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路地裏で揺らぐ -内在性解離の当事者研究-

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精神的虐待サバイバーであり、内在性解離を持って生きる僕たちを記録するエッセイを集めたマガジン。10人のパーツたちがそのときどきで思ったこと、考えたことをまとめている。
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#トラウマ

解離を秘匿しようとする、本能的防衛反応

解離を秘匿しようとする、本能的防衛反応

健忘を伴う解離性障害を持つ人にフォーカスした文章の中で、こんなフレーズを2度ほど見かけたことがある。

「自分が解離しているとは思わなかった。記憶が飛ぶな、忘れっぽいなとは思っていたけれど、みんなこんなものだと思っていた」

自分が解離していることに気づくのは難しいようだ。確かに3大疾病に比べれば、解離の認知度はまだまだ低く、誤解や偏見も多い。だが僕は「解離の自覚のしづらさ」について、他の理由もあ

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【虐待の後遺症と向き合う】サバイバーの陥るジレンマ

【虐待の後遺症と向き合う】サバイバーの陥るジレンマ

回復の途上。どこかで必ずといって良いほど陥るのではないかと思うジレンマに、よくぶつかる。

果てしない「if」を夢想してしまうこと。

もしも、自分が虐待を受けずに育っていたら?

もしも、あの時あんなことが起こらなかったら?

もしも、違う親に育てられていたら?

もしも、被害が続かなかったら?

もしも、もっと早くに対応できていたら?

もしも、もっと早くに知識を得られていたら……

可能性が

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「頭では分かってるけど……」はなぜ起きるのか

「頭では分かってるけど……」はなぜ起きるのか

「こうしたほうがいいって頭では分かってるけど、感情がついてこない」

このような自己矛盾に苦しむことは、よくある。

解離している人の場合、このような葛藤が起こるのには人格(パーツ)が関わっている可能性がある。

ジェニーナ・フィッシャー著『トラウマによる解離からの回復』にあったエピソードをもとに考察してみよう。

より詳しく知りたい方は、(分厚いが)ぜひ本書のほうをご一読いただきたい。価値ある一

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それ、俺悪くなくない?

それ、俺悪くなくない?

大事な人に「えっ」ってびっくりされるとぎょっとしてしまう。俺たちが何か悪いことをしたのかと思っちゃう。癖で。

意外なこと、親の想定にないことを俺が言ったりやろうとしたりすると、親は「え!?」とちょっと大きい声を出した。

俺は、とにかくそれが苦手で。

いざ言葉にしようとすると、それがなんでなのか理由が難しいな。
「親に逆らっちゃいけない」っていう印象をどこかの時点で持っちゃったのか、「え!?」

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パニック障害をきっかけに今までのやり方を見直す

パニック障害をきっかけに今までのやり方を見直す

体調の悪さがしばらく続いていた。

何やら動悸がする。いつも以上に息苦しい。足元がふらつく。頭が痛い。食欲が消え失せている。

とてもつらい。貧血かもしれない。

地域の病院に行くと、意外な診断名を告げられた。

「パニック障害ですね」

そこは内科と心療内科・精神科が併設された病院。「内科的な体調不良だと思ったら精神病だった」という例は多いらしく、僕もその一員だったと説明された。なるほど、道理は

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名前と自己の境界線【僕とパーツの人生紀行】

名前と自己の境界線【僕とパーツの人生紀行】

こんにちは。亜麻です。

人間だれしもがそうであるように、私たちも矛盾を抱えていると思います。

私たちが抱えている矛盾は主に「名前」に関するものです。

私たちは主さん(本名)ではなく、パーツ(人格)それぞれの名前を持っています。

でも滅多にその名前を声に出すことはありません。

思ったり、書いたりするだけ。

「ああ、今直也が昼寝しに行こうとしてるな」とか、「賢也(監理者くん)があれこれ計画

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私的:なぜ解離性障害の情報が少ないのか

私的:なぜ解離性障害の情報が少ないのか

こんにちは。亜麻です。

※この記事は私の考えていることを記述したものであり、どこまでいっても個人の意見以外の何物でもありません。よって健康・体調等への責任は負いかねます。
より正確な情報がお知りになりたい方は学術記事や信頼できる書籍・医師専門家の診断等別の情報源に当たられることをおすすめします。

「私たちって解離してたんだ!」
と気づいた直後、「解離」についての情報を集めまくるブームが到来して

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止まった時計【エッセイ】

止まった時計【エッセイ】

「解離」が現実から、今・ここから意識が離れることだと表現するなら、フラッシュバックはタイムスリップとほぼ同義だろう。
僕たちは何度も「無数のあの日、あの時」を追体験する。鮮明に。詳細に。
タイムマシンが発明される前に、人類は思考の中でのタイムトラベルを可能にするのかもしれない。

閑話休題。

最近、怒りという感情の扱いに困る時期を過ごした。

ままならないことが起きると瞬間的に苛立ちが湧く。

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本当は「主」なんていないんじゃないか【後日談あり】

本当は「主」なんていないんじゃないか【後日談あり】

直也です。

最近よく考えるのだが、本当は「主」なんていないんじゃないだろうか。

僕たちは僕たちの主人格(戸籍上の名前を持つ人)のことを「主」と読んできた。主と、そこから分裂してしまった僕たちという認識を持っていた。

僕たちには僕たちの個性があり、人生があり、夢があるけれど、全体の幸福度向上のためには主のそれを最優先するのがいちばん平和的である。

僕の「心理士になりたい」という夢よりも、主の

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和解を「あきらめ」て先へ進むことにした。

和解を「あきらめ」て先へ進むことにした。

「いつか分かり合える」という幻想心象風景は特別な意味を持っていると思う。

子どもの頃から今に至るまで、長い時間もち続けてきたイメージ。概念。
それは精神構造の一部に組み込まれていて、無意識のうちに考え方のクセや願いの土台になっているものではないだろうか。

僕は「和解」の心象風景を持っている。

さまざまな誤解や苦難やトラブルを乗り越えて、家族や友達は物語の最後に和解することができるのだ。

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書けなくなった僕たちが、再び書くためにやったことやめたこと

書けなくなった僕たちが、再び書くためにやったことやめたこと

物語を書くことは、約20年も続けている僕たちの趣味であり仕事だ。
「書く」ことと「生きる」ことはほとんど並列のニュアンスを持っている。

それなのに、いつからだろう。
気づいたら「書く」ことに追われていた。追われていることに気づいた。

書きはじめた頃、もっと純粋な楽しさだけがあったんじゃないか。

今目の前の原稿に追われている、この気持ちは楽しみではなく義務感だ。

書くのと同時進行の文章批判が

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子供は天使なんかじゃない。

子供は天使なんかじゃない。

以前、母が僕たちの幼少期を回想する時、こんな言い方をした。

「まだ(主の本名)がかわいいかわいい天使ちゃんだったころ」

この言葉はきっと、「子どもが純粋でかわいかった頃」のような意味だと思う。
子どもの無邪気さは、成長に伴いある程度失われていくことが多いから。

だが僕は、ここではっきりと書いておく。

僕にそんな時期はなかった。

子どもも人間だ。これまで生きてきた過去世がある。
そして子ど

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居心地の悪さを取りに行かねばならない時

居心地の悪さを取りに行かねばならない時

どうも。直也です。

恐怖と無気力に安堵しているホラーが苦手なのに、YouTubeでホラーゲームの実況を観るのが好きだったりする。

僕たちが好んで観ている人は叫び声に定評のある人なので、あの良い感じの叫びを聞くにはホラーが必要……という図式。
もちろん他の企画や、ゆるやかな雑談もやわらかい声が楽しめてうれしい。

しかし僕たちにとってこれは、一概に喜ばしい視聴方法ではないようだった。
ホラー実況

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久々のフラッシュバックと新しい対処の記録

久々のフラッシュバックと新しい対処の記録

直也です。

※タイトルの通り、フラッシュバックにまつわる記述がある。
心の元気な時にご一読いただくことをおすすめする。

先ほどひどいフラッシュバックに襲われた。

きっかけはある意味何気ないことで、この時一緒にいた相手に非はない。
たまたま僕たちの方で、それが地雷だっただけだ。

目の前の食事が「食べモノ」として認識できなくなり、つい1秒前まで存在していたはずの空腹感は消失している。
久々に直

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