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木から得る。

あまり漆のことは書いたことがないけれど。
すこしだけ。

漆を塗っては拭き取り、わずかに残った塗膜を重ねる「拭き漆」(もしくは「摺り漆」)という技法。
古来より、防水、防腐、防虫といった、ほぼ実用のための技術だったもので、じつに手軽。
誰でもできる。
塗って拭き取ればいいのだから。
拭き取った漆がもったいない。
それはもっともな意見。
手軽さとはうらはらに、じつに贅沢な技法ではある。

それで、何回くらい重ねるのか。
これがまた悩ましいところで。
結論から言うと、重ねれば重ねるほど、艶が出て美しくなる。
ところが、ある一定の回数を超えると、あまり変化は見られなくななり。
途中から、やめどきがわからなくなってきたりもする。

そして、やめどきがわからないうちは未熟だ、という言葉が天の上から聞こえた気がして、えぇい、もうここでやめてやる!と突如完成したり。
いや、まだまだだ!と何か月も拭き続けてしまったり。
手をかけようと思えばいくらでもかけられてしまう、そんな漆の沼に踏み込んでしまう。

よく「塗り物」なんていうけれど、どちらかというと漆は、塗るよりもしみ込むことに長けているように感じる。
木地にしみ込んだ漆は硬化して、その形を堅牢に留める手助けをしてくれる。
含浸という表現が近いかもしれない。
よくお菓子コーナーに並んでいる、チョコレートがしみ込んだラスクを想像してみてほしい。
しみ込むだけしみ込ませたら、さらに美味しく濃厚になる。

木地のよさと、漆のよさが重なって、もっといいものになってくれるはず。
そんなことを考えながら、塗っては拭いて塗っては拭いてを繰り返す。

手を動かしているのは自分だけれど、いいものができたと感じられたら、本当のところそれは、木と漆のおかげなのだと思う。








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