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#小説連載中
香山の11「オーバードライブⅠ」(17)
中崎が去り、雰囲気も軽くなった。
「香山さんは、いくつ」
「二十六になったが、そちらさんは」
私は甘ったるいカフェオレを飲み、唾液すら甘くなっているのを感じていた。本来はこのような飲み物は好まない。彼はまだ何も注文していなかったが、それをなんとも思っていないようだった。
「じゃあ、同い年かね」明が少し語調を強めた。私は中崎と話したときと同じ威圧を覚えた。「そうかい、同い年かい」
今度は、私は
明の7「博多口」 (23)
貫一は私との対面を隠蔽した。しかし、その理由は何なのか。彼が言うように、私がお宮を連れて博多口に行けば、お宮を奪還を試みるはずだ。
貫一は駅構内に交番があるとは言ったが、その交番は駅構内の中心にあるわけではなかった。博多口の前にある広場の、極めて端寄りにあるために、駅の構内を見渡すことなどできはしない。そして、私も彼も、警察からの注目を好まないために、無理やりにでも貫一がお宮を連れ去ることは可
明の9 「真夏の夜の匂いがする」(25)(和訳付き)
博多口を出ようとした。
出られなかった。気がつくと私は踵を返していた。間反対の、元いた筑紫口に向かっている。お宮が私を引き留めようとしたが、私は無視して肩をつかむ力を強めた。
何かの判断を強いられたのだ。恐怖ではない、別の想念じみたものが私を動かしていた。踵を返したのは、誰もが経験するであろう無意識に組まれた考えの連なりからなる決断だった。歩きながら、私は自分の思考を見直した。
私は次にと
明の11「シドと白昼夢」(27)
今一度私はAirpodsの位置情報を確認した。Airpodsは、マクドナルドの下にある。姿を視認すれば切りかかれるように、ホルスターのナイフに手をかけた。そして、整列する掲示板によっかかっている貫一を見つけた。ナイフに殺意を注入するところであったのに、私はそれができないことを悟った。気づけば、私は柄から手を離し、しきりに雑踏の中に貫一を探すかのようにあたりを見渡している。また、私は彼を視認して、
もっとみる明の13「正しい街」(30)
私は変わらず緑を見ていた。この色に何らかの変化が起こるのを、佇んで待っていたのだ。鏡の中でも雨は降った。相変わらず、強弱に定まりがなかった。次第に私は鬱屈を覚えだした。こらえきれず気をそらそうと手のひらを見れば、それはサイコロでできていた。私の側には、一の赤い点が向いている。裏返してみると、それもすべて赤い点だった。どうも二層構造らしい。手を振ってみると、簡単に崩れてサイコロがぽろぽろと落ちて行
もっとみる香山の17「ここでキスして。Ⅱ」(35)
「『どうして泣いているんだい』
俺は分かっていた。でも、違うと願いながら尋ねた。
『あんたのせいやろ、嘘ついて、お客さん入れて、あたしどんだけ暴言吐かれながらやったと思いようと? 何で、あたしだって自分がかわいいなんて思い上がっとらんし、周りの人の反応を見ればどげん風にみんながあたしに腹の中で評価を下してるかぐらい、見透かしとう。あたしせめて会話ぐらいは一流にしようと、頑張りよったんに。大体から