記事一覧
レンガの中の未来(十五)
(十五)胎内時計
-お聞きしたい事があります。
-何だ、そんなに改まって。
-はい。これまで色々講義してもらっていましたが、特に聞きたい事があります。それは時間についてです。時間は一方通行なんでしょうか。つまり、カウントアップという状態しか続かないのでしょうか。
-何故そのような事を聞くのだ。
-今日作業場である人とお話をしたのですが、人間は技術が発達すれば過去にも行けるのかなと思ったん
レンガの中の未来(十三)
(十三)錯綜
シノーはほぼ毎夜、リキッドから「仮想講義」を受けた。
それに伴い得られた知識を試してみたいという感覚になった。
周囲にいる者達は日々の労働に追われている。そうだ、予備学校の女講師はどうだろう。
将来的に男女の区別はないことを言ってみて、どういう反応を示すか見てみよう。
それに今日は選抜試験の模擬面談もある。そこで面接官に自分の知識を披露すれば、恐らく驚嘆するだろう。
シノ
レンガの中の未来(十二)
(十二)再起
シノーは翌日夕方、幹部養成予備学校の前に立っていた。ドアをノックして教室へ入っていくと、そこには十数人の者が机に向かっていた。
そこに誰も知り合いがいないシノーであったが、すぐに例の女性教師と目が合った。彼女はささっとシノーに近づいてきた。
「まぁ、早速来てくれたのね。」
「はい。何時までも殻に籠っていてはいけないと思い、思い切って遣ってきました。」
「そう。前回はイリン
レンガの中の未来(八)
(八)手紙の行方
何とかなる。シノーは自分に言い聞かせた。イリンとシノーは、一緒にセリョージャ宿舎に向かっていた。陽は既に西の空に沈もうとしている。
夜になれば松明の灯りと月明りのみが頼りとなるが、本日は曇りである。これからどうすれば良いのだろう。
「イリン、早くしないと宿舎に着く頃には真っ暗だよ、早くしないと。」
木の枝で地面に絵を書いていたイリンに、シノーは急ぐよう言った。
「わかっ
レンガの中の未来(七)
(七)天国の母
小鳥のチュンチュンという囀りでシノーは目を覚ました。外は曇りである。シノーはいつもの習慣で早目に目が覚めたが、再びうとうとし始めた。
隣にはイリンがすやすやと寝息をたてている。頭に手をやる。あたたかい。額を撫でるとツルツルとした感触が心地よかった。明日もこうしていたいが、そうもいかない。
これからどの位こういう生活か続くのだろう。三か月みっちり働き、三日の休暇を取得する。今
レンガの中の未来(六)
(六)安寧
シノーは宿舎から徒歩で約二十キロの旅路に出かけた。午前中に出発すれば、夕方には着くだろう。今日も空は晴天である。シノーは歩いている間、様々な事を考えた。
イリンの元への徒歩小旅行はこれで四回目となるが、シノーにとってはこの歩いている間の思考整理が何気にお気に入りの時間であった。少しのお金を捻出すれば、馬車を使用して一気に目的地付近まで着く事は出来る。
だが、敢てその時間を確保す
レンガの中の未来(四)
(四)策略
三か月に一度の休暇が翌日となった。三日間ということになっているが、休暇前日の午後は給与支払等があるので、実質的に三日と半日が休暇となっている。休暇の使い方は人それぞれである。
只管身体を休める者、家族の元に帰る者、買い出しに行く者等など。休暇中は作業宿舎の隣にある施設で過ごすことになるが、その期間は労働は全くなく、自由な時間を過ごす事が出来る。
シノーはこの休暇では、弟がいる
レンガの中の未来(三)
(三)幻想…
翌日の朝四時、けたたましいラッパが鳴り起床時間が訪れた。いつも通りの点呼、朝食、作業場への移動。今はまだ週の半ばだから、昨日と変わらない組での作業だな。作業場に到着、直ぐに作業の準備にかかる。
四人組のうち、既に自分以外の三人は現場で作業をしており、自分もそれに加わる。昨日の初老の男が視界に入った。と同時にその男を二度見した。
ん?昨日のあの初老の男なのか?いや、確かに昨日の