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フランス語(等の)方へ

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主にフランス語・フランス語学に関連する記事を放り込んでいます。
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deuxièmeとsecond【フランス語の方へ:1】

小手先の記事もちょっと書いてみよう、という試みです。


フランス語には、「2つ目の」と訳しうる形容詞がふたつあります。deuxièmeとsecondです。前者は基数詞deuxに序数詞化標識-ièmeをつけたものです。後者はラテン語secundusに由来します(なおsecundus自体は、sequi「付き従う(suivre)」という意のラテン語の動詞と、根のところでは繋がっているようです。Oxf

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【769】裸エプロンのエロティシズム序説(続かない)

【769】裸エプロンのエロティシズム序説(続かない)

裸エプロンそれ自体は裸のうえにエプロンを身につけるだけですが、或る文脈において一定の効果を持つクリシェとして機能しつつ、しかしクリシェでありつつも依然突飛な印象を与えるために用いられます。エプロンが日常的に一定の役割を担っており、しかも裸のうえに直接エプロンを着用することは日常的にはないということ、裸エプロンが実施されるときにはエプロンの日常的な用途に対する期待がほとんど持たれていないこと、が理由

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【765】海のキュウリ?

【765】海のキュウリ?

キュウリを食べたことがない方はあまり多くないと思います。これからの季節は私も冷菜にしてよく食べます。叩いて切って、にんにく、塩、醤油、ごま油、黒酢、あと砂糖あたりを加えて拍黄瓜にします。戻した湯葉を加えても美味しいですね。

栄養価の面でキュウリはあまり良好でないとも言われていますが、とまれ食感や(含む水分の多さに由来する)清涼感によって食卓の一角を占めている野菜です。

もちろんヨーロッパでもキ

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【762】湯婆婆文法(仮)とボワロー

【762】湯婆婆文法(仮)とボワロー

『千と千尋の神隠し』くらいならネタバレしてもよかろうと思って言うなら、同作において異世界に迷い込んだ千尋は親を豚に変えられてしまい、人間の親を取り戻すために「油屋」で働くことになります。油屋のボスは湯婆婆であり、彼女の登場シーンはなかなか印象的です。

先だって「ここで働かせてください」とだけ言うように諭されていた千尋は、どうにか湯婆婆に受け入れてもらえますが、契約に際して湯婆婆は千尋の名前を奪う

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【713】ときにはヴェイユのように

【713】ときにはヴェイユのように

思想史の大部分が「読む」という営みにおいて展開されていることは言うまでもありませんが、読み手として優れている人が必ず読みの傍らにおいて(狭義の研究を離れて)優れた見解を提示できるわけではなく、また優れた思想家が優れた読み手としての資質を示すとは限りません。あるいは同じ作家が場合によって異なる資質を発揮することもあって、あるときには優れた読みを行なっていた人間が別のところでは粗雑な読みに走ってしまう

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【551】これくらい読めなきゃアウト? Finleyのイヤミを読みとろう

【551】これくらい読めなきゃアウト? Finleyのイヤミを読みとろう

ほんの一節の英文から(ごく禁欲的にやっても)これくらいは読むことになる、ということの実演であり、日本語においても、とりわけ然るべき著者によって力を入れて書かれているものについては似たような態度をとることになる、ということです。

■【母語なら読めるというわけではない】解釈をいちいち書き出すということは稀ですが、極めて大げさな言い方をするなら、一瞬で以下に示すくらいにわかることで、やっと文章を読むた

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【550】avoid、evite、もう一歩

【550】avoid、evite、もう一歩

昔英語の授業でプレゼンをしていたとき、avoidなる語がとっさに出てこず、éviter(仏語でほぼavoidと同義)と言おうとして思いとどまり、éviterから英語を作るならevite/ivait/だろうと思って自信たっぷりに発音したところ、これが(やや古めかしい表現であるとはいえ)実際に正しく存在する単語だった、という経験があります。

尤も、その場にいたネイティヴの先生しかeviteという語を

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【544】Bugenとはどこ?/訳では見えないエトセトラ/経営から職人の論理へ

【544】Bugenとはどこ?/訳では見えないエトセトラ/経営から職人の論理へ

さて、以下は18世紀中頃にフランスで書かれたディドロ&ダランベール『百科全書』第1版の項目のひとつです。何について書いているかわかりますか。

Bugen(地理)、Ximoの島に位置する、アジアの都市・王国であり、日本帝国に服している(BUGEN, (Géog.) ville & royaume d’Asie, dans l’île de Ximo, dépendant de l’empire d

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【541】固有名詞やアナグラムの「翻訳」は無理だが豊か

【541】固有名詞やアナグラムの「翻訳」は無理だが豊か

『ハリー・ポッター』シリーズ、読まれたことのある方も多いかと思います。私もメインの7巻は全て読みました。小学生の頃は日本語で、その後は度々英語で、更に後にはフランス語やドイツ語や、変わり種ではラテン語や古典ギリシャ語で色々読んだものです。

日本語から英語に行くときには言語的レヴェルを除けばさほど苦労しなかったのですが、仏語やイタリア語に飛ぶといろいろと問題が生じます。


日本語と英語だけで読

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【536】デカルトはそんなこと言ってません/あなたは全然読めていません

【536】デカルトはそんなこと言ってません/あなたは全然読めていません

世界的なデカルト学者であるドゥニ・カンブシュネルの『デカルトはそんなこと言ってない(Descartes n’a pas dit)』の邦訳が、今月末(2021年9月末)に出るようです。

デカルトに関するよくある誤解をとりあげ、それがどのような意味で間違っているか、ということが取沙汰されます。

タイトル(の訳)からも分かる通り、決して固い本ではなく、フランス語で読んでみた限りでは非専門家でもわかる

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【531】フランス語中級者のためのモンテーニュとたまねぎ

【531】フランス語中級者のためのモンテーニュとたまねぎ

ミシェル・ド・モンテーニュの名を聞いたことがある人は少なくないと思います。世界史の教科書にすら出てくるビッグネームですし、彼の『随想録(Essais)』は、実際に読むと骨が折れるとは言っても、枕元において少しずつ読むと豊かになるタイプのテクストです。  

(なお、フランス語初修の段階でモンテーニュを読もうと思うと爆死します。フランスの学生すら現代フランス語訳を要するテクストですし、そのハードルを

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【509】朝顔とあずま屋と蝶:語学学習のわずかな一部

【509】朝顔とあずま屋と蝶:語学学習のわずかな一部

語学学習は結局のところ一定の規模の文章を念入りに読みつづけることが重要になってきますし、それが全てなので、母語だろうが外国語だろうが変わらなくなってきます。世の大半の語学の参考書が必然的に入門レヴェルのものに留まる理由です。

とはいえ語学の勉強であるからこそ、つまり意識的な、突き放された対象に関する学びであるからこそ、積極的に行われる作業もないわけではありません(し、それはある意味で、母語以上の

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【351】leaderなる語を取り巻くイメージから出発する

【351】leaderなる語を取り巻くイメージから出発する

いわゆる「リーダーシップ」は特に経営や組織論などの分野において極めて重要になるのでしょう。私はそうした分野に関してほとんどレレヴァントな知見を持ちませんが、自らが接近できる範囲で、つまり(些か衒学的に、しかし論証を緩やかにとどめつつ)とりわけ西洋語をとっかかりにして、この言葉が持つ実態に接近することはできるでしょう。

言葉で遊ぶのは実証性を欠く、という言明が、私たちが言葉によらずして「実証的」な

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【338】プロかつアマでありたい? ふたつの語源を介して

【338】プロかつアマでありたい? ふたつの語源を介して

「好きなことを仕事にせよ」という或る種の命令と「好きなことは仕事にすべきではない」という忠告は、どちらも一定の正当性を持ちます。

この二つの主張はもちろん矛盾しあうところがありますが、この矛盾ないしは対立の間での決着というものはつけようがありませんし、つける必要がありません。

どちらの言い方にも、一定の普遍的な正当性がある、ということは確実でしょう。

ということは、双方がともに想定している「

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