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ノンフィクションのブックレビュー

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ダンスや舞踊以外がテーマのノンフィクションの本のレビューです。
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記事一覧

『動物たちは何をしゃべっているのか?』山極寿一、鈴木俊貴:言葉の前にあった身体/人間の認知範囲を超える動物の能力

『動物たちは何をしゃべっているのか?』山極寿一、鈴木俊貴:言葉の前にあった身体/人間の認知範囲を超える動物の能力

本書にもあるように、「人間」と「動物」を分けて考えるのはおかしなことで、人間も動物である。しかし現代社会の多くの人はそのことを忘れている。

シジュウカラをはじめとする鳥類の研究者と、ゴリラなどの類人猿の研究者による対談を記録した本。

シジュウカラは「文法」を持つ「言葉」を話すという鈴木俊貴さん。その実証法は単純なようでいて目の付け所が面白い。

山極寿一さんはゴリラと一緒に暮らしたことで有名。

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『地域社会圏主義』山本理顕著:「家族のカタチの多様化」「家を買えない住宅問題」「地域コミュニティーの喪失」の解決を図るプリツカー賞受賞の建築家からの提言

『地域社会圏主義』山本理顕著:「家族のカタチの多様化」「家を買えない住宅問題」「地域コミュニティーの喪失」の解決を図るプリツカー賞受賞の建築家からの提言

戦後日本では、両親と子どもから成る核家族が持ち家を手に入れるという人生モデルを理想とし、経済活性化を目的に家の購入が推奨されてきた。一方で公営の賃貸住宅はどんどん減らされて今ではヨーロッパの国などと比べて極端に少なく、民間の賃貸住宅は高くて狭く設備もよくない。家族の在り方が多様化する中で、住宅はいまだにほぼ、ファミリータイプの広い家かワンルームマンションか、という2者択一だ。プライベート空間を重視

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『からだで変わるピアノ』宇治田かおる著

脱力して弾くようになどといわれるピアノ。しかし、どのように脱力できるのか?ピアノに弾いてもらうとは?など、ピアノ演奏時の身体の使い方について書かれた本。

心構えのような感じだが、どういうイメージを持つかによって身体の状態や動きは変わってくるので、参考にできる部分があると思う。でも実行するのは難しいのだが。

『国籍と遺書、兄への手紙―ルーツを巡る旅の先に』安田菜津紀著

『国籍と遺書、兄への手紙―ルーツを巡る旅の先に』安田菜津紀著

父の死後、高校2年生のときに戸籍を見て父が韓国籍(在日コリアン2世)だったと知ったフォトジャーナリストの著者が、父、兄、祖父母などの足跡を探り、自身のルーツをたどる過程を語る本。

思い出の家族写真や、著者が撮影したカラー写真も収録されている。

本書冒頭から暗示され、後半で明示される、兄と父が相次いで自死した事実も重い。

自死はゼロにはならないかもしれないが、社会を変えることで防げていけたらと

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『ビジュアル・シンカーの脳:「絵」で考える人々の世界』テンプル・グランディン著

「言葉」で考える「言語思考タイプ」と、「絵」で考える「視覚思考タイプ」について伝える本。視覚思考タイプはさらに、具体的なものを思い描いて考える「物体視覚思考」と、パターンや抽象概念で考える「空間視覚思考」に分けられるという。

著者は物体視覚思考者を自認し、自閉症でもある研究者だ。

アメリカの学校教育ではますます言語視覚思考が重視され、視覚思考者の能力が社会で十分に生かしきれていないと訴える。

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『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』アンジェラ・チェン著

個人の事例を挙げながら、多様なありさまのアセクシュアルから、「他者に性的に引かれるとはどういうことなのか」などの問いを丁寧に追っていく。

「人を恋愛的に好きになる」とごちゃっとひとまとめに捉えられがちな現象を細分化していく作業から、誰もが直面し得る問題を考察する。

学問よりもジャーナリズムの視点で書かれていて、読みやすい。

問いが解明されたというよりも、読者が自分の中で深まった謎をさらに考え

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『言葉と歩く日記』多和田葉子著:日本語とドイツ語で書く作家による言語考

『言葉と歩く日記』多和田葉子著:日本語とドイツ語で書く作家による言語考

日記形式で、ベルリンに住みながら海外でも朗読や講演を行い、劇場などにも行き、人々と出会い、思考を重ねる様子を記す。

「言葉と歩く」とあるように、移動しながら言葉を紡ぐ。

自身の日本語の小説を初めてドイツ語に翻訳する時期に集中的に執筆された。

母語・第1言語のほかに言語(外国語)を学び使うとどんなことが起こるのかが、言語のプロの視点から垣間見える。

解像度は違うだろうが、「わかる」と思うこと

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『闘う舞踊団』金森穣著:Noism(ノイズム)の新潟での奮闘を記録した本

『闘う舞踊団』金森穣著:Noism(ノイズム)の新潟での奮闘を記録した本

海外で活躍後に日本に戻り、海外(ヨーロッパ)と日本の芸術文化の土壌や質の違いを強く意識しながら、それでも日本での意識や現状を変えたいと組織を立ち上げて困難の中でも活動を続けている人といえば、バレエではKバレエカンパニーの熊川哲也さん、そしてコンテンポラリーダンスではNoism Company Niigata(ノイズム)の金森穣さんが思い浮かぶ。

Noismは、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を

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『言葉の展望台』三木那由他著

『言葉の展望台』三木那由他著

表現の自由が保証されているはずの社会での「言葉によるコミュニケーション」にはさまざまな力学が働いている。

社会的に強い立場か弱い立場か、多くの語彙を使いこなせるか、論理的思考と表現ができるか、知識が豊富か、頭の回転が速いか、高圧的な態度を取るか受け身的か、声(声量)が大きいか小さいか、などの要因によって、言葉は武器にも薬にも(そしてほかのものにも)なる。

言葉は無色透明で中立的な「道具」ではな

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『トランスジェンダー入門』ノンバイナリーに関心がある人も必読の本

『トランスジェンダー入門』ノンバイナリーに関心がある人も必読の本

周司あきら、高井ゆと里による、トランスジェンダー入門書。新書のためコンパクトで読みやすい。

ノンバイナリーが見る世界①女/男として生きる。
②女は「女らしく」、男は「男らしく」生きる。

この2つの(性別を割り当てられた人の)課題(本書p. 35)を見て、私は②が嫌なだけのシスジェンダーなのだろうか?とも思ったが、

ノンバイナリーは、あらゆる場面で人間を男女に区別したがったり、性差には意味があ

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『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』太田啓子著

『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』太田啓子著

「男の子」を育てながら弁護士として働く著者が、男女のステレオタイプやそれに基づく関係性を押しつける社会を変えていく主体として次世代に期待し、彼ら(性別にかかわらずだがこの本では特に「男の子」)に何を託せるか、そのために自分たち(親世代)に何ができるか、を提案した本。

・第3章の注4の記事

・第4章のp. 171で紹介されている漫画『さよならミニスカート』『7SEEDS』

・pp. 209-2

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『死刑について』平野啓一郎著

『死刑について』平野啓一郎著

作家による死刑廃止論。講演会の記録を基にしており、話し言葉調で読みやすい。

「人権」は「すべての人にある」権利。人間は人権のある社会を選んだのに、奴隷制度は(表向きかもしれないが)なくしたのに、死刑は存続させていいのか?感情としては「そんな人間はこの世から消えろ」と思っても、それを実行に移すのはまた別の話になる。

本書では政治的な判断やタイミングで死刑が執行されていることも指摘されている。

『ドイツの道徳教科書 5、6年実践哲学科の価値教育』世界の教科書シリーズ

『ドイツの道徳教科書 5、6年実践哲学科の価値教育』世界の教科書シリーズ

自分と他者を大切にする、社会と関係を構築する、自然環境を考える、などのテーマが扱われている。実践哲学ということで、主に倫理的課題が登場していると言えるか。

翻訳は直訳調で読みづらい部分もある。

ローラント・ヴォルフガング・ヘンケ編集代表、濵谷佳奈監訳。