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[ちょっとした物語]雨

 僕らは雨が降ると、いつも家で過ごすようにしていた。

ポツポツ
ザーザー

 どんな雨でも同じだった。
 ほんの薄暗い日中は、よく最近見たドラマや読んだ本、聴いた音楽の話をした。
 でもふと、ふたりの会話に、窓から漏れる雨音が差し込むと、僕らは会話を止めて降り続く雨の音を聴いた。
 それはまるで、ショーウィンドウに飾られたマネキンのように、降る雨をひたすら同じ顔つきで、同じ姿勢で、やりすごすようなそんな様子だった。
 ひとしきり気のすむまでその音を聴いた後、決まって君は立ち上がり、「コーヒーのむ?」とだけ言って、キッチンへ向かった。

ポツポツ
ザーザー

 テレビに映る、録画した何かの番組を見ていた。窓にのぞくのは雨模様。僕の耳にその雨の音が入り込んできた。
 あの時聴いた雨の音と同じでも、今僕は部屋にひとり。
 そんな雨の音が鬱陶しくて、テレビの音量を上げた。窓の外を眺めると、どこかであの頃のことを思い出す。
 テレビから流れる声や音は、耳には入ってこず、窓に漏れ入る雨音だけが僕の耳に侵入し、頭の中からあの頃を呼び戻してくる。
 まったくもって迷惑な話だ。
 僕はそれを必死で否定して、思い出せないのだと、ただ塞ぎ込んでみた。

ポツポツ
ザーザー

 そんな雨音の奥から聞こえてくるあの頃の笑い声。
「あ、今日は夕飯つくってくれない?」
そんな彼女のお願いも、
「ねぇ、明日どこか行こうよ」
なんていうLINEの一文も、
 どれも楽しい思い出ばかりで、一緒にいた部屋から、君が出て行くなんて絶対にないと思っていた。
 だけど、今じゃこの家で、この部屋で、同じことをしても全然楽しくなくて、つまらなくなるばかり。あの頃楽しみにしていたコーヒーを淹れることさえも、なんだか忘れていきそうだ。

ポツポツ
ザーザー

 もう寝よう。
 寝たら明日がやってきてくれる。今のかなしい僕の姿も、いつもの朝が洗い流してくれるだろう。そして仕事に行かなくちゃ。
 でも、夢の中だけでいいから、君に出てきてほしい。起きてるときはかなしくなるだけだから。
 窓の外を眺めると、やっぱりあの頃となにも変わらないみたいだね。

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雨の日は、晴れの日やくもりの日よりも
多くのことを思い出させる。それは絵の具の上に雨が落ちた時、ひろがるにじみのようだ。
梅雨はきらいなようできらいではない。
好きというには足りなくて、きらいというほど嫌ではない。
そんな季節が愛おしく感じます。

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