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【3500字無料】 民主主義っていっぱいあるの!?——「メタ民主主義論とリンゼイ・テーゼ」前編

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*注意:この内容はすでに販売されている、キリスト教が現代の民主主義を生み出した!? ビジネスパーソンに必要な「メタ民主主義論とリンゼイ・テーゼ」の動画内容を一部変更したものです。

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*参考文献については記事末尾にリストを記していますが、特に重要な参照を行った箇所については随時、記します。

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日本は民主主義の国ですよね!


突然ですがみなさん、日本って民主主義の国ですよね!

でも、「その民主主義って何?」と質問されると、意外とよくわかんないんですよね。なんとなく、「古代からあった」みたいな話もあるし、「科学技術の発展みたいな感じで、人類の進歩に応じて自然と今の政治制度や考え方が発明されて発展してきたんじゃないのか」というイメージだと思います。

実は「民主主義の源流が、キリスト教のコングリゲーションにある」という主張があるんです(コングリゲーションというのは集会という意味です)。これが、A・D・リンゼイの「リンゼイ・テーゼ」です。

これから2回で、「メタ民主主義論とリンゼイ・テーゼ」について紹介していきます。

リンゼイってだれ?

まず、リンゼイとは誰か。リンゼイは20世紀前半に活躍したイギリスの政治学者で、オックスフォード大学の副総長などもやっていた人です。1879年生まれ、1952年になくなりました。1879年生まれというのは、物理学者のアインシュタインと同い年、日本人だと作曲家の滝廉太郎と同い年です。日本では昔からデモクラシー論の人として研究されています。

民主主義っていっぱいある!!

リンゼイの説明はこのくらいにして、リンゼイ・テーゼについて説明したいのですが、まず民主主義の話をする必要があります。

民主主義とは何か。これが結構ややこしいのです。実は、「民主主義とは何か」ということに、正確な定義はありません。

もちろん、辞書を引けば言葉としての定義は載っています。ネットの辞書で引いてみると、「人民が権力を所有し行使する政治形態」という説明が出てきます。

「ホッブズやルソーから民主主義が始まった」という説明を聞いたことがある人もいるかもしれません。

でも私たちの普段使う民主主義ってこの意味だけで使わないですよね。

メタ的に、つまり俯瞰的に民主主義という言葉を考えてみると、例えばどのように使うでしょうか。主には次のようにまとめられるでしょう。

①制度
②主義主張
③抑圧への抵抗
④ライフスタイルや文化

民主主義が喚起する複数のイメージについては、山本圭『現代民主主義』(中央公論新社、2021年)の「まえがき」からヒントを得ました

これだけでもかなりの幅がありますね。

いろいろな民主主義を考えてみよう!

まず制度について考えてみます。例えば「議会があって、政党があって、選挙があって、というシステム」そのものを民主主義と呼ぶことがありますね。「日本が民主主義の国です」という表現の意味を突然質問されたとしたら、このような説明をする人も多いのではないでしょうか。

次に、主義主張や理念です。日本語だと民主「主義」と訳されるのでよりその側面が強調されますが、こうあるべきだという主義主張や、理想的な理念を指すときに使ったりすることがあります例えば、「政治のことをみんなで平等に決めることが良いことなのだ」という主義主張を民主主義的だと言ったりするイメージがありますね。これは日常的に、政治以外の理念にも使われます。ちょっと紹介しますね。

最近だと、「あらゆるもののサービス化(X as a service)」という概念があって、従来であれば手が届かなかったような先端技術が、個人レベルでもすぐ使えるようになる、というようなサービスが増えています。「高度な知識がなくても使える」、「膨大なコストを払わなくても使える」、「大企業でなくても使える」、「場合によっては個人でも使える」、そうやって最先端のテクノロジーのハードルが下がっている状況を指して、「テクノロジーの民主化」と呼ぶ人もいます。

このときの「民主化」のイメージは、何らかの制約によって誰かが独占していたテクノロジーを、平等にみんなが使えるようにするんだ、というようなイメージですよね。

それから抑圧への抵抗。これは、民主化と言われるときの民主主義のイメージですね。例えば「どこどこの国や地域が独裁的な体制から民主主義体制へ移った」と使われます。一般に民主化というのはある時期に世界各地で民主化が起きるというような波があって、20世紀の終わりまでに3回の大きな波があったとされています。21世紀に入ってからだと、アラブ世界で起きた「アラブの春」などが典型で、これを「第4の波」と呼ぶ人もいます。

さらに、ライフスタイルや文化。これは少しピンとこないかもしれませんが、例えば「この会社は民主主義的だよね」と言ったときに、社内で社長を決めるのに、選挙をやってるというわけではないですよね。そうではなくて、「その会社の気風が、例えば役職などにかかわらず活発に意見を交わすような雰囲気がある」とか、そう言った「社内文化」のようなものを指すと思います。これは国にも当てはめることもできます。ある国の話をしているときに「民主主義的な文化だ」と言ったときには、必ずしも制度についてではなく、ライフスタイルや気風などについて話しているケースがあることがわかります。これもまた、民主主義という言葉の使われ方の1つです。

このように、同じ民主主義という言葉でも、どこを指して使われているかは状況によって違います。しかも、例えば「制度」に限定して民主主義という言葉を使ったとしても、意味が1つに定まるというわけではないのです。

以下の記述においては、岩崎正洋・松尾秀哉・岩坂将充(編)
『よくわかる比較政治学』(ミネルヴァ書房、2022年)を参照しました。特に、32-35頁のイギリスとドイツの事例について参照しました。

民主主義の制度もいっぱいある!!

イギリスの民主主義

民主主義と呼ばれうる制度にもいろいろあって、例えば「多数決を重視するタイプの民主主義」もあれば、「権力分散を重視するタイプの民主主義」もあり、かなり幅があります。政治学でもこのあたりはかなり議論されてきたところでもあります。このことは具体例を考えてみればよくわかります。

例えば、イギリスです。イギリスは「多数決型の民主主義」と呼ばれ、「議会政治の母国である」と言われます。実際、日本における議会政治はイギリスをモデルにしています。

「議会政治」とは、議会に政治権限が集約され、そこで競い合いがあることで、国民の意見を反映するという仕組みです。ここだけ聞くと、いかにも民主主義の国という感じで、他の例を見るまでもないという感じも受けてしまいますが、実はイギリスは、多様な人々の平等な包摂という点では特に模範的な国ではなかったと言われています。というのも、選挙の導入は20世紀に入ってからととても遅かったのです。

ドイツの民主主義

別の例をみましょう、ドイツです。ドイツの政治は、権力を分散することに特徴があります。ドイツはもともと、小さな州が集まって国家になったという歴史があるので、もともと中心に権力を集めるという発想が薄い国です。さらに、20世紀にもナチスによって強制的に一極集中が起きたという事実がネガティブな記憶として残っているので、戦後はなおさら意識的に権力を分散させようという動きがありました。結果として現代のドイツは、権力を分散させる仕組みが張り巡らされています(「権力分散」)。

例えば、ドイツはまずたくさんの州があり、その州を束ねるものとして連邦という概念があります。国の政策に当たっては、まず連邦が政策をつくり、実施はそれぞれの州が行うという仕方で分担が徹底されています。他にも、政府や多数派の与党が独断で何かを動かそうとしても、それだけでは動けないような仕組みがたくさん作られています。このドイツの政治の形もまた、民主主義体制と呼ばれます。

これは例えばさっきのイギリスとは大きく異なりますし、「これが典型的な民主主義の仕組みだ」と言うには独自のカラーが強すぎます。しかし、このドイツのような権力分散が1つの民主主義だと呼ばれること自体にはそれほど違和感はありませんし、実際そう呼ばれてもいます。

ここまででも、民主主義と呼ばれうる制度にもいろいろあって、「多数決を重視するタイプ」だったり、「権力分散を重視するタイプ」だったり、かなり幅があることがわかります。せっかくなので、次ではもう少し視野を広げていろいろな具体例を見てみましょうか。

コラム:「民主主義」へのアメリカの影響

実は、アメリカは民主主義へ多大な影響を与えました。そもそもアメリカは民主主義という言葉とセットで登場しがちな国です。以下では2つの側面からアメリカの民主主義への影響をみていきます。

20世紀における民主主義のイメージの変化とアメリカ

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