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散文『ポツポツ』
繁華街をポツポツ歩く。
その一文だけがノートに残されていた。過去の自分が何を考えたのか、思い出そうとすら思わなかった。ただ、『繁華街をポツポツ歩』いてみたくなった。
電車が停止し、歩く。
ガヤガヤとした街は暗かった。都会ももう暗い時間なんだと思う。
死んだ都会は、見慣れた場所だと思った。
頭がバラバラと崩れるような、具体性がないような、全てが消え去る瞬間のような思考は断片的で線路の美しさに気を取られた。
空はただ黒いだけで気が楽だった。夕焼けは感情を音もなく掻き回すから苦しくなる。朝焼けとは仲良くしたことがない。青空もどことなく責め立てられてるような気がするし、曇りの日は頭が痛くなるから不快を背負う。
無感情な夜は全てを包み込む。
自分の存在の境界線が薄くなるから、全部が一緒のようになって溶け合って消えていけそうだ。
それに恐怖を感じなくなったのはいつからだろう。自分の存在のちっぽけさに諦めが着いた日だろうか。昔は夜が押し迫ってくるのが怖かった。自分の一部が連れ攫われるようなあの感覚に満たされたとき、眠りについた。あの日々が好きだったのかもしれない。
なんてことも無い。
繁華街をポツポツ歩く。
ポツポツ。ポツポツ。
雨の音か、自分の足音か。
曖昧が好きだった。
誰も彼もスマホを見ながら歩いている。何かを打ち込み、何かを聞き、何かを見ながら歩いている。誰も雨のことになんて気づいてない。人知れず降るそれが道路を濡らすことで、存在していたことを主張する。
雨降ってたんだね。
なんて言葉を交わす。雨の存在が肯定される。羨ましい気もした。
誰の記憶にも残らないような自分は、そろそろ人間じゃなくなっていくのかもしれない。なんて、夜の思考をする。
ふと、都会が覚めた。人知れずに泣いていたのは夜だった。
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