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アクセサリーや服のこと。

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アクセサリーをつくる。 お気に入りの服を着る。 好きに装う。  自分を彩ること。
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仄かな微笑みを映すもの。

仄かな微笑みを映すもの。

「お守り」をつくってほしい、という注文をいただいたのははじめてだった。

昔から、アクセサリーはお守りだと思っていた。
ところがいざ、お守りをと言われると、立ち止まってしまった。
ちいさなものなのに、すべてが詰まっていなければいけないような気がして。
それでいて、いつも側にあっても違和感のない。
あれもこれもと思いながら詰め込んでいるうち、ずいぶんと時間をいただいてしまったけれど。

アクセサリー

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脆い服

脆い服

昨今の風潮からすると、あまり褒められたものではないけれど、物持ちはいいほうだと思う。
こと衣服に関しては、祖父母が着ていた服、母のお下がりなんてのもちらほら引き出しから出てくる。
加えて自分の若い頃、かれこれ二十年は経つであろう服の多いこと。

残念なことではあるけれど、今も人気のブランドですら、この十数年の間にずいぶん質が落ちたと感じるものもある。
多くのもの、人が変化の苦境に立たされた結果なの

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たからさがし

たからさがし

昔から、古いものが好きだった。
アクセサリーにしろ、食器にしろ、たとえ多少のヒビや欠けがあったとしても、物なりの過ごしてきた時間を表情に映していて。
ぴかぴかの真新しい物にはない魅力がある。

この間、所用ついでに近所の古物市をぶらりとしてみた。
神社の境内で月に何度かおこなわれているけれど、規模もちいさく、ここ数年はめっきり足が遠のいていた。

並ぶ店を眺め歩くうち、足が止まる。
青いシートの上

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風を着る。

風を着る。

すれ違いざま、サンドレスがふわりと翻る。
華奢な肩ひもで吊っただけの華やかなAライン。
肩には陽差しのショール。
街の中で剥き出しになった素肌に、すこしドキリとする。

自転車をこぐ女性のプリーツスカートの裾が、ヒラヒラとはためく。
金魚の尾鰭のようになびかせて、アスファルトの上を泳いでいく。

夏の装いは軽やかでいい。
風を含んだスカートは、バルーンのように膨らんで。
突然飛び込んできた蝶のよう

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黄色い示唆

黄色い示唆

目に留まる色、というのがある。

先日、生まれてはじめて黄色い服を買った。
黄色が嫌いなわけではない。
あのパキっとした、どこか警告めいた色を纏うことに抵抗もあって、なんとなく敬遠していたのだと思う。
この色は自分には似合わない。
遠ざけた色は先入観も膨らむ。

目線の先を歩く女性ふたり。
友達か、あるいは姉妹だろうか。
ひとりは黄色のカーディガン、もうひとりは黄色のスカート。
誘い合わせたのだろ

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木から得る。

木から得る。

あまり漆のことは書いたことがないけれど。
すこしだけ。

漆を塗っては拭き取り、わずかに残った塗膜を重ねる「拭き漆」(もしくは「摺り漆」)という技法。
古来より、防水、防腐、防虫といった、ほぼ実用のための技術だったもので、じつに手軽。
誰でもできる。
塗って拭き取ればいいのだから。
拭き取った漆がもったいない。
それはもっともな意見。
手軽さとはうらはらに、じつに贅沢な技法ではある。

それで、何

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核を紡ぐ。

核を紡ぐ。

このところ木を削っていると、なんだかやたらにうねりのきいた形状のものばかりになっていることに気づく。
最初はなんてことない、ただの正方形をつくっているつもりだったのに。

絵も物も文章も、作品と呼ばれるものはその人から滲み出た結晶なのだとよく感じる。
どんなに考えて考えて捻り出したものも、頭を振ったらぽんっと耳からこぼれ落ちたようなものも、核は同じ。
しかも前者と後者、どちらがより誰かの心を動かす

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Fragments of rebirth

Fragments of rebirth

まっさらの無垢の木を削るのは楽しい。
けれど、アクセサリーを魅力的にするにはストーリーも大切で。
なぜこの素材がつかわれたのか、どうしてこの大きさなのか、意匠に込められた意味は。
すでにどこかで生きてきた素材に、別の生き方を重ねられたら素敵かもしれない。
そんな気持ちが顔を出すようになってきた。

子どもの頃使っていた椅子の足、もうすぐ取り壊されてしまう実家の柱、大切な人がつかっていた箸の片割れ。

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削ぎ落とされた布の行方

削ぎ落とされた布の行方

正直、ハイウエストは苦手だ。
最近はどこの店に行っても、パンツはヘソ上10センチが主流らしい。
どうかすると胸にまで迫る勢いのコルセットレベルの強者もいる。
ハイウエスト派の意見としては、安心感があるだとか、足が長く見えるだとか、お腹まわりがスッキリ見える、云々。

ものは試しと、一度試着してみたことがある。
なんともいえない圧迫感。
決してボリューミーなほうではないけれど、なんだか一日ゆったりと

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手が伸びる先。

手が伸びる先。

絵、楽器、アクセサリー、オブジェ、嗜好品をつくって売るのは難しい。
きっと、つくるだけならそれほど難しくはない。
問題は、自分ひとりの嗜好でつくり出したものを、自分ではない誰かに、いかにしてストンと収めることができるか。

自分と寸分たがわぬ好みの人間などどこにもいない。
そうなると、ことごとく人と好みの被らない人間がつくり出したものの行く末には、影が揺れるような気がしてくる。
まして、そんな独り

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消えた魔法

消えた魔法

長い巣篭り期も出口が見えはじめ、このところはすっかり活気づいた街も、そんなことあったっけ、といった様相だ。

それでも、もとに戻っていないものもある。

時折、自分に元気が足りなくなると、立ち寄る店があった。

ちいさなショーウィンドウのあるアクセサリーショップで、壁のようにピッタリ閉まった扉は通り過ぎただけでは開いているのか開いていないのかわからない。
行き交う若者は視線すら向けず、まるでその店

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左足の憂うつ

左足の憂うつ

足の形というのは、大きさにしろ、厚みにしろ、自分のワードローブに2割くらいは影響していると思う。

私は左足が右足よりも大きい。
夕方になると大きくなるとかそういう類の話ではなく、左足のサイズが0.5センチほど確実に上回っているのだ。
つまり23.5の靴を買えば左足が痛み、24.0の靴を買えば右足の指先が靴の中でウキウキと遊ぶ。

常々思うのだけれど、どこの靴屋でも左右異なるサイズの靴を売ってはく

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色々色

色々色

昨日はカラフルな髪とよくすれ違う日だった。

朝の店で見かけた、水彩画のようなピンクグレーのロングヘア。
繁華街で揚々と歩いていた青い髪の女性は、ところどころに赤が混じって、熱帯魚のベタみたいだった。
ハッとするようなワインレッドのウェーブヘアは、思わずじっと目で追ってしまったほど。

総じて黒髪が多いこの国では、変化に富んだ髪色への興味はなかなかに深いのかもしれない。
かく言う私も、学生の時分に

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