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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#トランスジェンダー

唯一のパートナーと男性不信と性自認

唯一のパートナーと男性不信と性自認

 大学に入ってから、一人の男性と付き合うことになった。後に夫となり、「元」夫となる同級生だ。

 初めて学外で二人きりのデート。精一杯の女の子らしいお洒落をして待ち合わせの神戸三宮駅に向かう僕の胸には不安があった。

 本当に彼を信じて一人で行って大丈夫なのか? 最悪の場合、殺されて山に埋められるのではないか?

 冷静に考えるとあり得ない。そこまでの不信感を持っている相手と付き合えるのか? 不安

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ただの日記(20240524)

ただの日記(20240524)

 少年たちの締まったしなやかな肢体を見て湧き上がるのは憧れだ。僕にも少年時代が欲しかった。少女時代ではなく。

 胸に無駄な肉の塊ができて、骨盤がバキボキと音を立てて育った。

 骨が薄くて皮下脂肪が柔らかい身体が一概に嫌いなわけではない。人間の身体は男性より女性のほうが美しくできていると個人的には思っている。客観的に見て女性の身体は嫌いではない、だが自分が女性の身体でいることはまた別の話だ。綺麗

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体の性を自分で決める

体の性を自分で決める

 胸が膨らんでいても、子宮に続く穴があっても、毎月のように血を流しても。この体は「男の体」なのだ。

 常識で考えるなら女の体なのだろうけれど。体の性を決めるのは、意外とそんなに簡単じゃない。

 性器の形とか。

 顔の造りとか。

 背の高さとか。

 毛の生え方とか。

 筋肉や脂肪の付き方とか。

 そういうもので僕らは何となく人の性別を判定している。

 基準はあくまで平均に基づくもので

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戸籍の性別変更要件と、自分の体を自分で決めるということ

戸籍の性別変更要件と、自分の体を自分で決めるということ

 戸籍の性別を変更するための手術要件撤廃に関するニュースを見た。手術要件を擁護する当事者のコメントが支持を集めていた。だから当事者が手術要件を支持しているという話ではなく、この現象自体が当事者に対する抑圧の強さを示していると思った。わがままは言わず、多数派に配慮して許していただかなければならない、そういう精神が染み付いているような気がした。

 僕自身は手術要件はなくていいと思っている。ホルモン治

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BL世界に住んでいる(かもしれない)

BL世界に住んでいる(かもしれない)

 BL漫画をちょいちょい読んでいる。R18のものは基本読まないが、R15くらいなら普通に読む。

 ただ別のジャンルの漫画と比べて特別好きかというとそうでもない。ハマるというほどではないが、男女の恋愛ものよりは何となく読みやすい。多分、自分自身がBL漫画の世界に住んでいるようなものだからだ。

 ゲイの世界ではなく、あくまでBLの世界。そもそも僕はアロマンティック/アセクシャル的なアレなのでゲイで

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性のあり方を振り返る

性のあり方を振り返る

 性についていずれちゃんと書かなければならないと思っていた。

 当事者研究と懺悔を合わせたような真面目な考察のつもりではあるが、直接的な表現も含まれるため、苦手な方はご注意を。

 平気だよという方は、ナショナルジオグラフィック気分で直凪の生態を見てくれたら良いと思う。こういう性の形もあるのだと知ってほしいし、人間ってわけわからんくてオモロいなと思ってもらえたら嬉しい。

 私にとっての性的な惹

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落とし所をどこにつけるか

落とし所をどこにつけるか

 最近ジェンダーアイデンティティが揺らぐことがあっていろいろ考えていたが、この性別違和に対して具体的に何か手を打つことは、少なくとも当面はしないと思う。

 その理由を以下に整理してみる。

 まず現状では人との関わりが少ない。性別移行の理由として、一般的にはパートナー関連の問題が結構な重みを持っている場合が多いと思う。パートナーを見つけるにしても、性的な関係を持つにしても、望む性別の形に近い体を

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性別を医学的に決められるのは怖い

性別を医学的に決められるのは怖い

 性自認は遺伝子で決まるという説を目にして怖くなった。

 トランスジェンダーがトランスジェンダーであることが医学的に証明できるようになると喜ぶ人もいるかもしれない。でも僕はそういう発想自体が怖いのだ。

 遺伝子を調べたら僕の自負する性別がわかると考えるなら、僕の性別を他人が決められることになる。僕が何を感じ何を考えているかなんて何も知らない専門家が、あなたは女ですとか男ですとか勝手に判別するの

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暗黒時代と裏切りの罪

暗黒時代と裏切りの罪

 今の私の感じからは想像できないかもしれないが、小学生の頃はどちらかというとお調子者的な面があり、変わり者だったのは確かだが、「愛すべき狂人」くらいのポジションで受け入れられていたように思う。体が大きく成績も良かったから一目置かれていたのかもしれない。家では我慢することも多かったものの、学校では好き勝手に楽しくやっていたのである。

 転機となったのは、私立の中高一貫校への入学だった。入学と同時に

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フェミニズムとの離別

フェミニズムとの離別

 女らしくと強いられたくない
 女子力高いと褒められたくない
 歩く女性器と思われたくない
 女だからと低く見るな
 違う生き物として見るな

 隠されていた枕詞は
 「僕だって男なのに」

 胸の中に嫉妬の巣を見つけてしまった僕は
 「女を馬鹿にするな」ともう叫べない
 僕はその主体ではない
 女の怒りは女の手に

 僕は僕だけの孤独な怒りで
 向こう岸を眺め遣る

 男と女の間の断絶
 その谷

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「男嫌いのトランス男性」だったのかもしれない疑惑

「男嫌いのトランス男性」だったのかもしれない疑惑

 ここ数年は自分の性自認を男女どちらでもない「Xジェンダー」と位置付けてきたが、実は内面は男性に近いのに「男であること」から逃げていたのかもしれないと思い始めた。

 きっかけはX(Twitter)のスペースだった。

 タイトルの通りノンバイナリーのお二人がおしゃべりをするスペースなのだが、今回は「子供の頃、ジェンダー的に影響を受けたキャラクター」について話されていた。魅力的だったキャラ、共感し

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産みたくない僕の話を聞いて

産みたくない僕の話を聞いて

「子供、欲しいの?」

 グレーのスウェット姿の彼はベッドに寝転んだまま「いてもいいかなと思って」と答える。視線はスマホの液晶の上を細かく上下し続けている。

「どうしてそう思うの?」

「んー、なんとなく?」

 彼は寝返りを打って、にへらと口元を緩める。

「こちらは産みたくないし、今の状況で育てていくのも無理だと思っています。子供が欲しいなら説得してよ。どうして子供が欲しいの?」

 彼はス

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不義

不義

 結婚という契約を交わした男と女は無条件に祝福すべきものとされている。

 人を集めて幸せそうな顔をしてみせて、永遠という空疎を誓う。体裁さえ整えておけば、そこは喜びの場なのだという約束事が、不安も憂鬱も塗り込めて覆い隠す。

 婚姻関係という型に収まって数年後、喪失をきっかけとした心身の不調に対処するために読み漁った本から得たいくつかの概念は、私にとって禁断の知恵の木の実だった。

 どんなとき

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ジェンダー論に関心を持つ個人的理由

ジェンダー論に関心を持つ個人的理由

 自分は女の出来損ないだと長いこと信じていた。

 自分が女であることを認められないのは子供時代の一時的なことで、大人になるまでの過程のどこかで諦めて受け入れて女になっていくのだろうと思っていた。きっとみんなそんなもので、成長していくうちに自然と女になっていくのだろうと。

 けれど思春期を過ぎても「女」になりきることができなかった。みんなが乗り越えていく「女になる」という壁を、自分だけ越えられな

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