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散文

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#小説

散文『街路樹と換気扇』

散文『街路樹と換気扇』

 空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。

 雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地よ

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散文『ポツポツ』

散文『ポツポツ』

繁華街をポツポツ歩く。

その一文だけがノートに残されていた。過去の自分が何を考えたのか、思い出そうとすら思わなかった。ただ、『繁華街をポツポツ歩』いてみたくなった。

電車が停止し、歩く。
ガヤガヤとした街は暗かった。都会ももう暗い時間なんだと思う。
死んだ都会は、見慣れた場所だと思った。

頭がバラバラと崩れるような、具体性がないような、全てが消え去る瞬間のような思考は断片的で線路の美しさに気

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散文 私を生きる場所

散文 私を生きる場所

泣いていた。

私は泣いていた。

丁寧に家の片付けをして、洗濯物を畳み、お風呂を洗って、私の食べないご飯を作った。

二十歳を超えてもう数ヶ月。
夜の街にフラフラと歩き出す。

そういえば、猫は鳴かなかった。私が出ていく時、ケージに入れた猫は何も訴えなかった。いつもは切なそうに鳴くのに今日は何も鳴かないで、私が出ていくことに気付きもしないようだった。

それが悲しかった。きっと鳴いたら鳴いたで、

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散文 点滅と借り物

散文 点滅と借り物



街が点滅している。

反射する川の色は、深い愛よりも歪に赤と青を折り合う。
重なり合った空をなぞるように私は見ているのだけど、きっと何も見えていないんだ。

高い場所に来た。街の中でも高い場所。夕焼けを見たいがために歩いた足は不安がある。何でこうなってしまったんだろう、なんて言葉を出せないほどに私の舌は硬く怯えている。

空が燃える。

どこかの放火をいつも毎日大きく写し出していた。

街が点

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散文 空気の色と駆け抜ける

散文 空気の色と駆け抜ける

風が優しくなった。それは、世界が私に優しくなったのか、私が世界に優しくなったのか。

自転車で駆け抜ける街を私はよく見ててこなかったんだと気づく。コンクリートを突き抜けて生えていた雑草の強さが少しだけ自分の身に着いてきた、と言えたらいいけど、そこまで私は意思がない。

黒猫が路地をゆく。

それを私も横目に見て、気にしなかった道を進む。駆け抜けて、駆け抜けてなお、私の街。何故、この街を自分のものだ

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散文 トンボの群衆

散文 トンボの群衆

僕は雨に打たれてる。
傘を持たずに、1人歩く。ザーザーと降っていた雨が緩やかになって、途絶えたその後のポツポツと体のバリアの外に弾かれるぐらいの雨粒に気持ちよさを感じたのだった。

雨が降り出した時のプールを思い出した。水の中に入っていれば、雨は冷たくもない。もっと入っていたかった。外に出たら寒くなってしまう。ぬるい雨に纏われるのが嫌で、僕は限界まで潜っていた。それでも、スピーカーからはプールから

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コピー集 旅なんて大それたものじゃなくても

コピー集 旅なんて大それたものじゃなくても

【大学の課題コピーライト入門】
青春18きっぷでの一人旅をしてみようと思わせるキャッチコピーとボディコピーを書く。

最後の猫のやつは先生に「めっちゃ好き」と言われました。だけど、最後にかけてんんーっと言った感じだそうでなるほどなとなりました。

勉強になるぅぅぅぅ

詩『はみ出す青』

詩『はみ出す青』



もう終わるらしい夏休みの
空を見ることなく
部屋の中
ひとりぼっちで吸う息に
とくとくと輝いた愛のなさ
めぐる命の空き箱は
何かを思わすことも無い
さおさおさお
竹の音がどこからか聞こえるの
さおさおさお
また聞こえる
それは猫の悲鳴をかき消すために

マスクから開放され
入ってくるのは青の音
侵食していくその色は
まぶたの裏に焼き付いた

散文 踏切の君に

散文 踏切の君に



私は明るく冷えた電車の中で、
君は猛暑の余韻の中、
私を探して踏切の向こうにいる。
君の硬い熱を掴んだ手でバイバイをする。

文体練習 山々はどこにでもある

文体練習 山々はどこにでもある

脈々と受け継がれてきた舞を葉っぱたちは踊る。一枚一枚が思いのままに自分の一生を体現しようとしているのが健気で私は出来るだけ道に落ちた落ち葉を踏まないように心掛けた。

さわさわと音を立てるのは僕ではなくて、世界の方だった。なんでもいいからと街から逃げた先からみた街は小さくて人間なんて居なかった。いつもそこにあるのが当然で、気に止めることもなかった山は、僕の小さな現実をどうでもいいというように独自の

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詩『午睡の空』

詩『午睡の空』



午睡の夢の色をしていた
その空を僕は目をつぶって感じてる
吸った息に含まれた
純粋な色彩は
僕の体内全部を染め上げた

色の着いた空気は
ちるちると音を立てる
宇宙を感じるその色を
きっと火星人も見ているに違いない

僕の世界は
ピンクとも撫子色とも石竹色とも
言いたくない色で満たされた

命よ君よ、僕をありがとう

散文 夏色に乞う

散文 夏色に乞う

進行方向に向かって座ったまま何キロで進んでいるかも分からないで、目的地に行こうとする。そんな私と同じようにスマホをいじるだけの乗客もみな、いつの間にか半袖に衣替えをしていた。

世界には黒と白しかないのかと思うぐらい彼らの服装は無彩色であった。色があるのは私だけなのか。多数に流される方がきっと楽だ。でも、私は色が好きだ。夏の毒々しいほどの名前の知らない赤い花とか、遊びに行くからと玄関に投げ捨てられ

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散文 夏を撒く

散文 夏を撒く

私は今、蚊に刺されている。左の肘に少しの痛みを感じたから目をやると細い足と胴、そして翅がそのサイズよりも存在感を表していた。すぐに腕を動かすと消えた。ぎりぎり噛まれていなかったのだろう。だけど、先の痛みを意識してしまって、痒くなってきた気がする。気の所為かもしれないけど、痒い気がする。こそばゆくて、痛い。

私はきっと思い込んでいるだけ。痛みを作り出しているだけでしかないんだろう。今もずっとジーっ

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散文 暑さを縫う

散文 暑さを縫う

何を思っている訳でもないのだけど、私はそっと街を眺めていた。夏の涼しさを感じながら、自転車で駆け巡る。髪が風に吹かれて、私は一人声を出して笑ってみた。

ハハハ、なんだか愉快な気持ちになってきた。

空の青さはどこまでも優しくて、命が沸き立つのが分かる。雲はきっと滑らかだ。生きてるって実感するのは何故なのだろう。夏が来るまではどこかぼやけたような気持ちがしていたということか。夏生まれの私は全身が水

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