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読書感想

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本の感想や書評を書いた記事です。主に小説について書いています。一部のノウハウや個人的な話は有料にさせていただいています
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#文学

島木健作『煙』読書感想 古本と生活

島木健作『煙』読書感想 古本と生活

この小説は、古本の競りに出かけた青年が、人が持つ生活への執着心に驚きながら、働くことについて考えを深めていく話です。

主人公の青年である耕吉は、古本屋を営む叔父と生活していましたが、自分でお金を稼いでいないことに負い目を感じていました。ただ本は好きで、他の人とは一風違った本の良さが分かることに対し自信がありました。あるとき古本の競り市が開かれることを知り、耕吉が出かけていくシーンから話が始まりま

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岡本かの子『金魚撩乱』読書感想

岡本かの子『金魚撩乱』読書感想

この話は、美しく成長した幼なじみの真佐子に挑発され、華やかで目を引く金魚を作りだそうと、一心不乱に努力をする青年の話です。

小説の短編集を図書館で借りてきたんですが、その中にあった岡本かの子さんの『金魚撩乱(きんぎょりょうらん)』について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。

この小説は、もともと金魚を売り生計を立てている家に生まれた青年が主人公であり、幼なじみの女性にあおられ、金魚の交配

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梶井基次郎『冬の蠅』読書感想

梶井基次郎『冬の蠅』読書感想

この作品は、冬の蠅と自分を重ね合わせながら、透明感のある文章で倦怠感を描いた話です。

梶井基次郎は『檸檬』という小説が有名ですが、今回は『冬の蠅(はえ)』という檸檬にも通じる小説について、ネタバレ含みつつ考えてみたいと思います。

この小説は、患っていた病気と、将来への不安からくる倦怠感や焦りを、部屋にいた冬の蠅に自分を投影し描いた作品です。

作者の梶井基次郎は、昭和時代には治らない病気とされ

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今村夏子さん『こちらあみ子』読書感想

今村夏子さん『こちらあみ子』読書感想

この本は、周囲と少し変わっているため、いじめられがちなあみ子を、どこかあたたかな目線で描いている小説です。

また図書館で本を借りたため、ネタバレを含めた本のあらすじを書きつつ、感想も書いてみたいと思います。

あみ子は、幼い頃から変わった子でした。あみ子の母親は、習字教室を営んでいましたが、あみ子の弟を妊娠したのをきっかけに、習字教室はいったん中断していました。弟を流産したとき、習字教室再開のお

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今村夏子さん『星の子』宗教と日常

今村夏子さん『星の子』宗教と日常

この作品は宗教にはまっている親の下で生まれたちひろという子供が、日常生活を送りながら成長していく話です。

宗教には暗いイメージや、宗教団体に入っている人からお金を巻き上げるイメージが連想されることもありますが、この話は少しだけ人とは違う日常を送りながらも、親の愛情受け育っていく主人公の暖かな物語が描かれています。

私は別の作家さんのエッセイ内で、この小説『星の子』について書かれた文章を読み、そ

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ヘッセ作『車輪の下』 読書感想

ヘッセ作『車輪の下』 読書感想

この本は、過度な教育という車輪の下じきになった、ひとりの少年を描いた話です。

ヘッセが書いた別の小説は、わたしが小学校の頃の教科書に載っており読んだ覚えがありますが、今回は『車輪の下』についてネタバレしつつ考えてみます。

作者の故郷であるドイツを舞台に、自然豊かな情景描写を絡めつつ、主人公ハンス少年の半生を描いています。主人公ハンスは田舎町で育ち、幼い頃から成績が優秀でした。1890年代の頭の

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綿矢りささん『夢を与える』読書感想

綿矢りささん『夢を与える』読書感想

この本は、若い人が大人の消費世界に飲み込まれていく成功転落物語で、芸能界を中心とした華やかな世界と、主人公の喪失感を描いています。

ネットフリックスかどこかで映像化されたことを最近知り、原作の小説を思い出したため、感想を書いてみます。

あらすじとしては、チーズのCM出演をきっかけに幼い頃からチャイルドモデルをしていた夕子が、母親の助けも借り大手芸能事務所に所属しブレイクを果たします。ドラマやバ

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江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織さん『すいかの匂い』『東京タワー』読書感想

江國香織の良さはいくつもありますが、漢字で書きそうな箇所をひらがなにする審美眼が独特なので、それについて書いてみます。江國さんは、絵本作家というキャリアもあるからか、ひらがなに対するこだわりというのか、独特の目線を持っています。

江國さんの小説である『すいかの匂い』の解説には、「江國さんは漢字とひらがなにも独特の選択眼を持っている。(中略) 文章の中での、言葉の力の入れ方を決めるために、江國さん

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江國香織さん『すいかの匂い』読書感想 夏の本です

江國香織さん『すいかの匂い』読書感想 夏の本です

熱くなってきたので、涼し気な夏の本を紹介します。この本は、わたしが中学生くらいのときに読んでから何度も読み返している本のひとつです。15ページほどの短編が11本入っています。この本は、きれいな夏の和菓子の詰め合わせを眺めているような気持ちにさせてくれる本です。

この本には川上弘美さんの解説も入っていますので、そちらと絡め、感想を書いていきます。川上弘美さんは『センセイの鞄』など興味深い作品を書い

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江國香織さん『東京タワー』読書感想

江國香織さん『東京タワー』読書感想

この本は、高校生のときにはじめて読んで、すごく憧れたのを覚えています。大人になって読むとまた違う感触がする本のひとつです。

自分が好きな箇所というよりは、文や構成の分析などを書いてみたいと思います。ネタバレ含みます。

まずタイトルの『東京タワー』は、東京タワーは見守ってくれるおじさんのようだ、という描写が出てくることに由来しているのだと思います。この作品は透と耕二というふたりの青年の、結婚して

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