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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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#イベントレポ

そこにないものを探す~男性ブランコ「嗚呼、けろけろ」/「マヂカルラブリーno寄席」

そこにないものを探す~男性ブランコ「嗚呼、けろけろ」/「マヂカルラブリーno寄席」

男性ブランコが国立科学博物館を会場にして繰り広げたコントライブ「嗚呼、けろけろ」を観た。2022年は水族館にて無観客でのオンラインライブを行っていたが今回は有観客での開催。しかも博物館の1カ所に観客を集めて行うのではなく、博物館の数カ所を観客と共に周遊しながら、観客をコントの設定の中に巻き込みながら行うというかなり独自の試みに挑んでいた。

コント数本から成る公演だが、物語はひと続きなのも特徴的だ

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サイケデリアに埋没する/草間彌生美術館

サイケデリアに埋没する/草間彌生美術館

先日、東京を訪れた際に新宿にある草間彌生美術館に初めて行った。住宅街付近にぽつんと立つ細長い建物。平日の昼間だったからか、観客の大半が恐らく海外からの観光客。あまりないシチュエーションでの鑑賞だった。

有名な大きな南瓜のオブジェなど巨大な作品はいくつか観たことはあったが、ここまで多くの草間彌生作品を一挙に観る機会はなかった。巨大な絵画作品、紐状の物体と箱によって構成された作品など、どれも圧巻。そ

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『ワールド・クラスルーム』で実存の欠片を知る

『ワールド・クラスルーム』で実存の欠片を知る

六本木ヒルズの森美術館で開催されている美術展「ワールド・クラスルーム」に行った。収蔵作品を「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」のセクションに分けるという切り口で、導入部の明快さとそこからの飛躍を楽しめる豊かな展覧会だった。その中から、いくつか気に入った作品を受け取ったものを書き残しておきたい。

「社会」より。アイ・ウェイウェイの「漢時代の壺を落とす」。コ

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カネコアヤノの2本のツアー/2023年上半期ベストライブ

カネコアヤノの2本のツアー/2023年上半期ベストライブ

カネコアヤノの2本のツアー

先に結果から述べておくと、上半期のベストライブ1、2位はカネコアヤノのツアーだった。2位はZepp Nagoyaでのライブハウス編、1位は福岡市民会館でのホール編。年始にリリースされた『タオルケットは穏やかな』のツアーだ。まとまった感想をnoteに書けずにいたがここに記しておきたい。

まずライブハウス編。長年サポートドラマーを続けてきたBob(HAPPY)が去って初

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対象喪失と思い出の瞬き/ダウ90000『また点滅に戻るだけ』

対象喪失と思い出の瞬き/ダウ90000『また点滅に戻るだけ』

ダウ90000の第5回演劇公演『また点滅に戻るだけ』を配信で観た。とてつもない面白さである。ネタとしてダウを消費したり、穿った目線で見ている方々こそ見てもらいたい。まさに現時点での正当なる集大成と言うべき作品で、伏線や構成などはさておき"シンプルに面白すぎる"という凄さがある。

所沢のゲームセンターを舞台で数年ぶりに偶然集まった旧友たちが思い出話を咲かせる陰に、あるプリクラの流出事件の話が通奏す

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男性ブランコ『やってみたいことがあるのだけれど』とスピッツ『ひみつスタジオ』

男性ブランコ『やってみたいことがあるのだけれど』とスピッツ『ひみつスタジオ』

男性ブランコのコントライブ『やってみたいことがあるのだけれど』を配信で観た。繊細な詩情に満ちたコントを元より得意としてきた男性ブランコだが、本作ではほぼ全コントが10分近くの尺があり、賞レースで消耗させる気のない作品性がある。トニー・フランクによるアコギの生演奏を劇伴にするなどその作りは演劇的。この方向性を磨くことに腹を決めたように見える。

そして最も唸ったのがそのコントの見せ方。現代漫才の中で

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ロロ『BGM』とスカート × 街裏ぴんく『VALETUDO QUATRO』

ロロ『BGM』とスカート × 街裏ぴんく『VALETUDO QUATRO』

ステージというのは、可能性が溢れ続ける空間だ。こんなことも見せれるのか、こんな宇宙も広げることができるのか、と思うことが多々ある。それを強く実感するような作品を2本、ここ最近続けて配信で観たので感想を。

まずはロロの『BGM』。三浦直之率いる人気劇団が2017年に発表した作品の再演である。この作品が描き出すのは時間の堆積層だ。東京から仙台までをドライブする2人の青年が、10年前と同じ道のりを辿り

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笑ってしまうこと、笑わないでいること〜Aマッソ「滑稽」/劇団かもめんたる「奇事故」

笑ってしまうこと、笑わないでいること〜Aマッソ「滑稽」/劇団かもめんたる「奇事故」

空前のお笑いブームの真っ只中において頻繁にお笑いライブやバラエティ番組で"笑い"に接するとそもそも"笑い"とは何か、とふと考えることも増えた。そういう思考にさせるお笑いが沢山増えたことも影響しているだろう。この3月、たまたま同じタイミングで配信されていた2本の作品もまた何で笑い、何を笑っているのか、ということをこちらに問うてくる"笑い"だった。

Aマッソ『滑稽』Aマッソがテレビ東京の大森時生プロ

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声を重ねるということ〜2.12 ROTH BART BARON 『HOWL』Tour 2022-2023@名古屋BOTTOM LINE

声を重ねるということ〜2.12 ROTH BART BARON 『HOWL』Tour 2022-2023@名古屋BOTTOM LINE

先日、岡本太郎展を観に愛知県美術館に行った時のこと。グッズ売り場を物色しているとどこからか「ワオーン」と鳴く声が聞こえてきた。音の鳴る方、展示室の一角を覗くと、そこに展示してあったのはキュンチョメというアートユニットの「遠い世界を呼んでいるようだ」という映像作品だった。

東日本大震災の被災地で、絶滅したニホンオオカミの遠吠えを模倣するというパフォーマンス映像。誰もいない場所に向け、既に存在しない

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岡本太郎と山口一郎、対極主義とサカナクション

岡本太郎と山口一郎、対極主義とサカナクション

愛知県美術館で3/14まで開催中の「岡本太郎展」に行った。隣のNHK名古屋では関連番組「タローマン」の展示も行われており大盛況だった。岡本太郎作品と言えば無軌道でハチャメチャなものと思っていたが作品には明確なロジックと意義があり、根底には生命の力がみなぎり、そして何よりユーモラス。大勢の観客と共有する祝祭感もありエネルギッシュな鑑賞体験だった。

ところで「タローマン」とはNHKで放送されるやいな

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圧縮された永遠~『大竹伸朗展』@東京国立近代美術館

圧縮された永遠~『大竹伸朗展』@東京国立近代美術館

東京国立近代美術館で開催中の『大竹伸朗展』で観ることができるこのアート作品。「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」と名づけられている。廃材をはじめ、チラシやポスターなど様々な既製品を集めて作られた建物だが、これが自画像なのだという。少なくともよく知られた有名な”自画像“とはかなり違うように思う。なぜならどう見ても建物だからだ。

心動かされたものを意識的に好きなだけコレクトしたようにも見え

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意味と無意味、意識と無意識〜 ゲルハルト・リヒター展@豊田市美術館

意味と無意味、意識と無意識〜 ゲルハルト・リヒター展@豊田市美術館

何かを観たり聴いたりした後でその感想を書こうとする時、私はその作品に込められた意味を真っ先に考えがちだ。しかしその一方、むしろ"意味がない"としか言いようがないものにも強く惹かれることだって多い。たとえばランジャタイの漫才。不条理を極めた意味のない言葉の羅列と、道理の通らない動きを繰り出しつ続けるネタには初めて観た時から魅了され続けている。

また、UNISON SQUARE GARDENの楽曲の

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最近観た配信のお笑い(マヂカルラブリーno寄席/ダイヤモンドno寄席)

最近観た配信のお笑い(マヂカルラブリーno寄席/ダイヤモンドno寄席)

1.1 マヂカルラブリー no 寄席 (アーカイブ1/9まで)

3年連続開催、お正月の風物詩となりつつある無観客配信ライブ。2021年の初回で客席から他芸人がヤジを飛ばす形式で爆ハネした結果、昨年は全員が張り切りすぎてやや失敗。今回はかなり良い盛り上がりを観れて素晴らしくぶっ壊れたものを浴びることができた。めちゃくちゃ面白いのだけど、これを年明けに観ると何が面白いのかの1年の基準が狂っちゃうのが

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最近観た配信のお笑い(男性ブランコ/ダウ90000 × Aマッソ/M-1グランプリ決勝体験ライブ)

最近観た配信のお笑い(男性ブランコ/ダウ90000 × Aマッソ/M-1グランプリ決勝体験ライブ)

男性ブランコのオンラインコントライブ「トワイライト水族館」(アーカイブ1/6まで)

閉園後の池袋サンシャイン水族館で繰り広げるコントライブ。M-1決勝を控えたファイターとは思えない、しとやかなムードのコントばかりでとても驚く。水族館の物音や静寂すらも取り込んだ、美しい間の掛け合いで少し不思議な物語を軸にEテレの23:55あたりで流れてそうなゆるくて微笑ましいVTRコントも混ぜ込まれてとても落ち着

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