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コトバでシニカルドライブ

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頭の中でたまーに構成する言葉とコトバ。 その組み合わせは、案外おもしろいとボクは思う。誰に向けるでもなく、自分の中にあるスクラップをつなげてリユース。エッセイや小さな物語を綴りま…
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#ショートストーリー

[ちょっとした物語] 雨上がり、遠回りの夏

[ちょっとした物語] 雨上がり、遠回りの夏

 外へ出ると、まだ日差しは強く、晴れと一言で表現するには、少し複雑さが織り混ざっている。1日も後半戦なのだから、夜の帳が降りる前に、日差しくらい抑えてくれればいいのにと、ため息が出た。
 少し、人通りから離れる頃、夕立ちが僕の行方を阻んだ。近くのシャッターの降りた商店の軒に逃げ込む。雨はザーッと勢いよく降り始めたが、空の奥には青空が見えた。少しすればきっと止むだろう。そう思い、ポケットからスマート

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[ちょっとした物語]窓際のターンテーブル

[ちょっとした物語]窓際のターンテーブル

 窓の外から聞こえる車の走る音は、いつもより少ないような気がした。深夜に走る車は、昼間に比べると颯爽と駆け抜けていく。ハエの羽音のように。
 エアコンの効きがえらく悪い。そんな昔のものではないはずなのに、と思いながら壁の方を向く。壁に照らされた街灯の明かりが、車の影とともに横切る。また訪れる暗闇、そしてまた照らされるこの部屋は、鼓動を持って揺れているようだ。
 ついでのように照らされた机の上にある

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[ちょっとした物語]I Saw The Light

[ちょっとした物語]I Saw The Light

 窓から空をのぞくと、一筋の飛行機雲が漂っていた。手に持つスマートフォンを開くと、その小さな画面に流れる写真と文字をひととおり目で追う。
 新しいつぶやきは、ちょっと目を外した数十分のうちに、どんどん上積みされていた。手に持ったコーヒーカップをひと飲みすることすら、“時間のムダ”と言われているようだった。
 他人のつぶやきは、どれだけ深く読んだところで、特に感慨は深くならない。
 自分でフォローし

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[ちょっとした物語]バンコク 午後1時50分

[ちょっとした物語]バンコク 午後1時50分

 手をつなぐと、互いの手からは汗はあふれ出ててくる。
 それでも手を合わせて歩くことで、さらにべとつきながら、いたずらに手を絡め、とても厭らしく触れ合う。真夏の太陽が照りつける路上で、僕はある女性と空を見上げた。
 灼熱の炎のように空気は揺らめき、蜃気楼のように視点の定まらない、鋭い光の攻撃が目を差す。すると、横にいる女性は、僕の手を引き、カフェのような建物へと導いてくれた。
 中に入り、彼女は肩

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[ちょっとした物語]向こうから鐘の音が聞こえる

[ちょっとした物語]向こうから鐘の音が聞こえる

 埃っぽい書類の束を1枚1枚眺めていた。すると水色の封筒を見つけた。初夏の心地の良い午後だった。封筒から便箋を取り出すと、記憶はフラッシュバックする。

「こんなきれいな海見たの、はじめてだよ。ね、なんていうか、キラキラしてる」

 そう言ったのは本当にきれいな海だったからだ。初めて訪れた瀬戸内の海は、凪いでいて、光が無数に反射していた。そんな海を見たのは、生まれて初めてだった。

「こんな海、普

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[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

[ちょっとした物語] 霜の降りる朝と

 吹き荒ぶ風の音に目が覚める。

 布団の触りと留まったほのかな温かさが体を動かしてくれない。しかし微かに聞こえるお湯の沸く音。まもなく生活の針が動き出す頃だ。
 窓から見える空の色は、澄んでいて、冬の日のそれを一身に表していた。

 ふと目を閉じてみると、季節の環が駆け巡る。春の、夏の、秋の、それぞれの時は都合よく目の前に現れては消えてゆく。
 一瞬の光は、常に重なり合って、また季節は折り重なる

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[ちょっとした物語]夜はこうして過ぎてゆく

[ちょっとした物語]夜はこうして過ぎてゆく

 深夜1時。
 さて寝ようかという時間は、その意思とは裏腹に布団に入ることをなにかが拒否をする。
 ムダにスマホを眺めたり、SNSを開いて意味もなくタイムラインをのぞいてしまう。
 ほら、ひとスクロールすると、誰かがこの夜に向かって叫んでいる。僕は、その声をじっくり読んで、いいねを押す。何がいいんだか。そんなことを思いながら、この世界に残された唯一の意思表示を残す。

 誰のせいでもない。
 そん

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[ちょっとした物語]深夜4時。夜と朝の狭間で。

[ちょっとした物語]深夜4時。夜と朝の狭間で。

「いらっしゃいませ」

 このあいさつは、これまでいろいろな人に褒められた。唯一褒められたことと言ってもいい。こんな街の片隅の、大手チェーンでもない、しがないコンビニの店員に誰がなにを褒めてくれよう。そんな中で、褒められるということ自体が稀有で、誇らしいことではないか。そういつも自分に言い聞かせている。
 耳にイヤホンをはめていようが、なんの反応もしなかろうが、面倒な目で見てこようが、この建物の入

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[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について

[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について

パッと目が開いた。
とてもすばやく、境目のないくらいに。
自分が寝ていたことすら意識していないくらい自然に、目の前に情景が広がった。

「あ」

一瞬、間が開いた。

今何時だ?

時計に目をやると、午前4時を指していた。
テレビは煌々と、誰も見ていないとは知らずに昨晩起きた事件についてごていねいに知らせている。
天井のあかりは点いたまま。

そうだ、昨晩のテレビを見ながら寝てしまったのだ。
これ

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[ちょっとした物語]溺れる魚は七夕を想う

[ちょっとした物語]溺れる魚は七夕を想う

 夜の街、僕はひとりで路地を歩いた。
 家路を急ぐ道すがら、並ぶ住宅の塀に添えられた笹の葉を見た。
 掛けられた短冊が、今日が七夕であることを教えてくれた。

 願い事を最後のしたのはいつだろう。
 急いで抜けた終電間際の改札。
 今日が七夕なんて頭の片隅にもなかった。

 今の僕は、天の川を渡ろうとする彦星か。
 なんて、主役気取りか。
 そんなバカな考えに辟易した。
 待ってる人のいない対岸に

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[ちょっとした物語]雨

[ちょっとした物語]雨

 僕らは雨が降ると、いつも家で過ごすようにしていた。

ポツポツ
ザーザー

 どんな雨でも同じだった。
 ほんの薄暗い日中は、よく最近見たドラマや読んだ本、聴いた音楽の話をした。
 でもふと、ふたりの会話に、窓から漏れる雨音が差し込むと、僕らは会話を止めて降り続く雨の音を聴いた。
 それはまるで、ショーウィンドウに飾られたマネキンのように、降る雨をひたすら同じ顔つきで、同じ姿勢で、やりすごすよう

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[ちょっとした回想]天井の誘い

[ちょっとした回想]天井の誘い

明日が見えないときなんて、今もそうだし、あのときもそうだった。
いつの日だったか、明日が見えないときがあった。でも、それは今もそうだし、この先だってそうだと思う。
ただ、今と少し違ったのは、暗闇の先に続く道に、足を踏み入れることを躊躇させるほどの畏怖があったからだった。自分の臆病心が露呈されたのか定かではないが、とにかくあの頃は、自分の置かれた状況に対して、もがいていただけだったのかもしれない。

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