マガジンのカバー画像

目目、耳耳

168
感想文。
運営しているクリエイター

#とは

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

もっとみる
白湯もすっかり冷めていた(フリッツ・ラング監督『M』)

白湯もすっかり冷めていた(フリッツ・ラング監督『M』)

フリッツ・ラング監督の『M』を見た。90年以上前の映画。友人がディスクを貸してくれた。

「すごく怖いよ」と勧められ、「ホラーは怖くないって言ったから、なんか、ものすごく怖いホラーとかか」と思ったけど、どうやら違った。サイコスリラーの元祖らしい。

あれか。「死んだ人間より、生きてる人間の方が怖い」って言ったからか。なるほど。腑に落ちるチョイス。

『M』は、巷を騒がせている少女連続殺人事件の犯人

もっとみる
十八歳の彼が一五〇〇円でやりくりしていたものを、検討してみる。

十八歳の彼が一五〇〇円でやりくりしていたものを、検討してみる。

煙草をひと箱。
ホットドッグを一本。
文庫を一冊。
コーヒーを二杯。
それから、三本立ての安映画。

――吉田篤弘『フィンガーボウルの話のつづき』p172より引用

このすべてを携えて、一日を過ごしてみたいと思った。

でも、おおよそ無縁なものが二つか三つあるので、むずかしいな、とも思った。

「煙草をひと箱。」

煙草を吸ったことはない。

煙が苦手。副流煙と主流煙は、別物だと思うけど。それに、

もっとみる

「エモい」がわからない? これを読め(エモーショナルきりん大全/上篠翔)

エモい #とは

「エモい」とは、なんとも言い表せない素敵な気持ちになったときに使う、主に若者の間で浸透している俗語(スラング)です。

――ふじのーと(山梨県の観光、自然)HPより引用

「エモい とは」と、Google先生に訊いてみたところ、検索上位になっていたのが上記である。内容はさておき、なんで「山梨県の観光、自然」のサイトに「エモい」の意味が載っているんだとか、URLにも含まれている山

もっとみる
モネと蜜月(『睡蓮の池』のポスター)

モネと蜜月(『睡蓮の池』のポスター)



10年前。ぼくは、恋をしていた。暇さえあれば、会いに行っていた。通っていた高校の特別教室棟。その中でももっとも人気のない階段。1階から2階へ上がる途中の踊り場。他には何も貼られていない掲示板。そこが、モネの『睡蓮の池』の居場所だった。ぼくは壁にもたれかかって、ときどき触れたりして、蜜月を楽しんだ。

存在に気付いたのは、いつだっただろう。モネが好きだったぼくは、すぐに虜になった。ポスターとはい

もっとみる
「そうすれば、なにかが見つかる気がして。」(鍵と錠前)

「そうすれば、なにかが見つかる気がして。」(鍵と錠前)



古い鍵に憧れていた。錆び付いていて、華美なものじゃなくて、実際に使用されていたもの。15年前のRADWIMPSの野田洋次郎のように、紐を通して首にかけておくのもいい。ぼくを、ぼくが知らない場所へ導く鍵。

それは、初めて訪れたアンティークショップにあった。

古い鍵は、たくさんあった。値札には、それぞれヨーロッパの国の名前が付いていた。つまるところ、その国のどこかで使われていたんだ。その中で一

もっとみる
不在のジュース(Welch'sのガラス瓶)

不在のジュース(Welch'sのガラス瓶)



大学生のとき、岡山へ旅をしたことがある。そのとき、なんとなく立ち寄ったアンティークショップで、なんとなく目に入ったのでお買い上げした瓶。ぼくが初めて手にしたアンティークの品でもある。

見知らぬ場所でも、見知っている場所でも、ひとりぼっち。当時のぼくは、持ち帰ったそれを机の上に飾り、ときどき撫でた。「なんとなく」とはいえ、触れたり抱えたりしていると、なんの変哲もない瓶がいとおしく思えるのだった

もっとみる
月を飲む(アルミニウムのスプーン)

月を飲む(アルミニウムのスプーン)

5年前だったと思う。名前は忘れてしまったけど、あるアンティークショップにふらりと立ち寄った。それは、隅の方にそっと置かれていた。アルミニウムのスプーン。

(本当にアルミニウムなのかわからないけど、一円玉と同じ材質に見えるので、たぶんそうだと思う。)

一目惚れだった。と同時に、ぼくは使い道まで思い描いていた。あんまりお金は持っていなかったけど、そんなぼくでも買える値段だったから、機会を逃してはい

もっとみる
瓶詰とぼく(アルミキャップのガラスボトル)

瓶詰とぼく(アルミキャップのガラスボトル)



先日、ガラス瓶を買った。親指の第一関節と同じ高さで、太さもそれくらい。80円(+税)でお買い得だったので、3コ買った。(ちいさなものを揃えるときは、必ず3コ。)並んでいるだけで、充分かわいい。

一応、目的はあった。この前遠出したとき(車で30分)路上で鈴を拾った。ので、小瓶を発見した瞬間、コレにしまっておこうと思った。ひしゃげた鈴の瓶詰め。パーカーのポケットに入れておいて、歩く度ちゃりちゃり

もっとみる

6月9日、スタートダッシュ(ヴァリアス・アーティスト)

ロックが好きなのに、ロックがわからないぼくによる、「ロックンロール #とは

始まり、始まり。

1.ROCKSTEADY - ストレイテナーたとえば、ロックは道標。

進むべきか。

留まるべきか。

そんなとき。

Q.ぼくは、どちらを選べばいいんだろう。

A.選べないなら、どちらも選べばいいだろう。

たとえ、道を歪めそうになっても。

そっと、前へ向き直してくれる。

2.Pizza

もっとみる

NOT BECAUSE(I'M HERE/スパイク・ジョーンズ)

あるカットに惹かれたのがきっかけだった。

(『THERE ARE MANY OF US』の表紙)

左斜め上から差す西日に逆光になっている二人がいる。人間じゃない二人。『I'M HERE』のワンシーン。



シェル・シルヴァスタインの『おおきな木』をご存知だろうか。

これは、ある子どもと『おおきな木』のお話。子どもは『おおきな木』を愛し、『おおきな木』もまた子どもを愛していました。しかし、

もっとみる

生きを擦って、(猿上がりシティーポップ/秋山 黄色)

辛うじて息を吸って吐いている
青酸なんとかだったら終わりって
笑えるね

「息を吸って」と変換しようとしたら、「生きを擦って」とまったく使ったことのないことばになった。

「擦り減りながら生きている」ってこと? PCにまで、そんなことを言われるようになったのか。

「笑えないな」と思いながら、笑っている。

好きが高じて 儚さって知っている
檻の中
俺によく似た奴が笑う

一生なんて言えるほど生き

もっとみる

想い続けた10年に、(twilight 10th Anniversary Deluxe Edition/haruka nakamura)

twilight
①(日の出前・日没後の)薄明かり;夕方,たそがれどき;微光
③ぼんやりした意識状態

――ジーニアス英和辞典 第4版より引用

何がきっかけだったんだろう。haruka nakamuraを、そして『twilight』を知ったのは。

ただ、Amazonで収録曲を試聴した瞬間、すっかり虜になってしまったことは覚えている。自分が知らなかった音楽、知らなかった世界……。

2010年発

もっとみる

本を読むなら、こんな風に(music for fuzkue/nensow)

“ソレ”は、鼓動から始まる。

本当のところはわからないけど、たぶんそうだと思う。

本を開くとき、

本を聞くとき、

そのとき、何かが生まれるのは、たしかだから。

“ソレ”は、『music for fuzkue』。

『本を読む音』。



本を読むときは、沈黙の中で。

そんな人も、いるかもしれないけど。

ぼくは、できれば音の中にいたい。

音の中にいる方が、安心できるから。

もっとみる