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藤田新策の世界 : 薄暗くも懐かしい〈異界〉の入り口

書評:『藤田新策作品集 STORIES』(玄光社)

藤田新策さんの絵は物語であり、幻想世界である。
観た者の想像を何処までも掻き立てる。
唯一無二の作品でありながら、
これほど小説と相性のいい画家はいない。

ゲームクリエーター
      小島秀夫          

帯に刷られた推薦文である。
この推薦文のポイントは、「物語」「幻想世界」「想像を掻き立てる」「唯一無二」「小説と相性がいい」ということになる。

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画家自身の「まえがき」では、特に「物語」という点が強調されている。現代の日本では「物」ではなく「物語」が求められている、と。
そして画家は、本書に収められた「装画」を描くにあたって、原作を読み込み、その世界を想像しながら、その『物語世界を表現するように心がけています。』としている。

また、書き下ろしエッセイ「スティーブン・キング」では、キング作品の舞台たるアメリカの中規模都市を描くにあたっての基本姿勢を、次のように語っている。

『 キング作品は地方のスモール・タウンを舞台にしたものがほとんどなのですが、これをイメージするのに18歳まで暮らしていた静岡で見た風景や得た体験と記憶が大いに役立ちました。
(中略)
資料を見て描くことも出来るかもしれませんが、空気感や水に浸かったとき足から感じる冷たさ等、体験から得た感覚と記憶にまさるものはありません。』

つまり、画家が装画を描くにあたって大切にしているのは、小説の「作品世界」であり「物語」であると同時に、自身の「体験」に裏付けられた「空気」や「感覚」といった、「個人的な実感」だったのだ。

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だからこそ、藤田新策の絵は、藤田の個性を反映した「唯一無二」の作品でありながら、しかし、どんな作品とも無理なく溶け合うことができるのであろう。無理に作品世界に合わせようとすれば、逆に「似せきれなかった」部分に、読者は違和感を覚えるが、藤田の描く世界は「普遍的な実感」に支えられているから、作り物に対する違和感といったものとは無縁であり得たのである。

藤田の絵の魅力は、そこから入っていく世界が、「スティーブン・キングの世界」でもなければ「江戸川乱歩の世界」でもない点にあろう。
誰某の「作家固有の世界」ではなく、普遍的な「読者のために開かれた異界」であり、「薄暗くも懐かしい、秘密めいた場所」の「入り口」なのである。

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(2022年2月15日)

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