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もう会えないあなたを知り続ける
記憶のなかの父は、怒っている。
10歳のとき、わたしは父に連れてきたもらった近所のボウリング場を、3つ下の弟といっしょに抜け出した。ボウリング場に着いてから割引券を家に忘れたのを思い出し、「少し待ってなさい」と言って取りに戻った父を、数分後に追いかけたのだ。気持ちよく晴れた日曜日の午後の風のなかを、懸命に走った記憶がある。けれど結局追いつけず、別の道から帰ってきた父と入れ違いになって、散々探され
今日から変わってゆく、愛されたいわたしの話
「ずっと、あなたのことをパートナーとして見れなかった」
付き合ってもうすぐ2年の彼が、電話口でそう言った。
わたしは、その言葉をどこか他人事のように、眺めるように、聞いていた。ショックを受けないように、自分を目一杯に防御していたのだ。
彼とは、もうすぐ結婚すると思っていた。
*
ちょうど1年前、「いつごろ結婚したいと思ってる?」と聞いてくれたのは彼だった。仄暗い彼の部屋、夜の始まりの空気の
あなたの死で、今のわたしが生きている。
いつぶりかに、父からの手紙を読んだ。
父が亡くなってから渡されたもので、わたしはそれを何度か読んだけれど、内容をぜんぜん覚えることができないので、いつも「そんなことが書いてあったのか」と泣いてしまう。
今回も、ひとりの部屋でわんわん泣いた。
小さなワンルームだけど、人目を気にせず大きな声を出せるのがなんだか嬉しかった。
父。わたしの卒業も、就職も見届けられなかった父。これから、結婚も、出産
雨の日の公園で寝ていたわたしが、人生で初めて睡眠を好きになった話
家に帰るのが嫌で、小雨の降る秋の公園で、夜を明かしていたことがある。
わたしの杜撰な睡眠体験は、これだけじゃない。
受験生活は、深い眠りを避けるために、机に突っ伏して毎日寝ていた。大学に入ってからは、飲み会から深夜に帰ってきて、メイクも落とさずそのままベッドへ。布団も枕も気にしない。翌日も早朝から遊びやバイトに出かけるので、睡眠時間は長くても5時間程度で、徹夜もいとわなかった。
寝なくても大
抜け出し方がわからない
去年まで、わたしの仕事は最高だった。
何をしても楽しくて、成長実感を得られて、周囲の人に恵まれて、同期の中では少しばかり成果も上げて。
これ以上ない職場だと思った。1年間勤めて、たった一回も「今日は会社に行きたくない」と思ったことがなかった。幸せだと思った。
なのに、それは、たった一度のトラブルで急転してしまった。
新年度になった途端、コロナにより完全在宅となり、コミュニケーションが難しく
小説を読むことは美しくて、非効率で、嫌いになりたくない
社会人になって、ここ1年間は、ひたすらにビジネス書を読んでいた。
上司に紹介してもらった本を、期待に応えなきゃ、成長しなきゃと片端から詰め込むように読むうちに、ずっと大好きだった読書が好きではなくなった。
きのう、久々に小説を読もうと、本棚に手を伸ばした。少し前に話題になった2部作の物語で、母が貸してくれたもの。
外は雨だった。風の音を聞きながら、ページに目を落とす。
ぱら、ぱら、ぱら。