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十八歳の彼が一五〇〇円でやりくりしていたものを、検討してみる。

煙草をひと箱。
ホットドッグを一本。
文庫を一冊。
コーヒーを二杯。
それから、三本立ての安映画。

――吉田篤弘『フィンガーボウルの話のつづき』p172より引用

このすべてを携えて、一日を過ごしてみたいと思った。


でも、おおよそ無縁なものが二つか三つあるので、むずかしいな、とも思った。


「煙草をひと箱。」


煙草を吸ったことはない。


煙が苦手。副流煙と主流煙は、別物だと思うけど。それに、ぼくは喘息持ちだ。(昨日も、あるギャラリーを訪れたとき、発作を起こしてしまった。周りの人達に、ずいぶん迷惑をかけた。)だから、喫煙は自殺行為。


憧れはある。文学の上で。現実で吸いたいと思ったことはない。幸いに。


けれど、「煙草をひと箱。」は、すぐに実現できる。


今から買いに行くまでもなく、デスクの引き出しの中にある。ずいぶん前に買ったもので、賞味期限はとっくに切れている。


喫煙するために、手にしたわけじゃない。本当に、ただ、買ってみたいだけだった。タバコは、買い方が独特だから。それ以来、封も開けず、しまったままだ。とはいえ、持ち歩きたくはないな。


「ホットドッグを一本。」


ホットドッグは、あんまり食べたことがない。コンビニで買えばいいのかな。


「文庫を一冊。」


文庫は、いつも一冊以上。単行本のときもある。


「コーヒーを二杯。」


コーヒーは、いつも二杯。自分で淹れても、よそで飲んでも、一日二杯。までしか飲めない。ぼくは、カフェインに強くない。胃がすぐ荒れる。ので、二杯が丁度いい。好きなんだけどね。


「それから、三本立ての安映画。」


安映画か。今も、存在するのかな。安い高いに関わらず、そもそも近所にないな。映画館が。


せっかくなら、ミニシアターがいいな。通うなら。映画館で、安い高いはともかく、映画を三本立て続けに観賞できるなんて。それも、毎日? いいな。まあ、叶わぬ夢だ。


ふと、『三月のライオン』が観たかったことを思い出した。将棋じゃない方の。(将棋の方は、『3月のライオン』。アラビア数字の3。)


90年代の映画で、ディスクはずっと前に廃盤になっている。レンタルもしていない。デジタルリマスター版もあるらしいけど、ディスク化はされていない。


今は、「色んなものが簡単に手に入る時代」らしいけど、ぼくの場合、手に入らないことの方がずっと多い。


煙草は吸わない。ホットドッグは、よほど気分にならないと食べない。だから、文庫とコーヒーと、安くないけど映画を――。


普段のぼくと、何ら変わらないな。でも、それがいいのかもしれない。それがぼくには、十分贅沢で、十分満足だから。

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