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かつて目指していた夢は


10代の頃の私の夢は

マンガを描いて描いて、病院で点滴を打ちながらでも描き続けたい

というものだった。

それを周囲にも熱苦しく語ってもいた。


けれど、大学生の頃に、自分が目指している作家さんの十分の1も描けていないこと、
絵が他の漫画家志望者より格段に下手なこと、
何かをやろうとすると、同じくらいの怠惰な心が足を引っ張り、結局後者が優って、寝てしまう。。。。。

そういった自分の夢と現実の大きな乖離が始まって

描いて描いて描きまくる人生は、どうやら自分には合っていないようだな

と思い始めた時は、

皮肉にも描くことに追われる生活が始まっていた。


ちょっと待って。

わたし、何も学んでいないんだけど。

絵も5ちゃんで下手すぎると言われるくらいだし

物語の進め方だって、何も教わっていないし、学んでいない

本や映画だってもっとたくさん見て勉強したい

しかし、そんな時間はまったくなく、嵐のように過ぎてすぐに凪が訪れ、
子供を産み、育児中心の生活に入るようになった。

全然学んでいないまま踏み込んだ世界。

なんだったの、一瞬のあれは。。。。

あの20代から30代前半の、空を掴むような不安定さと不安感、ふわふわした孤独感は、今もって恐怖を感じる。


自分に合っていない生活をしたおかげで、うつ病とパニックになってしまった。

これは大きなショックだった。

正直、描いていて楽しいと全然思えなかった。

生きる太陽のような自分の夢が、身を滅ぼす嵐だったとは。。。


生きる上で、大きな方向転換を考える時がきた。

描いて描いて描きまくりたい、という夢が叶う身分でも立場でもなくなった。

10代20代は、いつも元気でエネルギーの塊と揶揄されていた私は、
今では70代といっても過言ではない体力レベルの、白髪まみれのちょっと動けば寝込むという、
当時最も自分がなりたくない自分に成り果てていた。


そういった自分に毎日向き合っていると、気力ややる気だけでは、もうどうにもならない次元に入っていることを認めざるを得なかった。

老いである。

そして、手応えなき挑戦はやめる、という私なりの「逃げ」の処世術を学んだ。


老いてやっとわかった。

そうか、私はマンガがそんなに好きではないんだ。

自分がかろうじて表現できる方法がたまたまマンガだっただけなのだ。

天才が築いた100000枚の原稿の枚数は追いつかなくていい。

数多くの名作を生み出さなくてもいい。

毎日3時間睡眠で描いて描いて描きまくらなくてもいい。

無理にマンガをたくさん読もうとしなくてもいい。


40代の半ばになって、かつて掲げたハードルは、一気に下がった。

今の目標は月に24ページくらい描けたら大成功。

会社の利益には貢献したい

毎日10時間睡眠したい


そして4つの人生についての処世術を見つけた。

手紙やポストカードの文通を趣味で続ける

資料を紐解き、書き写すことで過去の声を頭に入れてゆく

美しいものを求め続けて、本や映画、絵画などで、「本物の美しさ」を知る。

お茶とおやつの時間を大事にする


この四つは、マンガと同じくらい。。。いや、マンガ以上に好きなことである。


私はマンガの怪物にはなれなかった。


凡人であった。


そんな当たり前のことを認めるには、何十年もかかったけれど、

誰よりも自分だけは自分の夢を守りたかった。

けれど、身体が拒絶反応を起こすくらいなのだから

その生き方は「違う」のである。自分にとって。

なれないとわかったら、風が軽くなった。

もう縛られなくてもいい。

ストイックに走らなくてもいい。

ゆっくり周囲の景色を眺めながら、しょっちゅう寄り道をしながら、
歩いてゆく生き方の方が自分の生き方にあっていた。

かつて夢を語るわたしに憧れたものはみな、
わたしを追い越し、各々の鋳型にあった職についた。

わたしはどうも、人の踏み台になる人生の業を背負っているな、とは
10代の頃から薄々感じていた。

そんな自分は今でもボヘミアンのままである。

けれど、きっと

「私がそうなりたいからそうなっている」

のだと思う。


今後も
お気に入りのお茶とおやつをこっそり楽しみつつ、
好きなメンデルスゾーンや、ショパン、ラベルの音楽を流しながら過去のか細い声を資料ノートにとって、
知らない誰かへに手紙を送り、美しい文海に沈みながら一日を終えたい。


そしてそのこれらの何気ないルーティンは、
遠い川の流れを下った先に、
いつかは作品に帰結してゆくと信じている。


または 私がこの世からいなくなったあとに、

ほんの紙の一切れとして、たった一人の誰かに伝える。

その瞬間のために、今生きているのだと思う。


かつて目指していた大きな夢は


今はこんなに

こんなに


小さくなった。



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