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おりたらあかんの読書ログ

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年間100冊を15年間続けてきました。でも、本当に知らないことばかり!というかアウトプットがまだ少ないなあと感じています。過去に読んだ本は「読書ログ」としてまとめてきたので、それ…
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2022年6月の記事一覧

北田博充「これからの本屋」書肆汽水域

北田博充「これからの本屋」書肆汽水域

本屋が町から消えていく・・。そんな記事やニュースが絶えない。
本当に本屋は消えてしまうのか?

そんな問いに対して、アンチを提示し、「新しい本屋のかたち」を本著では紹介している。なかなか面白い!その中でも「エア文庫という生き方」からはかなり学ぶことがあった。

 「いか文庫」という書店がある。「毎日、どこかで開店する」という。ジュンク堂などの大手書店を含めあらゆる書店に期間限定で「企画展」のような

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マックス・ヴェーバー「職業としての政治」岩波文庫

マックス・ヴェーバー「職業としての政治」岩波文庫

「君主論」にならぶ政治学のテキストである。俺が政治云々とかいうのも、ちゃんちゃら可笑しいが、参院選が近づく中、まったく無関心ではいられず、書棚にあった本著を取り出して再読してみた。

この本が出た1919年は第一次大戦に敗れた混迷を極めるドイツ。その時代に「天職としての政治家」を待望していたヴェーバーの切実さが生々しい。下記の言葉に彼の哲学は凝縮されているように感じる。

政治家の資質について考え

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勅使河原純「アンリ・ルソーにみるアートフルな暮らし」ミネルヴァ書房

勅使河原純「アンリ・ルソーにみるアートフルな暮らし」ミネルヴァ書房

同世代のピカソやアポリネールをも唸らせた熟年アーチスト「アンリ・ルソー」。30年間のサラリーマン生活の中で週末アート修行を重ね、絵画だけでなく演劇、劇作、俳優、バイオリン、フルート、作曲とありとあらゆる才能を発揮したマルチエンターティナー!職場では異端視されながらも、セカンドライフでは一際輝き続けた男!ある意味「新たな分野」を開拓しつづけた男である。

俺は彼の生き様にかなり重なる部分を感じた。

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栗山民也「演出家の仕事」岩波新書

栗山民也「演出家の仕事」岩波新書


・「アウシュビッツという場所が恐ろしいのではない。こういう場所があったということの人間の記憶を消し去ることこそ恐ろしいのだ」
 至言である。記憶から目をそらしたまま、いくら「未来志向」とかいってたって、それは偽善でしかない。。真剣なコミュニケーションではないのだ。この本でとりあつかっていることは<演劇>にとどまっていない。

・「演出に必要なことは何か」 
 「聞くこと」 ・・・・・ 何を聞くの

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鷲田清一「『聴く』ことの力」TBSブリタニカ

鷲田清一「『聴く』ことの力」TBSブリタニカ

筆者は「聴く」という行為を臨床哲学という形で体系化しようとしている。この哲学を展開するために基礎となっている考え方はホスピタリティーであり、哲学的な背景はメルロ・ポンティ、レヴィナス、シュレールなどの哲学者となっている。

「哲学はしゃべりすぎた」「語ることがまことの言葉を封じ込める」「哲学の中枢神経は〈メタ〉であり、自己批判から始まらなければならない」「言葉を届かせようとして声を大きくしたりすれ

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鹿野政直「岩波新書の歴史」岩波新書別冊

鹿野政直「岩波新書の歴史」岩波新書別冊


1913年岩波茂雄が古書店として開業し、15年「哲学叢書」をはじめに出版事業に乗り出した。創業者は「学問や識見芸術を日本の社会に散布普及させる配達夫であり、散水夫」と岩波書店の任務を説いている。

1927年岩波文庫が誕生、1937年に岩波新書が誕生しているわけだが、その背景についてはこの本で初めて分かった。新書のアイデアは東京帝大文学部哲学科出身で思想犯として検挙歴もある吉野源三郎が出した。

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伊東俊太郎「一語の辞典 自然」三省堂

伊東俊太郎「一語の辞典 自然」三省堂


現在、我々が使っている自然という言葉。これがどのような経緯で日本にはいって来たのか。あらゆる角度から検証している。

まずこの概念の語源から考えると、ギリシャ語の「ピュシス」にぶちあたる。意味は「はえる、生長する、生成する、生成した後の状態」といった意味になるらしい。

この「ピュシス」は古代ギリシャでひろく使われた。ヒポクラテスは自然治癒力に使用し、アリストテレスの「自分自身の中に運動の原理を

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諏訪哲二「教育改革の9割が間違い」ベスト新書

諏訪哲二「教育改革の9割が間違い」ベスト新書


 表紙に書かれていたアクテイブラーニングが是か非か、ということより「プロ教師の会」名誉会長としての教育の見解が紹介されている本だった。でもそれがかえってよかったような印象もあった。教師という特殊な職業を持つものの性というか正体をよく見抜いているなと感じた。

教師が陥りやすいのが「私は生徒の立場に立って考えている、生徒のことを真剣に考えている」といった勝手な思い込みだ。そういう正義感でつっぱしる

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木崎喜代治「幻想としての自由と民主主義」ミネルヴァ書房

木崎喜代治「幻想としての自由と民主主義」ミネルヴァ書房


この本に出会った時は「あたり!」って感じだったのを今でも覚えている。
参議院選挙でまた「その場限りの虚構を演じる政治家たち」の熱弁を聞かされると思うと気が重いが、自由とか民主主義を考え直す機会とするならいい機会かもしれない。本著はこういった問題意識に存分に多くを示唆してくれている。

著者は「勉強しない自由」を主張するある大学生の話を聞いて、反論できなかった教授の反応から、きっかけを得たという。

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諏訪淳一郎「パフォーマンスの音楽人類学」勁草書房


アドルノの「退行聴取」論にあるように、現代人はコンテンツ産業が恣意的にジャンル分けした音楽を聞かされ、それが音楽だと思い込んでいる。ノイズは音楽でないのか?そういった音楽の在り方を哲学的に解析しているのが本著の一つの特徴だ。

ここではドゥルーズの「脱領域化」、ガタリの「再領域化」をきっかけに考えている。この二つの領域に出現したり、失われたりする時空間を「テリトリー」とすると、歌は声を脱領域化し

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寺山修司「幸福論」角川文庫

寺山修司「幸福論」角川文庫


久しぶりに寺山節に触れた。「家出のすすめ」は20代の俺に決定的な影響を与え、その後も常に共感をもって接してきたが、ここ数年、寺山からは離れていた。今回、出張のお供に連れて行ってみて読んだ。

この本が出された頃、巷ではアランの「幸福論」が一斉を風靡していたらしい。しかし、そんな幸福論を寺山は一蹴し、「私たちの時代に失われつつあるのは、幸福ではなくて、幸福論である」という名文句を残している。

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岡本太郎「青春ピカソ」新潮文庫

岡本太郎「青春ピカソ」新潮文庫


久しぶりに岡本太郎の言葉のシャワーを浴びた。爽快だ。彼は42歳にして晩年のピカソに会い、談笑し、アトリエに招待され、デッサンまで贈られている。ピカソも岡本に通常見せない親しみと愛情を降り注ぎ、熱く手を握り、二人のインスピレーションは見事に調和していた・・。

そんな岡本が吐いた言葉は

「ピカソに挑み、のり越えることが我々の直面する課題である」

「神はたおされなければならない」

「ピカソが今

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泉谷閑示「『普通がいい』という病」講談社現代新書

泉谷閑示「『普通がいい』という病」講談社現代新書


健常者と異常者の境目とは何なのか?
中原中也は「病的である者こそは、現実をしっているように私には思える」といっているように、正常を約束しているものは世間一般の常識などに過ぎない。

「ノラの家」で最後にノラが「妻、母親である以前に自分自身に対する義務」をもって家を出て行くとき、夫は「きっと病気だな、正常ではない」と切り捨てる展開も同じコンテキストだ。

健康にこだわっていること自体が実は非健康的

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