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文体練習 山々はどこにでもある

脈々と受け継がれてきた舞を葉っぱたちは踊る。一枚一枚が思いのままに自分の一生を体現しようとしているのが健気で私は出来るだけ道に落ちた落ち葉を踏まないように心掛けた。

さわさわと音を立てるのは僕ではなくて、世界の方だった。なんでもいいからと街から逃げた先からみた街は小さくて人間なんて居なかった。いつもそこにあるのが当然で、気に止めることもなかった山は、僕の小さな現実をどうでもいいというように独自の合唱する。

登り道というのは足の筋肉の使わない場所を使う。大きな木の下で私はリュックを開いた。土の濡れた匂いがぬるりと口の中を駆け巡る。冷たい水を喉に流し込んで、空を見上げたつもりだった。だけど、そこには緑の重なりがどこまでも広がっていた。緑色を青というのは、空のように緑色が広がっていたからだろう。

泣きたくて逃げ込んだトイレの窓からみた山は黒板のようだった。スーッと少しだけ開けた時、木と土の匂いがした気がした。きっとあの山の匂いだ。

海遊館デートは楽しかった。ずっと彼氏なんて居ない人生だったから、高校三年生になってこんなことが出来るのはとても嬉しかった。だけど、どうしても寂しくて怖かった。視界に山がなかったから。山の見えない都会の中で私は生きていけないとおもった。

そろーっと降ってきた葉っぱはまだ緑色だった。手に取ると虫に食われて穴が空いていた。そこから見た空は人生よりも青かった。

夜の山をひたすらに、ひたすらに歩いていると私は人に出会った。彼女は泣いていた。もう大丈夫だよと声をかけるけど、足の無いもの同士交わることは出来なかった。どこよりも居心地がいい闇の中で雨が降るような葉の擦れる音を聞いていた。

大きな猫が寝ているかのように山はそこにあった。久しぶりに降りた実家の最寄り駅に着く前の乗り換え駅から見たそれは、緑ではなく山の色をしていた。

もう夏になるというのに山は赤茶色をしていて不安になった。あの山が死ぬ時、私は逃げ場がないに違いない。

山笑ふ、という目で見るとあいつは笑っているようだった。確かにあの山は満面の笑みではないけれど、静かに全てを諦観するように笑っている。

山こそが命を高らかに叫んでいる存在だと思うんですけど、なんでみんな海ばっかりいくのですか?

スイカの種をあの山に飛ばしたら、きっと飛んでいる間に発芽して、黒と緑の球体がぶつかって、それでも何も起きてないように振る舞うのだろう。

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