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研ぎすました短刀のような12編 『刑罰』

研ぎすました短刀のような12編 『刑罰』

各国で絶賛され、日本でも2012年の本屋大賞・翻訳小説部門トップに輝いた『犯罪』の筆者の最新作は、期待を裏切らない珠玉の短編集だ。
『犯罪』と『罪悪』の2作を何度も再読してきたシーラッハファンの私にとっては、文字通り、待望の1冊。6月に入手して以来、お気に入りの収録作はすでに3~4回読み返している。

『刑罰』東京創元社
フェルディナント・フォン・シーラッハ

ドイツで刑事事件専門の弁護士として活

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【フランス近代演劇編】ハヤカワ演劇文庫50冊を一挙紹介!~本を読んだら劇場へ、舞台を観たら本を手に。~

【フランス近代演劇編】ハヤカワ演劇文庫50冊を一挙紹介!~本を読んだら劇場へ、舞台を観たら本を手に。~

早川書房は演劇青年だった創業者・早川清の「自由に本が読みたい」という決意のもと、1945年8月15日に設立された出版社です。その創業の志をつなぐ演劇専門レーベル「ハヤカワ演劇文庫」は2006年に創刊。15年にわたり国内外の優れた戯曲をご紹介してきました。そしてハヤカワ文庫50周年にあたる今年、50冊目の演劇文庫「ピーター・シェーファーⅠ」を刊行いたします。この節目に、ハヤカワ演劇文庫の既刊をご紹介

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大学受験のための読書案内・1

大学受験のための読書案内・1

 大学受験の現代文や小論文では、哲学や思想などをテーマとする、場合によっては相当に難解な文章も出題されます。ではどうすれば、そういった文章を自力で読み解けるようになるのでしょうか? その答えにはいろいろあるのですが、やはり、継続的な読書によってそうしたテーマやそこに出てくる言葉の意味を一つでも多く知り、それについて自分なりに考えてゆくことが大切になります。この「大学受験のための読書案内」シリーズで

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ディープフェイクと向き合うために(note:3)

 ディープフェイクとは「deep learning」と「fake」を組み合わせた言葉で、深層学習によって精度を高めた偽の画像や動画、またその作成技術のことをいう。これには通称「GAN(Generative Adversarial Network)」、敵対的生成ネットワークが利用される。まず与えられたデータをもとに「ジェネレーター」が可能な限りリアルなコンテンツを作り、一方で「ディスクリミネーター」

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本はどこから作るのか――kaze no tanbun 製作記2

本はどこから作るのか――kaze no tanbun 製作記2

本はどこから作るのか――kaze no tanbun『特別ではない一日』
西崎憲 with 奧定泰之・竹田純

製作記1
製作記3
製作記4
製作記5
製作記6

 1 本はどこから作るのか

 本はいったいどこから作るのが正しいのだろう。
 柏書房の竹田さんと打合わせを進めながら、わたしはそんなことを考えていた。
 本を構成する要素はたくさんある。一般的にはもちろん内容がまず先にくるはずだ。内容

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動物は互いをどう呼び合っている? 人が付けた名前への反応は? ドイツで27万部のベストセラー『動物たちの内なる生活』(早川書房)から特別抜粋

動物は互いをどう呼び合っている? 人が付けた名前への反応は? ドイツで27万部のベストセラー『動物たちの内なる生活』(早川書房)から特別抜粋



(書影をクリックするとAmazonページにジャンプ)

『動物たちの内なる生活 森林管理官が聴いた野生の声』
ペーター・ヴォールレーベン/本田雅也訳 早川書房

「命 名」

私たちには当たりまえなことだけれど、コミュニケーションをとるとき、私たちはおたがいを名前で呼び合える。大きな社会のなかで誰かとつつがなく接触を持つためには個人の名前が必要であり、その名前を口にすることで、人は相手の注意を

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賢者が説く、しなやかな生存戦略 『反脆弱性』

賢者が説く、しなやかな生存戦略 『反脆弱性』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に7月29日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

著者ナシーム・ニコラス・タレブは、ユニークな実践知を提唱する当代の賢者の一人といって良いだろう。

ベストセラー「まぐれ」では、生物としての人間が進化の過程で獲得した「世界の切り取り方」が、現代社会、特に経済・金融分野では有害なバイアスとなり、意思決定やリスク管理などで重大な誤りを

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再読必至!文系向けオススメ理系本10選

再読必至!文系向けオススメ理系本10選

こちらの投稿はツイッターのアンケートでご要望が多かったテーマです。今後も企画募集をやるのでこちらからぜひフォローを。

理系になれなかった文系君

「文系・理系という分類は日本独特のおかしなモノだ」なんて説があるが、現実には、この仕分けはある程度ワークしていると思う。
私は文系だ。残念ながら。
なぜ残念かというと、正確には「理系に憧れたけどセンスが無かったのであきらめた文系」だからである。

理系

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【新作『Acting Class』発売記念 ニック・ドルナソ全作品解説トークライブ関連】『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より/「君、バズりたまふことなかれ──沈黙を取り戻すグラフィック・ノベル『サブリナ』」(矢倉喬士)

【新作『Acting Class』発売記念 ニック・ドルナソ全作品解説トークライブ関連】『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より/「君、バズりたまふことなかれ──沈黙を取り戻すグラフィック・ノベル『サブリナ』」(矢倉喬士)

新作『Acting Class』発売記念 ニック・ドルナソ全作品解説トークライブが、本のあるところ ajiroで2022年9月29日(木)に開催されます。このイベントに関連して、『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より「君、バズりたまふことなかれ──沈黙を取り戻すグラフィック・ノベル『サブリナ』」(矢倉喬士)を期間限定で無料公開します。

 バズる。ブンブンとうなる虫の羽音。多くの人々の間で話題に

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スタンフォード大などMBAトップ校合格者のエッセイが無料で読める!

スタンフォード大などMBAトップ校合格者のエッセイが無料で読める!

世界トップランクのMBA合格者のエッセイが読める英語圏のネットは専門的なものも含めて「無料」の情報がたくさんあるけれど、ハーバードやスタンフォードなどMBAの世界ランクのトップ校30校の合格者が実際に提出したエッセイが「無料」で読めるサイトを見つけたのでご紹介。

例えば皆が憧れるスタンフォードMBA。以下のようにエッセイの課題とその答えが載せられている。

質問を訳してみると以下のようになる。

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「ファクトフルネス」は、2019年に日本人がまず真っ先に読むべき1冊だと言えると思います。

「ファクトフルネス」は、2019年に日本人がまず真っ先に読むべき1冊だと言えると思います。

書籍「ファクトフルネス」は、TEDトークで、データに関する伝説のプレゼンテーションを遺したハンスロスリング氏が書いた書籍です。

彼のプレゼンテーションは、TEDトークの数ある人気プレゼンの中でも、私のダントツのお気に入り。

この動画の4分ぐらいからの1分間なんか芸術ですよね。

私たちが昭和の頃から思い込んでいる発展途上国という概念が、もはや適切ではない言葉であることを思い知らせてくれる楽しい

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「科学的思考の緻密さ、美しさ、深遠さを伝える第1人者」(朝日新聞書評)ドーキンス最新作。鎌田浩毅氏の解説を公開。

「科学的思考の緻密さ、美しさ、深遠さを伝える第1人者」(朝日新聞書評)ドーキンス最新作。鎌田浩毅氏の解説を公開。



解説
鎌田浩毅(京都大学大学院人間・環境学研究科 教授)

 本書はリチャード・ドーキンスによる最新の科学エッセイ集『魂に息づく科学(原題は SCIENCE IN THE SOUL、二〇一七年刊行)』で、著者の専門である進化生物学を中心とした科学解説、社会批評、知人の著書の序文、弔辞など、非常に多岐にわたる文章が収められている。編者のジリアン・ソマスケールズ(Gillian Somerscal

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日本が人手不足なら、なぜ私たちの給料は増えないのか?

日本が人手不足なら、なぜ私たちの給料は増えないのか?

このノートは、2018年9月に刊行された『データサイエンス「超」入門 嘘をウソと見抜けなければ、データを扱うのは難しい』の第6章「人手不足なのにどうして給料は増えないのか」を【無償】で全文公開しています。

編集者曰く、

「在庫から考えて、紙ベースであと1000冊売れたら増刷です」

という声を頂いたんで、ぜひぜひ手に取ってみて下さい。この無料公開を通じて、今まで本書の存在を知らなかった人に広ま

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世界2.0の轟音、あるいは小さな声を拾い集めることの難しさ

世界2.0の轟音、あるいは小さな声を拾い集めることの難しさ

文学研究をしている頃徐々に気づいたのは、技術的に優れた文章が、いつでも良い小説となるわけではない、ということでした。逆に言えば、無茶苦茶な文章(ほんとはそうではないんですが)でも、すぐれた文学作品として結実することがあるということです。

例えば中学生のチラシの裏の書きなぐりのような文章がぽんぽんと出てくる、中原昌也の『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』は、「上品なお文学」に対する嘲笑と、人間や世

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