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2024年1月の記事一覧

【小話集】似ている、そっくり、同じ

【小話集】似ている、そっくり、同じ

 今回の記事はとても長いです。太文字のところだけに目をとおしても読めるように書いていますので、お試しください。なお、小話間で重複があるのは、そこが大切だという意味ですので、どうかご理解願います。

【小話0】
 似ている、そっくり、ほぼ同じ、同じ、同一を体感するのには、刻々と変っていく時計――アナログでもデジタルでも日時計でも腹時計でもいいです――を見つめたり、耳を傾けたり、触れたり、目をつむって

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『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』の終章では二つの時間が流れています。「縮む時間」と「のびる時間」です。「縮む時間」については「伸び縮みする小説」と「織物のような文章」で詳しく書きましたので、今回は「のびる時間」に的を絞って書いてみます。

 ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。

     *

「のびる時間」というのは、火事になった繭倉の二階から葉子が落下する瞬間が、くり返し描かれるという意味です。

 

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書くべきものを書いてしまう人たち

書くべきものを書いてしまう人たち

 この人は自分の書くべきものを書いている。そう思わせる作家がいます。作品の細部を読めば読むほど、その思いは強くなります。細部に勢いがあるのです。書くべきものを「書こうとしている」のではなく「書いてしまっている」気がしてきます。

 この記事は、以下の「くり返すというよりも、くり返してしまう」の続編として書いたものです。

◆「ワンパターン」は褒め言葉*楽曲、小説、芝居、映画、ダンス

 語弊はあり

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人が物に付く、物が人に付く

人が物に付く、物が人に付く

 今回は「付く、附く、着く、就く、即く」(広辞苑より)について書きます。人と物との関係について考えたのです。

 まず、古井由吉のエッセイで「付く」という言葉がつかってある興味深い一節があるので引用します。記事の最後では、川端康成の小説で出会った、警句のような趣の掛詞も紹介します。どちらも、物がキーワードです。

 人が物に付く、物が人に付く。

「椅子の上にも十年」
 タイトルから察せられるよう

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【レトリック詞集】人間の「人間もどき」化、「人間もどき」の人間化

【レトリック詞集】人間の「人間もどき」化、「人間もどき」の人間化

 今回は、「【小話集】似ている、そっくり、同じ」の続編です。

【レトリック詞1】賞賛、嫉妬、恐怖
 人には、ヒト以外の生き物のすることで、笑って済ませることと笑って済まされないことがある。人が笑うのはプライドがあるせい。

 人には、機械のすることで、許せることと許せないことがある。人が許さないのはプライドがあるせい。

     *

 AIに対し、人はきわめて人間的に反応する。ほほ笑む、嫉妬

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描写、物語、小説

描写、物語、小説

 今回は、言葉による描写と写生と語り、そして物語と小説について思うことをお話しします。なお、記事の最後でも書きますが、しばらくnoteをお休みいたします。

かげ、影、陰
 かげという言葉が好きです。「かげ、カゲ、影、陰、蔭、翳、景」という字面をみているだけで、気が遠くなりそうになります。

 呼びさまされるイメージに圧倒されるのでしょうか、息が苦しくなり収拾がつかなくなるので、深呼吸をして心を静

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目まいのする読書

目まいのする読書


目まいのする読書
 目の前に三冊の本を置いて、同時には無理ですから、それぞれをつまみ食いするようにして読んでいるのですが、さすがに目がまわってきます。あちこち視線を移動させるせいか、読んでいて頭の中がこんがらがるせいか、目まいに似た感覚に襲われます。

 本物の目まいは不快だし苦しいですが、目まいに似た感覚はときとして快感である気がします。

 現在読んでいるのは小説で、次の場面で始まります。

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letterからなるletters

letterからなるletters

 まず引用します。

 行空けをなるべく忠実に引用したのですが、八章の出だしであることはお分かりいただけると思います。

 二行空けて、鉤括弧の有無が違うだけで同じ文言がつづいていますが、こういうメイキング感を目の当たりにすると、私はくらっと来て幸せな気分になります。

     *

 私は内容やストーリーにはあまり興味が行かない読み手です。その分どう書いてあるかには敏感に反応します。

 私に

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ひとりで聞く音

ひとりで聞く音

 ひとりで聞く音は寂しいものです。ひとりだけに聞こえる音は不気味さをもたらします。寂しいと感じ不気味だと思うそばには他人のまなざしがあるのではないでしょうか。その他人は、おそらく最期の自分でもあるのです。

「おずれ」と「おずれ」
 川端康成の『山の音』の冒頭には、主人公の尾形信吾(おがたしんご)の家に半年ばかりいて郷里に帰った「女中」の加代の話が出てきます。

 散歩に出るために下駄を履こうとし

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ドナドナ

ドナドナ

 最近、こんなことを考えています。

*はかる:人が苦手な行為。人は、「はかる」ための道具・器械・機械・システム(広義の「はかり」)をつくり、そうした物たちに、外部委託(外注)している。計測、計数、計算、計量、測定、観測。機械やシステムは高速かつ正確に「はかる」。誤差やエラーが起きることもある。

*わける:人が得意な行為。ヒトの歴史は「わける」の連続。分割、分離、分断、分類、分別、分解、分担、分

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知らないものについて読む

知らないものについて読む

 文芸作品そのものを読むよりも文芸批評を読むほうが好きでした。大学生時代はちょうど文芸批評の全盛期みたいな雰囲気があり、従来の印象批評の本が相変わらず続々出版され、フランス製のヌーベルクリティックとか英米加製のニュークリティシズム、そして日本でも新批評と呼んでいいような本や論考があいついで上梓されたり雑誌に発表されていました。

 つぎつぎに紹介される斬新な手法に興奮したのを覚えています。

 印

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葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

 今回は『雪国』冒頭の汽車の場面で、葉子が島村から一方的にその姿を見られ、さらには声を聞かれる部分を見てみます。

 結論から言いますと、映っている現実(うつつ)は美しいということです。現実そのものではなく、映っている現実だからこそ、美しいのです。

エスカレート
 これまでの回をお読みになっていない方のために、この連載でおこなっている見立ての図式を紹介いたします。

・『雪国』(1948年・完結

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古井、ブロッホ、ムージル(その2)

古井、ブロッホ、ムージル(その2)

 今回は、古井由吉が訳したロベルト・ムージルの『愛の完成』で私の気になる部分を引用し、その感想を述べます。

・「古井、ブロッホ、ムージル(その1)」

 以下は、「古井、ブロッホ、ムージル」というこの連載でもちいている図式的な見立てです。今回も、これにそって話を書き進めていきます。

     *

*聞く「古井由吉」:ぞくぞく、わくわく。声と音が身体に入ってくる。自分が溶けていく。聞いている対

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【レトリック詞】数学の修辞学、数学という修辞学

【レトリック詞】数学の修辞学、数学という修辞学

 今回はレトリック詞です。レトリック詞については、以下の記事をご覧ください。

数学の修辞学
 寝入り際に宇宙の果てについて考えることがありませんか? どうなっているのだろう。あるところでぷかぷか浮かんでいる自分を想像します。その一メートル先が宇宙の限界だったとしたら?

 興奮して眠られなくなることもあります。無限、限りがない、果て、といったイメージを、子どものころからあれこれ想像し、わくわくし

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