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#詩

鎮魂夏|詩

鎮魂夏|詩

「鎮魂夏」

掠れゆく記憶のなか
微かに残る色彩ゆらめいて

愛されていた
あい重なる歌声が痛みに変わる
その刹那に戸惑う浜の風

捜している
水平線に見えては隠れるふたり
浮かびあがった白砂の囁き

悪戯な陽のひかり
握りしめた瞳で海へと鎮めていく

無題|詩

無題|詩

「無題」

すり抜けていく温もり

理不尽にふる雨の色はなにいろで
放りだされた傘は誰の手に

掴み損ねていた
重なりあう滴たちの垣間に
宿りの里を映しみて

艷た風がふく
荒れた海さがし彷徨う難破船

白い河の流れ
ゆるやかに運ばれていく砂時計

夏夜に眠る|詩

夏夜に眠る|詩

「夏夜に眠る」

切ない夜がひとつ減っただけ
耳もとから潜りこんだ
噂好きな風のお喋りに俯く

咲かない花に寄り添った強がりが
転がり落ちて心の臓を叩いた
刹那に隠した君への想い
そびれになった夏夜の独り言

切ない夜がひとつ減っただけ
今夜、
逢えない夏がひとつ過ぎていく

ちぎれ雲|詩

ちぎれ雲|詩

「ちぎれ雲」

ふたえ重なり伸びゆく影法師
途切れた音に溢れるしずく

見あげる青には忘れた頃の
その名残のようなちぎれた雲に

吹かんすな……

迷い子ごとく差しだす右の手
腫らす涙は赤子のようで

遠い夏、
あぐんだ風を此処にあつめて

旅のおわり|詩

旅のおわり|詩

「旅のおわり」

夜にとける既の強がりが
ふわり音に寝転んで流れはじめた

見失いそうになった月あかり
雲の隙間から溢れ落ちる
悪戯好きな星くずの吐息に擽って

降り始めた雨に満たされていた
古より聴こゆ懐かしい痛み
幾度となく繰り返してきたはずの

旅のおわり、
ため息を閉じこめた時の欠片

夏まつり|詩

夏まつり|詩

「夏まつり」

ゆらゆらと游ぐ金魚すくいの空

まるで笑顔みたいなまん丸の瞳に
僕は釘付けになってしまった

お姫様をさがしているんだ
鼻歌まじりなあの頃のお喋り
おおきな空にちいさな波がたつ

とおくに聴こえる祭囃子が
子守唄のように気泡に溶けた

僕なら此処にいるよ
精一杯に伸ばした指さき
真夏の夜に向かってまっすぐな……

尽きんもの|詩

尽きんもの|詩

「尽きんもの」

遠まわりを選んだリアスな潮風

嘘みたいな本当の話の横顔は
心なしか、
いつもの其れとは違ってみえた

繋ぎあわせて
君がみつめる空を創りあげる
其処に輝く星たちを想像しながら

たった一枚
手もとに残された古い写真

消えることのない海の記憶と
尽きること、
それを知らないあの頃の俤ゆれて

旅先の夏にて|詩

旅先の夏にて|詩

「旅先の夏にて」

夏の真似事をした坂道のさき
潮の薫りよりも強い瞳の向こう側に
モノクロの優しさがうずくまる

下りかけた言葉の尻尾をつまんで
ひょいと掬いあげ微笑むと
僕は選ばれたから此処にいる
そう言って君は僕を抱きしめた

水割りを頭から浴びるような夜
物言わぬ背中に時を重ねた

愛だとか、恋だとか
例えば悲しい物語だとしても
確かに其れは
僕のためだけに書かれた小説だった

祈り|詩

祈り|詩

「祈り」

透け見ゆような心もとなげ
必ずだとか永遠ほどに
哀しく聴こゆもの他にはなくて

下手くそで佳い
否、それがいいのだと

小指の代わりに絡めんや
ひとつとして要らぬ糸はなし
きみへと繋がる祈り
揺れのぼる静穏なる想いたち

潮風と星のすな|詩

潮風と星のすな|詩

「潮風と星のすな」

分かたれた南の海と夜の空
瓶詰めされた潮風と星の砂が
あの娘の腰に揺れている

誰が悪いとかじゃない
あのね、
季節が違っていたんだよ

せめぎあう
みなもの小さな子供たち
浜辺には恋を知った歌うたい
ほら、誰かのために
今日も明日を弾き語っているよ

きみが里|詩

きみが里|詩

「きみが里」

空に去りゆく影法師
海へと飛びたつ鼻の唄

ほ、ほっ……

ほたるの里すぎ見知らぬ土地ぞや
そちらの水は甘いであろうか

寂しくなったら還っておいでと
いつぞの優しい夢をみる

ほ、ほっ……

ほら視てごらんよ
あの日の景色
そちらの暮らしは如何なるものか
風は、想いを運んでおるか

夏のうた|詩

夏のうた|詩

「夏のうた」

蝉の声を貼りつけた空が
寂しいさみしいと鳴いていた

誰よりも激しい太陽は
薄化粧の山で君をさがしている

吐きそうなほどの我が儘と
狂いそうなほどの愛おしさが
泳ぎを忘れた人魚みたいに
白の砂浜にうちあげられていた

聴こえない、
いちばん逢いたいひとに
この夏を届けたいと海鳥はうたう

祈り星|詩

祈り星|詩

「祈り星」

噛られた空に浮かぶ月
夜を紡ぐ白い風の足どり朧に

追いかけ見つめるその先に
名のない星座を貼りつけながら

知っている
そこに名前をつけたなら
風は空には居られないこと

濡れた朝の霧のように
堕ちて地球へと還ること

かの國|詩

かの國|詩

「かの國」

伸ばした指さき
すり抜けゆく風の影
追い果てたどるや
薄紅の微睡みに抱かれて

健やかであれ
唄い流れる水の音

懐かしさに類義した
温もり愛しさと名付けて