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書評

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#家族

凪良ゆう(2022)『汝、星のごとく』講談社

どうしてこうにも人間はままならないのだろうか。それでいて、愛おしいのだろうか。人の感情をむき出しに描くことで、この世の中を生きることの現実と希望を指し示してくれる一冊。同時にそれまでの家族の形に縛られない、新しい生き方に向け背中を押してくれる。

夢と挫折と、恋愛と依存と、社会と家族と、近いようでいて同じではないそれらに僕たちは振り回されながら毎日を生きているのだろう。ただその中でも、光る夕星をめ

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NHKスペシャル取材班編著(2012)『無縁社会』文春文庫

全く色褪せない、むしろますます重大になっている社会問題である「無縁社会」。2010年にあぶり出され、流行語にもなったこの問題は令和の時代になっても、孤独・孤立対策が焦点になるなど人々の暮らしを蝕む一大要因である。

誰かに見守られながら生まれる人間が、どうして死に際には誰にも看取られることなく孤独で、時には何か月も発見されずに朽ち果てていることが有り得てしまうのか。人権や人道の次元で到底受け入れら

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篠田節子(2019)『冬の光』文春文庫

大学闘争やその後の高度成長期を生きた一人の男の人生を描いた物語。切っても切り離せない男女の関係のどうしようもなさと、人生の夢と現実の折り合いのつけ方の二大テーマを綿密に書き上げる。

この世界には絶対の悪意は滅多になくて、それでも誰かのやむにやまれぬ行動は、別の誰かを深刻なまでに裏切ることになってしまう。仕事も恋愛も、皆が皆、望みの通り果実を手に入れられる世の中は実現しようがないのであろうか。

清水晴木(2021)『さよならの向こう側』マイクロマガジン社

死者が最後に会いたい人に会いに行く物語。でも会えるのは自分の死を知らない人だけ。そのような条件の下で、頭を悩ませながら最後のひと時を過ごす人々を描いた生と死をテーマにした作品の一つ。

本書に特徴的なことと言うならば、悔いなく死ぬとはどういうことなのか考えさせられるということだろうか。最後に会ってみたとしても死という結末は変わらない。でも会うことで世界の何かが変わる。一人一人が持つ世界を変える力が

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山本文緒(2016)『なぎさ』角川文庫

海辺の街を舞台にした人間関係ドラマ。口に出さないならば、どんな親しい間柄でも分かり合うことは難しい。どこまでいっても他人である二人の人間同士、すんなりといかないことばかりだけど何処か愛おしくもある。

なぎさには、どこまでも開けた人やモノの行き来と無限の衝突が待ち受けている。時に得体の知れない存在と鉢合わせることもあるけども、広い空間には遮るものはなく、自分の決めた方向に歩みを進めることはいつだっ

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窪美澄(2017)『水やりはいつも深夜だけど』角川文庫

映画『かそけきサンカヨウ』の原作本。映画と同じで、読後にどことなく透明で爽快な感情になる。家族や結婚や恋愛の、決して状況が一夜にして好転することのない絶望感は厳然としてそこにありつつも、それでもクリアな気持ちになれる不思議。

作者の窪美澄さんは男女を中心とした人間関係の「どうしようもなさ」を描く作品が本当に秀逸で、本作も全く期待を裏切らない。人間に対するそんな眼差しをこの世界のみんなが持てたなら

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彩瀬まる(2018)『不在』KADAKAWA



どうしてここまでも人間というものは生まれ育った時の愛情の数に翻弄されるのだろうか。いびつな家庭で育った主人公が恋人との将来にもその病理を持ち込んでしまう。呪いのようにどこまでも付きまとう家族の歴史。

愛着障害として人口にも膾炙されてきたように思われる一連の現象に、未だに明快な説明をつけられない気がするし、どうやってそれを回避したらいいのか分からない。執着を捨て、この主人公のように愛なき一歩を

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山本文緒(2020)『自転しながら公転する』新潮社



社会問題とかに一旦興味を持ってしまうと、結局何もできない自分のちっぽけさにやりきれない気持ちになってしまう主人公。それでも日々の彼女を取り巻く生活の一つ一つ、それぞれの場面での葛藤や選択がとてつもなくエネルギーを要するものであることも事実。

あれもこれもと迫られる毎日の中で、劣等感とか嫉妬とかに苦しみながらも耐え抜いて、耐え抜いて耐え抜いて、その先にたまに来るブレイクスルーを掴み取りたいとこ

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有川浩(2017)『キャロリング』幻冬舎文庫



基本的には家族や恋人との絆をテーマにしたエンタメ本。キーとなる子どもがどこか年齢離れしていて、物語の進行上仕方ないにしても少し残念。しかしながら、要所要所の心理描写が的を射ていて秀逸である。

夫婦の争いを目前で見せられる子どもの感情、元恋人への自然と出てしまう躊躇い、親代わりと思ってきた人への信頼、取り戻せない愛しさと変わらない愛情。生きとし生けるものの感じる情動の大きさよ。

一木けい(2020)『全部ゆるせたらいいのに』新潮社



別に望んでなんかいないのに、子どもは両親を選べなくて、しかもその家族の中で人間として自らが形作られていく。暴力を受けた覚えしかない父親でも、どうして死んだら悲しいのだろう。何を後悔しているというのだろう。

不可解な感情を呼び起こすのも、「家族」というものの魔力だ。体の奥底に染み付いた呪いのような、でも祝福されるべき絆。強すぎるゆえに、凶器にでもなり、宝物にでもなる。受け入れられるわけないのに

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櫻いいよ(2020)『それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた』宝島社文庫



群像青春劇。まっすぐな想いはいつもすれ違い、誰かを傷つける。でもこの物語はむしろ、誰かを傷つけたくない思いが歪んで、惨事をもたらす。行動することと、あえてしないことは、どちらが正しいことなのだろうか。

ネット小説由来の文体はむしろ少なく、一般的な文芸作品となっている。簡単に名前をつけられない感情と、抱えきれないほどのそれを抱え込もうとする青年たち特有の真っ直ぐな態度を詰め込んだ切ない一冊。

寺地はるな(2018)『月のぶどう』ポプラ文庫



姉弟という、いざという時に頼ってもきっといいんだと思わせてくれるような関係が尊い。さらに心に残るのは、どれだけ長くやってきたからといって、それだけで自分にだけ「資格」があるわけではないという主人公の気づき。

ある日突然、天職のようなものに出会って、一躍有名人になるなんてことはあんまりない。でも、目の前には今やるべきことがきっとあるから、とりあえず手を伸ばそう。誰か相棒を見つけて。ワインでも飲

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山田昌弘(2013)『なぜ日本は若者に冷酷なのか』東洋経済新報社



子どもの声を嫌う国に、未来が無いのと同様に、
若者に冷たい国に、少子化解決の糸口など見えてくる筈もない。

高賃金の仕事はない。若者はリスクも取らない。そうした環境を生みだした社会も問題だ。チャレンジとは、失敗したときの支えがわかっていてこそ、成功の可能性が高まるもの。ベーシックインカムというのもいいかもしれない。期限付きで。

瀬尾まいこ(2018)『そして、バトンは渡された』文藝春秋



現状を肯定する力、それが生きるヒントなのだろうと勇気をもらえる一冊。奇抜な設定は無く、淡々と過ぎ行く毎日に今を認める力強さを感じられる。

家族のかたちを少し、大きく広げてもいいのではないかという考えがまたもにじみ出ている。いま私たちが求めているつながりってなんだろうか。