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木崎喜代治「幻想としての自由と民主主義」ミネルヴァ書房


この本に出会った時は「あたり!」って感じだったのを今でも覚えている。
参議院選挙でまた「その場限りの虚構を演じる政治家たち」の熱弁を聞かされると思うと気が重いが、自由とか民主主義を考え直す機会とするならいい機会かもしれない。本著はこういった問題意識に存分に多くを示唆してくれている。

著者は「勉強しない自由」を主張するある大学生の話を聞いて、反論できなかった教授の反応から、きっかけを得たという。こういう言動を可能たらしめている「自由」には何か間違った「自由」の蔓延が要因としてある。責任と規律があっての自由なはずなのに・・。あえて言えばこの学生の言動は「勉強する権利の放棄」でしかない。それを「自由」でカムフラージュしたわけだ。

先生に「教えない自由」があるか。人間に「犯罪を犯す自由」があったとして、それを遂行したらどうなるのか。いま「自由とは何ですか」と質問したら、多くの人が「やりたいことができる」「誰にも束縛されない」とこたえるだろう。

しかし、それは社会というフィールドの中ではあらゆる制限を受けざるを得ない。したがって、一般人が考える「自由」はこの世界に存在しないということになる。ルソーが唱えた「人間は自由なものとして生まれた」(社会契約論)という有名なテーゼは「信仰の自由」を除外する。  

この自由・平等といった考え方はキリスト教文化圏から出て来たが、キリスト教では人を「迷える羊」としており、数々の約束で教徒たちを縛っている。これを破るような「自由」は悪ということになるのだ。

「信仰の自由」ということばは自分の宗教を絶対に守るという前提下に生まれた概念であり、「寛容の原則」とは方向を異にする。「自由」には限界がある。限界のない「自由」は放縦でしかない。しかも「自由である」ということは「拘束を受けない」という以外に何ら積極的、創出的意味は含意しないのだ。逆に「権利」には積極的な意味が内包される。著者の「自由」に関する結論は以下のとおりである。

「自由ではなく、自律が人間達を導く基本的原則であることが承認されるとき、現在失われつつある人間の社会性は再び保持され、強化されるだろう。というのも、自律こそが人間相互間の真の絆の根幹をなすからである。」

「人間は自由なものとして生まれる」という虚偽の観念を捨て、「人間は社会的存在として一定の拘束の下に生きている」という格律を樹立すべきだ。

次に民主主義だが、ここに関わる重要な概念は「平等」だ。実際には「自由」と矛盾する「平等」を訴えること自体が茶番である。民主主義は自由主義という幻想思想の土台の上からは生まれない。

ではどうするか、ここに登場するのが「賢人政治」「貴族政治」(アリストテラシー)である。真にプロフェッショナルな市民の代表としての政治家が、圧倒的な専門性をもって政治を行う。今の政治は「衆愚政治」、選挙する側も政治を理解していないのだ。噂や雰囲気に左右され、お祭り騒ぎの選挙戦を黙認する。だから素人集団の政治が形成されるわけだ。

ここで活躍している指南役がマスコミ。これは絶大な力を発揮している。このマスコミの堕落が衆愚政治を見事に形成してしまっている。「表現の自由」という虚構を捨て、「表現の自律」によって「市民」を形成しなければ真の民主主義は到来しないのだ。教育にも通じる部分が多々あり、しっかりメモしておきたい。

<メモ>
・人々は、自分が善であると考えるすべてのものを「自由」あるいは「民主主義」の中に放り込み、詰め込む。しかし、「自由」の正体は不明なままだ。

・「自由」とは拘束の不在を意味する。

・サルトル曰く「『自由に振舞う』とは『他者が存在しないかのごとく振舞う』ことである」

・自由な人間は社会性を持つことができない。

・人間の個々の行為を規制すべき格律は社会的かつ経験的に成立する以外にない。この点で私(著者)は「道徳感情論」を書いたアダム・スミスの弟子である。

・奇妙にも、もっとも子供を自由な存在として扱っているように見える日本が、実は、最も子どもを子供扱いしている国なのだ。社会の不可欠の一員である自覚がほとんど教育されていない。

・「デモス」(一般大衆)による「クラシー」(統治)=デモクラシー
・徳とは他者からの称賛に値することへの愛である。名誉は眼前の他者を必要としているが徳はそうではない。

・「衆愚政治」は多くの「タレント議員」「素人政治家」を生みだす。

・人間はあらゆることに慣れる。五感の伴わない殺人がゲーム感覚が行われていれば、それは習慣化する。その放置はマスコミの責任であり、政府の責任である。

・「表現の自由」という空虚な標語ではなく、「表現の自律」の原則の上に立つべき。

・映像の世界で生きてきた世代には言葉の説得は威力を発揮しない。


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