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#ショートストーリー
[ちょっとした物語] 花火の降る夜
ふと、スマホを見ると通知があった。メッセンジャーアプリを開くと、ある女の子からのメッセージだった。
「あの曲最高でした。いい夢見れそうです」
なんてことはない。飲み会で知り合った彼女とのやりとりの中で、音楽の話になり、自分の趣味趣向を語った結末に今がある。なんの目論見もなしに、呆れられることを前提に話しただけだった。
「そんな気に入ってくれてこちらもうれしいよ。いい夢を!」
反射的な言葉を
[ちょっとした物語]窓際のターンテーブル
窓の外から聞こえる車の走る音は、いつもより少ないような気がした。深夜に走る車は、昼間に比べると颯爽と駆け抜けていく。ハエの羽音のように。
エアコンの効きがえらく悪い。そんな昔のものではないはずなのに、と思いながら壁の方を向く。壁に照らされた街灯の明かりが、車の影とともに横切る。また訪れる暗闇、そしてまた照らされるこの部屋は、鼓動を持って揺れているようだ。
ついでのように照らされた机の上にある
[ちょっとした物語]I Saw The Light
窓から空をのぞくと、一筋の飛行機雲が漂っていた。手に持つスマートフォンを開くと、その小さな画面に流れる写真と文字をひととおり目で追う。
新しいつぶやきは、ちょっと目を外した数十分のうちに、どんどん上積みされていた。手に持ったコーヒーカップをひと飲みすることすら、“時間のムダ”と言われているようだった。
他人のつぶやきは、どれだけ深く読んだところで、特に感慨は深くならない。
自分でフォローし
[ちょっとした物語]バンコク 午後1時50分
手をつなぐと、互いの手からは汗はあふれ出ててくる。
それでも手を合わせて歩くことで、さらにべとつきながら、いたずらに手を絡め、とても厭らしく触れ合う。真夏の太陽が照りつける路上で、僕はある女性と空を見上げた。
灼熱の炎のように空気は揺らめき、蜃気楼のように視点の定まらない、鋭い光の攻撃が目を差す。すると、横にいる女性は、僕の手を引き、カフェのような建物へと導いてくれた。
中に入り、彼女は肩
[ちょっとした物語]向こうから鐘の音が聞こえる
埃っぽい書類の束を1枚1枚眺めていた。すると水色の封筒を見つけた。初夏の心地の良い午後だった。封筒から便箋を取り出すと、記憶はフラッシュバックする。
「こんなきれいな海見たの、はじめてだよ。ね、なんていうか、キラキラしてる」
そう言ったのは本当にきれいな海だったからだ。初めて訪れた瀬戸内の海は、凪いでいて、光が無数に反射していた。そんな海を見たのは、生まれて初めてだった。
「こんな海、普
[ちょっとした物語]夜はこうして過ぎてゆく
深夜1時。
さて寝ようかという時間は、その意思とは裏腹に布団に入ることをなにかが拒否をする。
ムダにスマホを眺めたり、SNSを開いて意味もなくタイムラインをのぞいてしまう。
ほら、ひとスクロールすると、誰かがこの夜に向かって叫んでいる。僕は、その声をじっくり読んで、いいねを押す。何がいいんだか。そんなことを思いながら、この世界に残された唯一の意思表示を残す。
誰のせいでもない。
そん
[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について
パッと目が開いた。
とてもすばやく、境目のないくらいに。
自分が寝ていたことすら意識していないくらい自然に、目の前に情景が広がった。
「あ」
一瞬、間が開いた。
今何時だ?
時計に目をやると、午前4時を指していた。
テレビは煌々と、誰も見ていないとは知らずに昨晩起きた事件についてごていねいに知らせている。
天井のあかりは点いたまま。
そうだ、昨晩のテレビを見ながら寝てしまったのだ。
これ
[ちょっとした物語]溺れる魚は七夕を想う
夜の街、僕はひとりで路地を歩いた。
家路を急ぐ道すがら、並ぶ住宅の塀に添えられた笹の葉を見た。
掛けられた短冊が、今日が七夕であることを教えてくれた。
願い事を最後のしたのはいつだろう。
急いで抜けた終電間際の改札。
今日が七夕なんて頭の片隅にもなかった。
今の僕は、天の川を渡ろうとする彦星か。
なんて、主役気取りか。
そんなバカな考えに辟易した。
待ってる人のいない対岸に
[ちょっとした回想]天井の誘い
明日が見えないときなんて、今もそうだし、あのときもそうだった。
いつの日だったか、明日が見えないときがあった。でも、それは今もそうだし、この先だってそうだと思う。
ただ、今と少し違ったのは、暗闇の先に続く道に、足を踏み入れることを躊躇させるほどの畏怖があったからだった。自分の臆病心が露呈されたのか定かではないが、とにかくあの頃は、自分の置かれた状況に対して、もがいていただけだったのかもしれない。