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24. BRAND NEW MORNING(新しい朝)――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」Reflexivity(終)
Reflexivity ――まずなにを教えてくれるの? ――ビーフシチュー。 ――いいね。お腹すいてきた。 ――ねぇ。 ――なに? ――ふたりだけの呼びかたがあったらいいな。 ――コードネーム的な? ――っていうか。 ――いいよ。つけてよ。 ――「ヤロ」にちょっと足して「ゼロ」。 ――あ、そしたら。 ――ん? ――「キ」から二本の横線をとったら「1」にならない? ――アルファ。 ■トキョ地検、ジョン・セイディー氏を家宅捜索 内閣官房によると、トキョ地検の思想犯罪刑事部
21. ゼロ・フォレストvsエルンスト・シュッヘ――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」World-1
World もちろんわたしには見えている。 「おかしいとは思わなかったんですか?」 とゼロは言った。碧眼に細い鼻、少し下膨れの頬に薄い唇。角張った肩から下は白のエナメルライダースーツで覆われていてボディラインがくっきりと浮き出ている。そしてこれが自分だという。顎を引き視線を真下に落とすと、エナメルに包まれた胸の膨らみがさえぎる。たしかに自分はゼロと同じ服を着ているようだ。どこかしらがスースーする。 「なにが」 と答えようとした言葉がおどろきに途切れる。声が明らかに高くなり
17. Reflexivity, Recursivity, Recurrency――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」He-2
シュッヘはトキョ大学理学部へ、彼はシンガポール国立大学人文社会学部へと進学した。アジアに冠たるコンピューティング学部とも迷ったが、ナイアーラトテップ事件で自らの関心がコンピュータではなく人間にあることが引っかかっていたし、本身を入れて日本語の勉強がしたいのも動機としてはあった。日本嫌いの母は半狂乱になって反対したが、彼が彼女へ同調し言葉を先取りし感情を全面的に肯定して結論だけはごまかし続けることで許諾を得た。ただ、母はそれが原因だったのかうつ病を患い、つとめていた研究所を休
14. The Star-Spangled Banner(星条旗)――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」Hell-2
午後九時半。 窓際にかかった電波時計は文字盤に架空の動物が大きく描かれていて、日が変わるときに一回だけ鳴く。他に見たことがないくらいデフォルメされていて、立ち上がって片手を振っているから二足歩行だと思うんだけど、どういう名前なのかはわからない。カーテンを閉じる。お皿洗い。ママは職業がら肌にあんまり負担をかけられないからいつもわたしの仕事で、どのくらいの食器と汚れの量ならどのくらいの洗剤が必要かは考えなくてもわかる。 午後十時。 明日の予習。水素の原子は一個の陽子と一
12. あなたの理想とする世界は実現しましたか――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」Hello, -2
「それは知らなかったな」 「はたしてそうでしょうか。内訳としては単身の自殺が八人、無理心中が四人、餓死が三人、原因不明の変死体が二人、殺人未遂のち正当防衛での返り討ちが一人です。一連の死亡者の関係は政府によって隠蔽され、第一弾によってじゅうぶんな知見が得られたとの公式発表をもってユービックプロジェクトは終了しました。一部のジャーナリストが取材を重ねはしましたが、そのどれもが形になりませんでした。プロジェクトの一員が死亡者の解剖結果と彼らの脳に異常が見られなかったデータをわざと