柿本香すみ

よろしくお願いします

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記事一覧

恋におちると心臓が痛い

狙ったような言葉とか素振りじゃなくて、ほんとうに何の気負いもなく言った一言に急所を一突きされることが稀にある。それがいわゆる好みの典型から外れていればいるだけ、…

髪をいたわるって過去をいたわること

美容院に行ってきました。 いつもはヘッドスパ…なところを、うっかりトリートメントで予約して、当日美容師さんと話をして、やっぱりトリートメントにトライすることにし…

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続 芥川

昔の話だ。 その男は、ある女に恋焦がれていた。たいそう高貴な女であった。身分違いの恋だった。叶うはずがない相手で、どう手を尽くしても、結ばれようのない恋だった。…

伊勢物語・芥川

昔の話だ。 その男は、ある女に恋焦がれていた。たいそう高貴な女であった。身分違いの恋だった。叶うはずがない相手で、どう手を尽くしても、結ばれようのない恋だった。…

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RRRのここが面白い!

メチャメチャ面白いので観てください!ぜひ! ポイント①わかりやすい 物語自体に難しさはありません。少しの疑問も作品の中で解決します。王道を轟音立てて進む感じです…

8

貧乏は嫌

貧乏は嫌。貧乏は嫌。貧乏は嫌。貧乏は嫌。 NHK「雪国」を見て、奈緒がそう連ねていたことが強烈に残っています。その感想を書く。 私は岸辺露伴のドラマのファンでもある…

2

チェンソーマン中毒って話と、仕事について考えたこと

一体何事だという感じのタイトルですが、そのままです。 チェンソーマンはすっごく話題になっていたにも関わらず、最近読みました(漫画)、そのときに度肝を抜かれました…

2

気分に合った小説が読みたい

偏見と偏愛のリストです。誰かのためになるとうれしい。 ◎優等生の凋落といったら…綿矢りささん。 他者と自分の間で腫れ上がった自我を持て余して、その後に崩壊します…

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個性を地獄から

朝井リョウさんは時折読む作家で、一番記憶に新しいのは「正欲」です。「死にがいを求めて生きているの」は少し前に読みました。(螺旋プロジェクトで手にとった。) この…

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失恋を考える暗闇もある

失恋はいつだって唐突で、まるでドン!と穴に突き落とされたかのように私の身体を襲う。それは好きな人に恋人がいたとか、そんなわかりやすい話ではなくて、例えば恋人のあ…

8

拝啓ダニエル・キイス様

アルジャーノンに花束を、名前も表紙も知っていたのですが、映画もドラマも見ずにいて、おととい読み終わりました。まえがきに、先生はたくさんのファンレターをもらい、共…

1

ときどきどきどき大人を味見

最近あわてて読んだ二冊の本、「道行きや/伊藤比呂美」「マチネの終わりに/平野啓一郎」、どちらもすばらしかったのですが、なんとなく大人の視界を、サングラスを借りて…

5

私の司書さんへ

市立図書館を愛用している。 図書館に呼ばれる、というとスピリチュアルな感じがするが、ふとしたときに頭をよぎってお出かけしたくなる図書館は、いつも決まってひとつだ…

3

履歴書以上の人になりたい

意外と履歴書に収まっている自分にふと気づいてしまったので。 履歴書を埋めている時には、「あれっこれで私が表現できるのか?」と戸惑っていた。文章にしたら、いや自分…

5

ブルーピリオドがオススメ

マンガにドはまりしています。アニメになったと知らなくて、もっと早く知りたかった。 沼の名前は「ブルーピリオド」。夜半まで遊んでいても成績優秀、ガラのわるい友人が…

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やつあたりきらい

不意打ちってありますよね。なぜか「このひとだけは」って思っていて、しかしそういう人から激しくて生々しい、しかも因果関係以上の大きい謎な感情をぶつけられるとこちら…

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恋におちると心臓が痛い

恋におちると心臓が痛い

狙ったような言葉とか素振りじゃなくて、ほんとうに何の気負いもなく言った一言に急所を一突きされることが稀にある。それがいわゆる好みの典型から外れていればいるだけ、沼に落ちるように恋心を自覚する。

そもそも万国共通の急所なんてなくて、急所は当人でさえも知らないような、へんな所にあったりする。だから余計に不意打ちで、恋は唐突なんだと思う。

私も誰かの急所をえぐってみたいわ、と思うけれど、そういうこと

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髪をいたわるって過去をいたわること

髪をいたわるって過去をいたわること

美容院に行ってきました。
いつもはヘッドスパ…なところを、うっかりトリートメントで予約して、当日美容師さんと話をして、やっぱりトリートメントにトライすることにしました。
美容師さんは丁寧にトリートメントしてくださいました。ミストのようなものを浴びた。

寝転んで温かいシャワーの中で、不意に、髪は一か月で一センチ伸びるという話が頭をよぎった。肩のあたりは三年前に生まれてきた髪。私と、3年間の苦楽を共

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続 芥川

続 芥川

昔の話だ。

その男は、ある女に恋焦がれていた。たいそう高貴な女であった。身分違いの恋だった。叶うはずがない相手で、どう手を尽くしても、結ばれようのない恋だった。

女は、自分のことをただならぬほど真剣な眼差しで刺す男のことを知っていた。彼が自分のことを特別に想っているだろうことも承知していた。分からないと言えば後ろ指をさされるように明白だったから。
男は健やかで労働に馴れた体をしていて、それが女

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伊勢物語・芥川

伊勢物語・芥川

昔の話だ。

その男は、ある女に恋焦がれていた。たいそう高貴な女であった。身分違いの恋だった。叶うはずがない相手で、どう手を尽くしても、結ばれようのない恋だった。

にもかかわらず、それは重々承知していたはずだったのだが、長年身を焦がし続けた。そして、思い詰めてとうとうある朔の夜、その闇夜に紛れて忍び込み、女を盗み出してしまった。(恋に焦がされた若者は、今も昔も、むこうみず!)

(男は夜目が利く

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RRRのここが面白い!

RRRのここが面白い!

メチャメチャ面白いので観てください!ぜひ!

ポイント①わかりやすい
物語自体に難しさはありません。少しの疑問も作品の中で解決します。王道を轟音立てて進む感じです。

ポイント②異国情緒
なんだかアメリカイギリス映画に飽きちゃったな〜って思うことありませんか?お決まりの台詞と展開…ではなく(あるかもしれないが)、舞台になっているビル街、街、人間関係、食べ物、ファッション。この作品を見るまで、それら

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貧乏は嫌

貧乏は嫌

貧乏は嫌。貧乏は嫌。貧乏は嫌。貧乏は嫌。
NHK「雪国」を見て、奈緒がそう連ねていたことが強烈に残っています。その感想を書く。

私は岸辺露伴のドラマのファンでもあるので、芝居がかった感じにもすんなり馴染みました。原作の「雪国」の映像化かと思っていたので全然ちがうことには驚きました。はじめの方の、奈緒と高橋一生が目を交わしてなんともなく話している場面に、奇妙な緊張を感じてその危うさに息が止まるかと

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チェンソーマン中毒って話と、仕事について考えたこと

チェンソーマン中毒って話と、仕事について考えたこと

一体何事だという感じのタイトルですが、そのままです。

チェンソーマンはすっごく話題になっていたにも関わらず、最近読みました(漫画)、そのときに度肝を抜かれました。作者(藤本タツキさん)の狂気というか、いやこれを才能と呼ぶのか。なんとなくはじめて「ムンクの叫び」を見たときのような衝撃がありました。鬼気迫っている。とくに突然始まる乱闘シーンの見開きや、容赦なく展開していく物語に、涙どころではなく、ど

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気分に合った小説が読みたい

気分に合った小説が読みたい

偏見と偏愛のリストです。誰かのためになるとうれしい。

◎優等生の凋落といったら…綿矢りささん。
他者と自分の間で腫れ上がった自我を持て余して、その後に崩壊します。インスタグラムなみにリアル。
「夢を与える」「かわいそうだね?」「ひらいて」

◎毒毒しいドピンクのドーナツが食べたい時…桜庭一樹さん。
ウワァッドキドキ!みたいな洋画ホラーのどぎつさを味わいたくなるときありませんか。そういうときにおす

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個性を地獄から

個性を地獄から

朝井リョウさんは時折読む作家で、一番記憶に新しいのは「正欲」です。「死にがいを求めて生きているの」は少し前に読みました。(螺旋プロジェクトで手にとった。)

この作品のポイントは、螺旋プロジェクトという異色の企画もさることながら、「生きがい」ではなく「死にがい」という強烈にざらつく、しかしどこか納得がいくタイトルだと思います。

それは生きることはすなわち死にゆくことでもあるからです。そして、生き

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失恋を考える暗闇もある

失恋はいつだって唐突で、まるでドン!と穴に突き落とされたかのように私の身体を襲う。それは好きな人に恋人がいたとか、そんなわかりやすい話ではなくて、例えば恋人のあなたとの間にあったもののはずなのに、と呆然とすることもある。(体感としては五分五分)

あなたと私の間にあったはずの恋を失ったと気がつくときはいつでも夢から醒めるようだと思う。

それは、先週あなたがやっていて愛おしいと思ったことが、全く同

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拝啓ダニエル・キイス様

拝啓ダニエル・キイス様

アルジャーノンに花束を、名前も表紙も知っていたのですが、映画もドラマも見ずにいて、おととい読み終わりました。まえがきに、先生はたくさんのファンレターをもらい、共感してくれる人がこんなにいるなんてと感涙したそうで、だから私もお手紙を書こうと思います。一読者のささやかなつたない感想でも、きっと先生は真摯にみてくださると思うので。

私がいちばん心に残っているのは、実は結末ではなく、「ぼくはアルジャーノ

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ときどきどきどき大人を味見

ときどきどきどき大人を味見

最近あわてて読んだ二冊の本、「道行きや/伊藤比呂美」「マチネの終わりに/平野啓一郎」、どちらもすばらしかったのですが、なんとなく大人の視界を、サングラスを借りてみるみたいに、うかがい知ったように思った。

私は「放課後のキイノート/山田詠美」も大好きで、そのあとがきが格別に好きです。この世には「よい大人」と「わるい大人」がいるということから始まります。

18まではだいたい、往々にしてあまり差がな

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私の司書さんへ

私の司書さんへ

市立図書館を愛用している。

図書館に呼ばれる、というとスピリチュアルな感じがするが、ふとしたときに頭をよぎってお出かけしたくなる図書館は、いつも決まってひとつだ。図書館に行こう→どこにしようかな?というときもあるし、なんかどこかに行きたい気がする→〇〇図書館だ!というときもある。

以前はΑ図書館だったのだが、気がついたらΒ図書館になっていた。その図書館は街で一番大きいわけではないが、新刊コーナ

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履歴書以上の人になりたい

履歴書以上の人になりたい

意外と履歴書に収まっている自分にふと気づいてしまったので。

履歴書を埋めている時には、「あれっこれで私が表現できるのか?」と戸惑っていた。文章にしたら、いや自分が全然大したことないのは分かっていたけれど、それにしてもつまらない。特に興味をひく項目がない。たしかに人柄とか性格で仕事をするわけではないし、職場にお友だちを求めに行くわけでもないんですけれど。ああー、これは埋もれて見られなくて落ちるのわ

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ブルーピリオドがオススメ

ブルーピリオドがオススメ

マンガにドはまりしています。アニメになったと知らなくて、もっと早く知りたかった。

沼の名前は「ブルーピリオド」。夜半まで遊んでいても成績優秀、ガラのわるい友人がいることを母親にも伝えていない矢口少年。勉強も友人関係もそつなくこなす優等生。でも彼の心はどこか虚ろに魂が抜けたみたいに(ツマンナイ……。)

それなりにうまくやることの一体何が悪いんだ?と聞こえてきそうだ。彼はそれなりどころかすばらしく

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やつあたりきらい

やつあたりきらい

不意打ちってありますよね。なぜか「このひとだけは」って思っていて、しかしそういう人から激しくて生々しい、しかも因果関係以上の大きい謎な感情をぶつけられるとこちらはたまったものではない。びっくりするし動揺する。不条理が世の常ってわかっていてもいらだたしい。

それから夜が来るように、うっすら悲しみが足元から満ちる。それは自分自身がいつしかその人に対していた先入観や学習が外れたことへの悔しさや、相手を

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