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向暑はるの日常 2022年

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2022年の日常です。
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#書くこと

過ぎゆく町を横目に

過ぎゆく町を横目に

三列シートの窓際を予約した。

予約時には、既に通路側の席は埋まっていた。

でも東京に着くまで、その席はずっと空いていた。

実家にもう少しいたくなっちゃったのかな。

勝手に他人を想像してしまう自分こそが、その気持ちになっているに違いない。

君から僕へ

君から僕へ

noteを書き続けてる理由は、一つの後悔と自己中心的な欲望のせいだ。

話すこと以外の言語の使い方に疎い自分に、ある種の呪いをかけていた。

伝わるわけがない。

読んでくれるわけがない。

でももしかしたら。

そんな厚さ40ミクロンにも満たないわずかな可能性にかけて、言葉を残していた。

修復不可能な時計をなおしているような感覚だ。

どこをなおそうとしても壊れていく一方だった。

“後悔”は

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バカだから楽しみすぎてしまう

バカだから楽しみすぎてしまう

バカは失敗から学ばないという言葉がある。

じゃあ、向暑はるはバカだ。

今年ももうすぐやってくる長期休暇に心を躍らせ始めている。

去年もそうだったし、その前もその前の前の年もそんな感じだった。

そうしてその休暇が過ぎた後に、五月病がやってくるのも毎度のことである。

次の年は楽しみ過ぎないようにと誓うものだけど、一年も経てば何も学んでいない自分が次々と計画を立てていく。

ほら、バカだ。

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夢から痛みを持ってくる

夢から痛みを持ってくる

どこか分からない駅の改札で、偶然懐かしい人に会った。

偶然のくせに、それが中学の頃の部活の先輩だと気づくまで全く時間がかからなかった。

夢というのは、現実で起こりそうで起こりえない絶妙なラインをついてくる。

おー!とお互いが同じタイミングで認識しあった。

マスクを少し外して口元を見せながら名前を呼び合う。

先輩なのに、自然と呼び捨てで呼んでしまうのはあの頃と変わらなかった。

顔立ちの良

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隙間がないように見せてるだけ

隙間がないように見せてるだけ

アルコールが自制心を乗っ取ってきたあたりで、誰かがこう言う。

彼女(彼氏)できた?

テンプレかのように毎回聞く言葉だけど、もしかしたら向暑はるの知らない飲み会のマニュアルがあるのかもしれない。

第一条「ほろ酔いのタイミングで恋愛の話を切り出すべし」

みたいな。

案の定盛り上がってしまうのだから、研修で渡されるマニュアルよりかは役に立っている。

そんなテンプレをちょうどいいタイミングで、

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500円のモーニングセット

500円のモーニングセット

都会の駅周辺ならどこにでも見かけるカフェでパソコンを開いていた。

モーニングセットで頼んだトーストは、家で食べる食パンとなんら変わらない気がした。

500円という値段に惹かれたはいいものの、よく考えたらスーパーなら5枚も買える。

まあいいか。

そんな節約思考をコーヒーと共に食道に流し込んだ。

外と内を分けるガラス窓の向かいに座ったため、外の景色がよく見えた。

スーツを着た営業マン、仲睦

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今年も胃が破裂する

今年も胃が破裂する

年度末。

お別れが名目の飲み会に参加した。

あくまで名目であって、お酒が入ってしまえば仕事の立場関係なく、私生活の話で盛り上がる。

適当に理由をつけて飲み会を都合良く解釈するのは、どんなに歳を取っても変わらないらしい。

悩みは日に日に老けていく一方、いつまでも子供心はピチピチでいたい。

この時間が一生続けばいいのになんて思ったりもする。

3杯目のハイボールからは、この楽しい時間をできる

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”休日”は明日のことを考えない

”休日”は明日のことを考えない

明日から仕事だよと愚痴をこぼしていた地元の友達。

あの時は、理解する気もなく適当に同情していたけど、今となれば毎週日曜日の流行語大賞となっている。

そんな愚痴をこぼしてしまう日は大抵休めるわけもなく、実質”休日”として機能しているのは1日に過ぎない。

せっかちな人間にとっては休日は2日間では足りないのかもしれない。

次の日のことを考えるだけで心が休まない。

例えば、小学生の頃の夏休みは大

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1/4

1/4

明日は雨だとキャスターは言っていた。

せっかくの連休初日が雨なのはちょっぴり悲しくなる。

休日の日数が割に合わなくなってきたので、向暑はるは有給を取った。

脳は平日だと勘違いしてたようで、いつも通りの時間に起きてしまった。

カーテンを開けると曇天が広がっている。

キャスターの予想通りにはいかなかったらしい。

身支度を整えて外に出た。

スーツ姿にせかせかと歩く社会人の集団に紛れ込んだ。

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一人は楽だと言うけれど

一人は楽だと言うけれど

気づけば終業30分前になっていた。

残りの業務もあと一つ。

どうやら定時で帰れそうだ。

いつものように人が出入りする会社の入り口付近で、いつものようにドアの閉まる音がした。

それと同じタイミングで誰かの叫び声が聞こえた。

痛々しい叫びだった。

指でも挟んでしまったのかと、恐る恐る入り口のドアに近づいた。

そんな軽い話ではなかったと、目の前の光景を見て知った。

さっきまで普通に仕事を

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美術館に訪れる自分が好きだ

美術館に訪れる自分が好きだ

美術館によく行く。

でも行ったところで作品に対して何も感じないことが多い。

トイレ行きたかったなーが感想になってしまう時もある。

休日を利用して3つの美術館をまわったけど、どれも何も感じなかった。

でもこれが時間の無駄だとか、お金の無駄だとかは思わない。

向暑はるは、展示品ももちろん見たいけど、どちらかといえばあの空間が好きで訪れているし、そこにいる自分のことが好きだったりする。

車の

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銃弾では届かない距離で繋がっている

銃弾では届かない距離で繋がっている

銃声が鳴り響く。

その近くで怒号が響く。

たった一つの引き金で誰かが泣いて、それに感化された別の誰かが引き金を引く。

それぞれが持つ正義が不幸の連鎖を呼んでいる。

そんな馬鹿ばっかの戦場が、向暑はるの生きている世界にあるらしい。

テレビから悲惨な光景が映し出されるが、未だにCGを使ったフェイク映像だと信じている。

それらの国同士の戦いに、向暑はるや周囲の人間に直接関わりがあるわけでもな

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性格悪く、頭良く

性格悪く、頭良く

女子高生四人が電車に乗ってきた。

電車が発車するや否や、三人が教科書を広げて勉強を始める。

一人はスマホを構いながら音楽を聴いていた。

教科書担当の一人がこう言う。

頭がいい人はいいよね。勉強しなくてもいいもん。

ずる賢い人を性格が悪いと表現するなら、たぶん向暑はるは性格が悪い。

学校では授業中以外、勉強する姿を見せてこなかった。

だって勉強熱心って思われちゃうでしょ。

でも授業中

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社会の実験台になってから

社会の実験台になってから

一年前くらいに、向暑はるは”東京”に降り立った。

何度も尋ねた地ではあるし、住んでもいたけど、それまでとは比べ物にならない威圧と窮屈さが漂っていた。

手には地元からの”片道切符”を汗とともに握りしめていた。

そして数週間後に向暑はるは社会の実験台になっていく。

これまでは自分自身の実験台の中で生きてきたから、指揮者はもちろん向暑はるだったし、

その”施設の中”にいるみんなは向暑はるの好き

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