方丈つかさ

関西地方でライフサイエンス系ベンチャーに勤務。 東京理科大学理工学部/大学院で免疫学/…

方丈つかさ

関西地方でライフサイエンス系ベンチャーに勤務。 東京理科大学理工学部/大学院で免疫学/毎日細胞を培養 フィクション小説好き/SF・科学系の小説を投稿していきます。 小説・創作好きな人と仲良くしたい。

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  • レンガの中の未来

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レンガの中の未来(一)

これから1~2週間に1回ペースで約10回を目途に短編小説を投稿していきます。 小説初挑戦になるので、ご感想頂けると幸いです。 【レンガの中の未来】(一)底なし沼  今が一年で一番良い季節だ。早朝、暖かくも寒くもない。一年中こんな季節であれば良いのにと思う。と言ってもこんな変化のない季節ばかり続いたら逆に変化を求めて不満が出てくるのだろうか。 いや、そんな事はないんじゃないか。砂漠のような季節が続けばそれはそれで良い感覚になるかも。 などなど種々考え事をしながら、シノ

    • レンガの中の未来(十五)

      (十五)胎内時計 -お聞きしたい事があります。 -何だ、そんなに改まって。 -はい。これまで色々講義してもらっていましたが、特に聞きたい事があります。それは時間についてです。時間は一方通行なんでしょうか。つまり、カウントアップという状態しか続かないのでしょうか。 -何故そのような事を聞くのだ。 -今日作業場である人とお話をしたのですが、人間は技術が発達すれば過去にも行けるのかなと思ったんです。そうすれば弟に会える。 いや、その他の死んでしまった人達にも会えるんじゃ

      • レンガの中の未来(十四)

        (十三)気づき 「お前さんの弟の事は聞いたよ、気の毒だったな。」 作業場での昼休み時である。初老のT二二八は、大石に座りながら言った。 シノーは立ちながら足で地面に絵を描いていた。 「はい、あれから早いもので半年程経ちました。最初は大変落ち込み、何もする気が起きませんでした。」 「しかし今は予備学校に通っているそうじゃないか、噂では聞いているぞ。」 「そうですね。今は大変充実しています。でも、今の境遇は弟が死んでいなければ実現していない状況でもあり、複雑ではありま

        • レンガの中の未来(十三)

          (十三)錯綜 シノーはほぼ毎夜、リキッドから「仮想講義」を受けた。 それに伴い得られた知識を試してみたいという感覚になった。 周囲にいる者達は日々の労働に追われている。そうだ、予備学校の女講師はどうだろう。 将来的に男女の区別はないことを言ってみて、どういう反応を示すか見てみよう。 それに今日は選抜試験の模擬面談もある。そこで面接官に自分の知識を披露すれば、恐らく驚嘆するだろう。 シノーは何だか毎日が楽しくなっていた。  ある日の予備学校でのことである。例の女講

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        レンガの中の未来(一)

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        • レンガの中の未来
          2本

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          レンガの中の未来(十二)

          (十二)再起  シノーは翌日夕方、幹部養成予備学校の前に立っていた。ドアをノックして教室へ入っていくと、そこには十数人の者が机に向かっていた。 そこに誰も知り合いがいないシノーであったが、すぐに例の女性教師と目が合った。彼女はささっとシノーに近づいてきた。 「まぁ、早速来てくれたのね。」 「はい。何時までも殻に籠っていてはいけないと思い、思い切って遣ってきました。」 「そう。前回はイリン君の事があったから試験を受ける事ができなかったけど、半年後にまたチャンスがあるわ

          レンガの中の未来(十二)

          レンガの中の未来(十一)

          (十一)意外 シノーは恐る恐るその乗物の中に入った。中には見たこともないような機械類があり、目をパチパチさせ、その中を見た。 「君はシノー君だな。」 「あ、はいそうですが、あなたはどなたでしょうか?」 「私の名はリキッドである。この時代の近未来から来た者だ。お前が声を掛けなければそのまま未来に帰る所だった。」 「近未来?」 「ああ、そうだ。正確に言うと一万二千年未来だ。更に言うと、私は近未来から来た指南役でもある。我々の時代よりも過去の者に種々ヒントを与え発展に寄

          レンガの中の未来(十一)

          レンガの中の未来(十)

          (十)トンネル 「心境が変わったら、この住所までお越しください。」 イリンの家庭教師だった女は、そう言うとシノーの作業場を後にした。 作業終了後、シノーはとぼとぼと宿舎へ向かった。空は雨雲で覆われ、今にも雨が降り出しそうである。 頭の中の話題は、先ほどの女の事だった。内容はエセンス家、正確にはノルギーを介したインペリアルスクールの計らいで、シノーを幹部養成予備学校に推薦する、というものだった。 その女はその予備学校で講師をしているそうだ。もし入学した場合、作業時間は

          レンガの中の未来(十)

          レンガの中の未来(九)

          (九)出会いと別れ  いつもの昼休憩がやってきた。シノーは一人、配膳係が支給した昼食を口にしていた。今日は晴れであったので、外での昼食とした。 …これからどうしようか。これで本当の独りぼっちか。自嘲気味に心の中で呟いた。ははは、これはこの前も独り言で言ったな。何をするにもうわの空だった。  昼食の殆どを食べ終え、まったりしていた時でだった。遠くから監視員の声が聞こえた。 「ここに、G六五五という者はいないか~?」 シノーは、最初は監視員が何か言っているな位にしか感じ

          レンガの中の未来(九)

          レンガの中の未来(八)

          (八)手紙の行方 何とかなる。シノーは自分に言い聞かせた。イリンとシノーは、一緒にセリョージャ宿舎に向かっていた。陽は既に西の空に沈もうとしている。 夜になれば松明の灯りと月明りのみが頼りとなるが、本日は曇りである。これからどうすれば良いのだろう。 「イリン、早くしないと宿舎に着く頃には真っ暗だよ、早くしないと。」 木の枝で地面に絵を書いていたイリンに、シノーは急ぐよう言った。 「わかった。これ、昨日僕が言った三十個のお月様のことだよ。三日月と逆三日月がじゃんけんし

          レンガの中の未来(八)

          レンガの中の未来(七)

          (七)天国の母  小鳥のチュンチュンという囀りでシノーは目を覚ました。外は曇りである。シノーはいつもの習慣で早目に目が覚めたが、再びうとうとし始めた。 隣にはイリンがすやすやと寝息をたてている。頭に手をやる。あたたかい。額を撫でるとツルツルとした感触が心地よかった。明日もこうしていたいが、そうもいかない。 これからどの位こういう生活か続くのだろう。三か月みっちり働き、三日の休暇を取得する。今日で少しの間はイリンとはお別れだ。 シノーはイリンを起こさないようにそっとベッ

          レンガの中の未来(七)

          レンガの中の未来(六)

          (六)安寧  シノーは宿舎から徒歩で約二十キロの旅路に出かけた。午前中に出発すれば、夕方には着くだろう。今日も空は晴天である。シノーは歩いている間、様々な事を考えた。 イリンの元への徒歩小旅行はこれで四回目となるが、シノーにとってはこの歩いている間の思考整理が何気にお気に入りの時間であった。少しのお金を捻出すれば、馬車を使用して一気に目的地付近まで着く事は出来る。 だが、敢てその時間を確保する事で、特に将来の事を考えた。片道で四時間程、往復で約八時間だ。これだけあればじ

          レンガの中の未来(六)

          レンガの中の未来(五)

          (五)建前 「今回のような案件は正直申し上げまして困惑と申しますか、なんと申したら良いか…。本インペリアルスクールの校風と申しますか…。多額のご寄付を頂いている事には大変感謝しているのでございますが。」 「とんでもございません、こちらこそこの度は申し訳ございませんでした。こちらの不手際でこのようなことになりまして。」 ノルギーは学校長との面談を終えると、各教員に会釈を機械的に繰り返し教員室から退出した。教員室を出ると一気に気分が高揚した。 全てが画策であった。一種の達

          レンガの中の未来(五)

          レンガの中の未来(四)

          (四)策略  三か月に一度の休暇が翌日となった。三日間ということになっているが、休暇前日の午後は給与支払等があるので、実質的に三日と半日が休暇となっている。休暇の使い方は人それぞれである。 只管身体を休める者、家族の元に帰る者、買い出しに行く者等など。休暇中は作業宿舎の隣にある施設で過ごすことになるが、その期間は労働は全くなく、自由な時間を過ごす事が出来る。  シノーはこの休暇では、弟がいる約二十キロ離れた所まで行く事になっていた。給与の一部で何か買ってやれる、その喜ぶ

          レンガの中の未来(四)

          レンガの中の未来(三)

          (三)幻想…  翌日の朝四時、けたたましいラッパが鳴り起床時間が訪れた。いつも通りの点呼、朝食、作業場への移動。今はまだ週の半ばだから、昨日と変わらない組での作業だな。作業場に到着、直ぐに作業の準備にかかる。 四人組のうち、既に自分以外の三人は現場で作業をしており、自分もそれに加わる。昨日の初老の男が視界に入った。と同時にその男を二度見した。 ん?昨日のあの初老の男なのか?いや、確かに昨日のあの初老の男に間違いないようだ。それにしてもどうしたのだろう、あの生まれ変わった

          レンガの中の未来(三)

          レンガの中の未来(二)

          (二)意識  シノー達が作業をする場所から数百メートルの所に小高い丘があるが、そこには全くの別空間が広がる。その丘には幹部用の建屋がある。 建屋と言っても、地下室や娯楽施設も兼ね備えている、庶民にとっては宮殿のような建物である。常時数十名の幹部が事務机を並べ、レンガの流通状況把握業務や関連事業部の者が出向という形で業務を行っている。 「今週の受注は千二百五十トンになります。」 「それは関係部署より既に聞いた。」 「やや無理な受注の印象ですが…。もっと人員を足しません

          レンガの中の未来(二)