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[ちょっとした物語]明け方にめざめる君について

パッと目が開いた。
とてもすばやく、境目のないくらいに。
自分が寝ていたことすら意識していないくらい自然に、目の前に情景が広がった。

「あ」

一瞬、間が開いた。

今何時だ?

時計に目をやると、午前4時を指していた。
テレビは煌々と、誰も見ていないとは知らずに昨晩起きた事件についてごていねいに知らせている。
天井のあかりは点いたまま。

そうだ、昨晩のテレビを見ながら寝てしまったのだ。
これで何度目だろう。
懲りない自分に辟易した。

目覚めるには早すぎて、眠るには遅すぎるこの時間。
早起きの鳥だけが、昇り来る太陽に向かってさえずっている。

まだ眠りのモヤが頭を包んでいた。
ため息をついてトイレへ向かう。
窓に差し込むというよりは、じわりとにじむ白ばんだ光。
目を瞑ると、目の奥がどんよりと重くなった。

用を足し、素直に眠りに戻ればよかった。
けれど、冷蔵庫の前まで足を運んだ。
扉を開けると、鋭く青白い光が自分を照らしつけ、カラダに刺さるような気がした。
目を細め、その光をうまくやり過ごす。
扉に収まっていたりんごジュースを取り出して、そのまま口をつけて飲んだ。
喉がひんやり、体の内側がピリピリとした。

ミラーガラスの扉に映る自分を見た。
みすぼらしい自分の姿に、ため息が出た。
それはあまりに現実離れをしていて、夢のようで、ファンタジーだ。
だから、それが現実だとは到底思えない。
とてつもない悪い冗談だ。
しかし、どこかでそれが現実の姿なのだともわかっている。
だから、少し笑うしかなかった。
もう一度、いま起きたことを考えるのがめんどうになった。

冷蔵庫に背を向けて、階段の脇にある明かりのスイッチを押した。
寝室に行くと、スヤスヤ眠る君がいる。
ベッドに横たわると、布団に沈むカラダを感じた。
この再び眠りにつくまでの至高の時間は、何度でも経験したい時間だ。
さて、眠ることにしよう。
目も顔の奥に沈むこむような、そんなひとときを。

歯を磨くのを忘れた。
まあいい。もうもどることなんて不可能だから。
外ではカラスたちが、起きろ起きろと吠え散らしている。
でも僕にとってそれは子守唄のようなものだ。
起きる頃には、君たちが眠っているのだろう。

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夜更かしした結果の明け方ではなく、
めざして起きた明け方ではなく、
偶然目覚めた明け方。
その時間は現実の時間軸からちょっと脇道をそれたような時間だ。
眠さと浮遊感とちょっとした後悔が、その時間を支配している。
すべてが眠るその時の、何とも言えない幸も不幸も存在しない時間。
たまにめぐりあうのもよいかもしれない。

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