おう。その時は頼むわ」

 嬉しそうに白い歯を覗かせながら、風雅は僕のと肩を組んできた。こういうのは柄じゃないんだけど、風雅がやるとあまり暑苦しく感じないから不思議だ。

「どうも。手品部兼ボードゲーム同好会兼SF研究会兼クイズ研究会兼歴史研究会の司風雅です。東花凛はいますか?」

 演劇部が活動する多目的室に到着するなり、風雅はとんでもなく長い肩書きを、活舌よくスラスラと並べた。これは相当言いなれているな。
 演劇部の部員の視線が集中した直後、小規模な笑いが起こる。その中の一人、奥で部員と談笑していた東さんが立ち上がり、目を細めて入口に近づいてきた。人数はまばらだし、風雅の言うように全体での活動は終わり、残った生徒達が自主練や打ち合わせを行っていたようだ。

「相変わらず長い肩書きね。なんなら前より長くなっていない?」

 学校指定のジャージを着た東さんが呆れ顔で苦笑する。長身の風雅を見上げているけど、意志の強そうな大きな瞳は迫力満点だ。
 
 それにしても、前より長く? 驚いた。風雅は毎度の如くこの口上を多用しているのか。

「ここで問題です。増えた肩書きは何でしょう」
「クイズ研究会要素を出してこないでいいから……えっと、歴史研究会?」

 あっ、そう言いながら東さんも流れに乗って答えるんだ。

「正解! 一ポイントをプレゼント」
「貯めると何かいいことあるんでしょうね? まったく……」

 溜息をついて顔を上げた東さんと、風雅の後ろにいた僕の目があった。

「あれ、猪口くん? どうして土曜日に学校に。生霊?」
「珍しいからって霊体扱いはやめてくれないか。ちょっと調べものがあって、東さんにも話を聞きたいんだけど、今大丈夫だった?」
「私は別に大丈夫だけど、調べものって?」
「ちょっと、リザードマンを探していて」

 我ながらどんな台詞だよ思うけど、事実なのだから仕方がない。事の経緯を説明すると、東さんは最初こそ驚いていたけど、その口元は徐々に好奇心に釣り上げられていった。五月にも思ったけど、東さんはやはりこの手の話には乗り気だ。

「事情はだいたい理解したけど、残念ながら我が部ではリザードマンさんは存じ上げないかな。まだ脚本段階だけど、文化祭で披露する演目には、怪人の客演なんて予定されてないし」

 現役の演劇部が断言したことで、リザードマンが演劇部の備品である可能性は無くなった。これは想定内だ。あまりリザードマンが登場する演劇というのはイメージしにくい。物置部屋を使っている部活の中で一番可能性があるというだけで、そこまで期待値は大きくはなかった。逆に怪人の種類がオペラ座的な方向だったら、間違いなく一番怪しかっただろう。

「となると、他に物置部屋を使っているのは被服部だが、怪人は被服のジャンルに含まれるのか?」
「衣装の範疇かもしれないけど、それだとどちらかという特撮――」

 言いかけて僕は、比古さん食堂での胡桃とのやり取りを思い出した。胡桃はリザードマンを日曜の朝と表し、呼称の案も「怪奇蜥蜴人間」だった。特撮ドラマに登場する怪人を思わせる存在感だったことは間違いない。だったらもっとシンプルに、そういう方向性で考えるべきだった。

「風雅。うちの高校には確か映画研究会があったよね?」
「あるけど、もしかしてリザードマンは映画研究会の?」
「着ぐるみか、パペットか。いずれにせよ、映像作品用の備品と考えるのが一番シックリくる気がする」
「確かに。だったら早速、映研に殴り込んでみるか。うちのクラスの尾越おこしも映画研究会だったはずだし」
「別に殴り込む必要はないけど、是非とも話は伺ってみたいね」

 ヒーローものの特撮か、モンスターパニックか、あるいは未知の生命を扱ったSF超大作か。いずれにせよ、リザードマンという存在が最もしっくりくる部活は映画研究会で間違いない。一学期の期末テストが終わり、文化部では夏休みに先駆けて文化祭へ向けた準備が始まっている。映画研究会も撮影を始めたのなら、今まで姿を現さなかったリザードマンが目撃されたタイミングにも説明がつく。

 目撃された物置部屋を映画研究会が使用していないという点は気になるが、その辺りの事情は直接、同級生の尾越くんに尋ねればハッキリするだろう。謎解きというよりは、ただ聞き込みをして回っただけになってしまったけど、無事に胡桃の疑問には答えてあげられそうだ。

「東さん。時間取らせてごめんね。ちょっと映画研究会に顔出してくる」
「真相が分かったら私にも教えてね」

 東さんとはその場で別れ、僕と風雅は、映画研究会の部室である三階の視聴覚準備室へと向かった。晴れてエンディングへ到達するものだとばかり思っていたのだけど……。

 第五話

 第一話


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