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読書感想文置き場

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AIとSF

AIとSF

準備がいつまで経っても終わらない件 長谷敏司2025年大阪万博のために用意した”最先端”の技術が、開催前の時点で既に陳腐化し家電製品に実装されてしまった経産官僚とアドバイザーの学識経験者のドタバタを描く。官僚の業務や動きや考え方に対する解像度が気になるが発表タイミングに適ったタイムリーな話題ではあった。

没友 高山羽根子お留守番BOTが進化を続け、友人とのLINEを勝手に行って関係性をメンテナン

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【読書感想】リベラルファンタジーは神話学へと進化する。『百島王国物語』2

【読書感想】リベラルファンタジーは神話学へと進化する。『百島王国物語』2

気候が春めいてきて、旅情がわき上がってきます。最近はあまり遠出ができないので、物語の力を借りて遠い地への憧れを満たしてみようとファンタジーを読むことにしました。

『百島王国物語 竜騎手の反逆』 佐藤二葉前作『滅びの王と魔術歌使い』について前作を読んだときの興奮を思わず長文noteにしたためたものの、読んでから1年半経過していることもあり、細かい設定はすっかり忘れていました。前作を座右に起きながら

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【読書感想】恋を知らない僕たちは

【読書感想】恋を知らない僕たちは

しろくまさんからそんなメールを受け取ったのは、妻と息子が散歩に出て、ココアでも淹れようかと一息ついた晩秋の昼下がりのことだった。
もちろん、『思い、思われ、ふり、ふられ』は大好きである。私はいずれ『咲坂伊緒という天才漫画家』というタイトルで大枚の記事を書きたいと思っているのだが、日々の忙しさにかまけ、あふれ出る思いに向き合うだけの時間が取れないことを言い訳にして先送りにしている。

咲坂作品の魅力

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【読書感想】ウクライナから問う(現代思想2022.6臨時増刊号)

【読書感想】ウクライナから問う(現代思想2022.6臨時増刊号)

【声】1.ブチャの後で / ユーリィ・アンドルホヴィチ/加藤有子訳

現代ウクライナを代表する作家による「声」ということで、訳者解題では「強い」言葉が使われているとしているが、別にそうは思わず、故国に虐殺という不条理がもたらされていること、それはブチャというただ一つの都市ではなく、国のあらゆる場所で起こっていることだと怒りをあげるために必要充分な筆致が尽くされていると感じる。

【ドキュメント】2

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ノート:田村美由紀先生の著作に対する感想

ノート:田村美由紀先生の著作に対する感想

これまで題材とされた作品の感想と、論考に対する所感を並べておきます。ラインナップ等は以下のHPより。今後、適宜更新していきます。(業績欄がアップデートされるたびに通知されるシステムがほしい。)
外部資金獲得欄に記述があるので、来年か再来年あたりには単著を読めるのではないかと楽しみにしておきます。

汚染された身体と抵抗のディスコース―吉村萬壱『ボラード病』を読む坪井秀人、シュテフィ・リヒター、マル

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【読書感想】大学は誰のものか――国際卓越研究大学・教職員労働問題・就活のリアル…(現代思想2022.10)

【討議】研究と教育のゆくえを問う / 石原俊+隠岐さや香

国際卓越研究大学支援法の成立による10兆円規模の大学ファンド設置を切り口に、独裁政権が横行する大学ガバナンスに更に外部の横槍が入る予測が示される。また大学政策全体を見ても、帝国大学への傾斜配分や理系偏重、あるいは地方大学の地域貢献分野への特化によって格差の拡大が進むことを懸念する。
経済安全保障の観点からデュアルユース(軍民両用)技術の開

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【読書感想】ファミリーランド

【読書感想】ファミリーランド

近未来SFと家族に関わる問題を掛け合わせたこの連作短編集を知ったのは、『SFプロトタイピング』において、その事例の一つとして紹介されていたのが気になっていたからだった。そこでは本作は、以下のように紹介されている。

端的な短評だが、実際に読了してみると、「ホラー」というよりも「イヤミス」に近いように感じた。また、「価値観は大きく変化していない」というのも少し纏めすぎのきらいはあって、デザイナーズチ

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【読書感想】肉食主義を考える(現代思想2022.6)

【読書感想】肉食主義を考える(現代思想2022.6)

受動喫煙にまつわる法改正が燃えさかっていた5年前に、以下のような謎のPPT資料を作成したことがあります。

作成した趣旨は、自分はタバコを吸わないからむしろ積極的に健康増進法の改正を進めて欲しいと思っているけれど、これまで社会的に認められていたタバコがいかにして社会的な差別的取り扱いのカテゴリに含められていくのかのプロセスを見ておかないと、いつか自分の好きなモノがそうしたカテゴリに含められていくの

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【読書感想】2084年のSF

【読書感想】2084年のSF

『ポストコロナのSF』を読んでハヤカワのインナーサークルに入った気になった読者たちは、訓練されたかのように書店で見かけた第2弾アンソロジーを衝動買いします。超話題作家の逢坂冬馬先生も名を連ねていて興奮は最高潮。早速逢坂先生の作品から読み始めます。おおー、キレイにまとまった。でもちょっと物足りないな。次は『百合SF特集』で存在感を示した斜線堂有紀先生の作品を。おおー、面白い設定。でもちょっと踏み込み

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【読書感想】ポストコロナのSF

【読書感想】ポストコロナのSF

2021年に日本SF作家クラブ・編で刊行された『ポストコロナのSF』を読んだ。末尾に「SF大賞の夜」というコロナ状況で授賞式を中止するかどうするかみたいな20年春のバタバタが楽屋オチで振り返られておりそこまで読めばすっかりSFクラブのインサイダーになったつもりになれます。

▷黄金の図書/小川哲
『ゲームの王国』『ユートロニカのこちら側』いずれも骨太のテーマながら軽妙な語り口で好きな作家です。

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【読書感想】危機の時代の教育(現代思想2022.4)

【読書感想】危機の時代の教育(現代思想2022.4)

春先に教育問題を取り上げるのが『現代思想』誌の恒例っぽいのですが、今年はコロナ状況を取り上げるにしても目新しさがないし、こども家庭庁もまだもやもやっとしている段階なので苦戦していた印象でした。21年7月30日の英語民間試験導入の失敗がホットといえばホットなのか。あとは21年10月1日の埼玉教員超過勤務訴訟の地裁判決と、22年1月28日の「2025年から共通テストにおける「情報」の導入」の発表。これ

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【読書感想】家政学の思想(現代思想2022.2)

【読書感想】家政学の思想(現代思想2022.2)

もともとバチェラー4を観て、家族訪問のepiで秋倉父が自身の親の介護体験を踏まえて「ケアリングがぼくの幸せ」という発言をしたことが視聴者たちに絶賛されていたところから違和感が始まりました。私はあのシーンに息苦しいほどの葛藤が感じられて切なかったです。あれは「嘘」とまでは言わないけれど、人生の意味づけのためのレトリックであると感じました。
秋倉父のレトリックは(もちろん映像切り取りに過ぎないという留

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本屋大賞のまわりをうろつく

本屋大賞のまわりをうろつく

もう随分、ハートウォーミングは妻が読んでくれているのをあとからあらすじだけフィードバックしてもらって読んだ気になっています。『かがみの孤城』辻村深月や『52ヘルツのクジラたち』町田そのこはそんな感じで概要は理解しました。

立て続けに有名ツイッタラーが本屋大賞に懐疑的な視点を向けてくれて、なんとなく嬉しかった、という話です。

羊と鋼の森/宮下奈都これは割と高評価。本屋大賞受賞作で旬俳優投入の映画

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【読書感想】異常論文

【読書感想】異常論文

〈ハヤカワ文庫JA1500番記念作品〉先鋭的なアイデアを架空論文の形で提示して話題を呼び、増刷なったSFマガジン2021年6月号の特集を書籍化。新たに十二篇の書き下ろしを収録。解説=神林長平

廃墟の中を蠢く無数のオブジェクトたち。彼らによって形成される異形の生態系−。先鋭的なアイデアを架空論文の形で提示して話題を呼んだ『SFマガジン』の特集に、新たに十数篇の書き下ろしを追加して文庫化。

発端・

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