記事一覧
藤原章生講演録:ブッカー賞作家、J.M.クッツェーとアフリカ (「アフリカの心をよむ 」-1- 於 渋谷パルコ、2001年7月7日 )
(C) Akio Fujiwara, Namibia
自分のことをまず紹介させていただいた後、南アフリカの曲を流しながら、南アフリカの写真を見ていただこうと思います。その後に、きょうの本題であるクッツェー(J. M. Coetzee) とアフリカについてわかりやすくお話ししたいと思います。
おそらくアフリカというより、J.M.クッツェーのファンという方もおられると思うので、文学論になる
故郷など、ないのではないか
南アフリカの旧トランスカイ地方(東ケープ州), (C) Akio Fujiwara, former Transkei, Eastern Cape, South Africa
小学校6年の秋だった。今はもうない、ねずみ色の立派な洋館、日比谷映画で「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」(1973年)を見た。当時、親に放任され、ませた子どもだった私は、クラス中から長期にわたり無視、今でい
南アフリカの路上犯罪と、善なる人々
ケープタウン近郊、テーブルビューの海岸からテーブルマウンテンをのぞむ(C) Akio Fujiwara
「やられたー。ハイジャックされた!」。台所で野菜を切っていると妻が駆け込んできた。「電話、電話。フライング・スクワッド(南アの緊急警察隊)」。そう応えた私も慌てたが、まずガレージ脇にある民間警備会社の「パニック・ボタン」を押した。
すると、玄関に取りつけられたサイレンが鳴り始め、通
貧しさがテロをもたらすのではない
コンゴ民主共和国のキサンガニでルワンダ軍に訓練を受けるルワンダ出身の越境者たち (C) Akio Fujiwara
2001年9月、米同時多発テロの直後、貧しさがテロを生み出すというコメントをよく聞いた。裏を返せば、テロを鎮めるには貧しさをなくすしかないということだ。その通りかも知れない。だが、アフリカから日本に戻ったばかりの私には素直にうなずけないものがあった。貧しさと言えば、アフリカ
積年の思い、再びーーBLMで
新聞記者は単純なのもので、自分の原稿が大きく載ればうれしいが、ようやく出たかと思えば小さな扱いだと、いまいましい気分になる。最近、そんないまいましさを思い出した。
特派員としてアフリカ、ラテンアメリカ、イタリア、ギリシャをカバーしていたころ、私の主な仕事は読み物、企画記事を書くことだった。1回1000字ほどの長さで3回から7回ほど連載していた。もちろんニュース記事や大型企画を書くこともあ
作家、クッツェー先生との出会い
(c)Akio Fujiwara 1997
毎日新聞の特派員として南アフリカに滞在中、ひまを見つけてはアフリカの小説を読んだ。アフリカ文学を日本に紹介しようと、気になる作家を訪ね、インタビューを重ねた時期もあった。
だが結局、多くの作家を網羅する企画を放り出してしまった。最初に好きになった南アの作家、J・M・クッツェー(1940~)と並ぶような作家にめぐり会うことがなかったからだ。
J・M・クッツェーと寡黙さ
(c) Akio Fujiwara
J・M・クッツェー氏の作品群には、寡黙な人物がよく出てくる。
無人島のロビンソー・クルーソー(「敵あるいはフォー」八六年)、癌を宣告され死期を待つ老婆に寄生する死の使いのホームレス(「鉄の時代」九〇年)、自殺した息子の足跡を追い、息子の下宿に長居するドストエフスキー(「ペテルスブルグの文豪」九四年)。
九九年作品の「恥辱」では、レイプした主人公の
立ち上がってきたアフリカ
私の中のもやもやが少し晴れてきた。最近、アフリカのことをよく考えるからだ。
4月20日、ルワンダ人のティム(仮名)から連絡があった。彼は妻と10代の娘2人と妻の実家があるベルギーの街に暮らしているが、このときはルワンダから電話してきた。
母親に会うため、ひとりで首都キガリに帰ったところ、新型コロナウイルスのせいで国境閉鎖となり、ベルギーに戻れなくなったという。
今はネット回線があれば世
耳の記憶、たまたまのアフリカ
藤原章生
暴動に巻き込まれたことがある。そのときの喧騒、人々の歌声、大合唱が耳から離れない。耳の記憶とはそういうものかも知れない。そのときの音が耳の奥でイヤホンから漏れ出る雑音のようにズーズーと常にくすぶっている。だが、当のこちらは声ひとつ発する
戦場報道のマッチョとうつ 藤原章生
先日、高速道路のサービスエリアで何気なくCDの棚を眺めていたら、「思い出のフォークロック」という背表紙が目についた。曲目をざっと見ると、「或る日突然」などトワ・エ・モアの歌が3曲も入っていた。復古盤にしては値が高いと思いつつも買うことにした。いま音楽はネットで聴けるため、CDを買わなくなったが、きっと長旅で疲れていたのだろう。何か景気づけがほしかった。
運転しながら早速聴いてみると、ザ・ワイル