22. Hamartia(的外れ)――エメーリャエンコ・モロゾフ「奇譚収集家エルンスト・シュッヘの巡礼」World-2
シャルトルブルーもステンドグラスも、クリス・セイディーもいない。
どこまでも真っ白に続くなにもない空間に、ふたりはいた。
どちらも子どもだった。
ひとりは聡明そうな男の子で、もうひとりは気弱そうな女の子だった。
女の子が、
「シュッへくん」
と言った。
男の子は、
「ん」
と答えた。
そのまましばらく黙っていたが、女の子のほうが、意を決したように話し始めた。
「きみが最後のひとり。だからラストチャンス。もとの人格との適合率が低い人間からわたしに検知されていったから、きみがいちばんシュッへくんを保ってるはずだ。それはそのまま、彼、の記憶、その不在を純粋に保持してるってことになる」
「そうだね」
「今度は自信あるんだ」
「うん」
「シュッヘくん、わたしは、彼に似ているかな」
と女の子は言った。
「ぜんぜんちがう。少しも似ていない」
と男の子は言った。
「そっかあ、そっか」
「うん」
「会いたいよ」
「うん」
「わたしは、彼に、会いたい」
「無理だね」
「そっか」
「でも、ラストチャンスではないかもしれない」
エルンスト・シュッヘは完全に消去された。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?