山本文緒(2020)『自転しながら公転する』新潮社

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社会問題とかに一旦興味を持ってしまうと、結局何もできない自分のちっぽけさにやりきれない気持ちになってしまう主人公。それでも日々の彼女を取り巻く生活の一つ一つ、それぞれの場面での葛藤や選択がとてつもなくエネルギーを要するものであることも事実。

あれもこれもと迫られる毎日の中で、劣等感とか嫉妬とかに苦しみながらも耐え抜いて、耐え抜いて耐え抜いて、その先にたまに来るブレイクスルーを掴み取りたいところ。地方都市に生きる、エリートではない、中間層の、ごく平凡な一人の人間の波乱に満ちた人生の一幕を描く。

プライベートな小説ではありつつも、現代社会との繋がりや、この国の未来への風刺も織り込まれていて、読んでいてとても現実感がある。同じ時代に生きるある一人の人生譚のように共感しながら読めるのではないだろうか。読んで最後、じわじわっとした希望を感じられる。

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