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すーこ
2023年7月15日 18:02
消えた鍵。落とした? 盗られた? いや、それは……ただの私の日常。 私は片付けが苦手だ。両親の祖父母から苦手という筋金入りの片付け下手。モノの管理がとにかく苦手なのだ。デスクトップやフォルダ整理は割とできるのに、メールの管理もできるのに、現実世界の物理的なモノの管理は苦手だ。鍵もよく消える。カバンの中ならまだいい。家の中に迷い込まれたら、物のジャングルの中から見つけだすのは至難の技であったり
2023年7月2日 14:10
街クジラが僕の街にはいる。 僕の住む海沿いの街の沿岸に、一頭の小さなクジラが座礁した。たまたま下校時間に通りがかった僕が見つけて、慌てて近くの大人たちを呼んだ。大人たちは方々へ電話したり調べたりして、専門家の人たちがやってきて、みんなで協力して海へ戻すことに成功した。クジラが座礁すると、命を落とすことも少なくない。運良く海へ戻すことができたとしても。僕たちは、クジラの無事を願い、日々を過ごした
2023年6月25日 21:00
「海砂糖はね、それはそれは美しくって、優しい甘さで美味しいのよ」 瑞江ちゃんが言っていたのを、ふと思い出して、こんなところまで来た。海砂糖がどこにあるかは知らない。全国津々浦々の旅館や土産屋を訪ね歩くも、手掛かりは得られなかった。次はどこに行けばよいのか……「あのう、海砂糖をお求めの方、ですよね?」「……はい。何か?」「私の祖母から聞いたことがあります、海砂糖」「本当ですか! それはど
2023年6月18日 10:48
銀河売り歩く交差点人は僕になど目もくれないこの街に銀河を求める人はいないのか私のスマホはGalaxy銀河だなんて素敵でしょ小さなスマホに星のように情報が詰まってるこの街で星なんてあまり見えないけど小説やテレビのなかで見る満天の星空スマホのカバーと壁紙の銀河系実際は肉眼でどれほど見えるのかしら銀河いりませんか対価はあなたの「だいじ」ですあなたの「だいじ」と引き換えに
2022年2月14日 23:57
もうすぐ始まる一人暮らしに向けて、私は荷物をまとめていた。こうして部屋の整理をしていると、卒業文集や日記、アルバム、何度も読み返してぼろぼろになった本、18年間がんばってきた勉強に使った教科書やノート、幼いときの宝箱……たくさんの懐かしい物たちが次々と見つかって、一向に荷造りが進まない。来週にはここを出る。そんな思い出の詰まった品々や、砂遊びをしたり水やりをしてきた庭、壁のシミ、馴染んだ部屋の様
2022年1月9日 19:17
彼と最初に出会ったのは、一年前。営業所に定期点検で新しくやってきた「明石」と名乗る彼は、初々しさの残る人懐っこい青年だった。 彼はこう語った。「台風の日に留守番をしていたとき停電して、泣きそうになったとき、ぽっと灯りが点ったんです。早く復旧させてくれたあの灯りに、僕は温かさを感じました。そんなこの街の灯りを絶やさないよう、僕も一員としてがんばりたいんです。」 彼のきらきらした目が眩しかった
2021年12月30日 21:14
飛び起きると、辺りはまだ暗闇に包まれていた。時計を見れば、深夜二時を回ったところだ。寝直そう。いつもならそう思うのに、胸がざわざわと落ち着かない。顔を洗い、コートを羽織り、鍵と財布を握りしめ、玄関のドアノブに手をかけた。 外はしんとして、冷気が満ちていた。月も星も雲に覆い隠され、周りの家もみな灯りが消えている。ぽつぽつと点る街灯の先にある、ぼんやりと光を放つ電話ボックスへ、吸い込まれるように向
2021年12月17日 23:48
高校二年の冬、僕たち三人は、ふたご座流星群を見に、とある屋上に上った。 寒い寒い夜だった。 小白千尋、平山賢治と、エレベーターで上がる。「楽しみだね!」 とびきりの笑顔が輝く彼女を連れて、賢治と僕は、屋上へと続く扉を開けた。 頭上に星空が広がる。「結構見えるもんだな。」「そうだな。」「綺麗ね。晴れてよかった。」 街明かりの滲む星空に、彼女は目を輝かせる。「寒くない?」
2021年12月5日 23:13
今日も残業。もう定時という概念は頭の片隅に追いやった。へとへとになりながらも、あるものを楽しみに今夜もがんばっている。厚手の上着に身を包み、底冷えのする室内で一人、手を動かし頭を回す。 やっときりがついた。明日は休みだから、職場の戸締まりのため、念入りに見回りをする。 しーんと静まり返った廊下。もう社屋には私一人。音のない世界に取り残されたような気持ちになりながら、ゆっくりと歩みを進める。
2021年11月19日 22:37
今夜もひとり、夜景の綺麗な特等席へ足を運ぶ。その特等席は、カフェでもレストランでもバーでもない。廻る箱の中。*** 休日はカップルや親子連れで賑わいを見せるその乗り物も、平日は空のゴンドラをぶら下げながら寂しく廻る。案内人の彼もぽつんと佇む。「あ、おはなさん、こんばんは。今宵もようこそお越しくださいました。23番、空けています。」 彼が微笑みながら話しかけてくる。23番が私の特等席。
2021年10月25日 02:18
今日もまた、踊り場へ向かう。昼休みは五階。業務時間後のひとときは三階。踊り場は、ひとやすみできる、私の居場所。***職場の同僚は優しい人が多い。だから、決して嫌いではないし、尊敬している。ただ、私は人見知りだ。忙しくて家より職場にいる時間のほうが長いのに、今、職場の部屋は少人数になるよう振り分けられ、どこにも人がいる。咳を一つ溢す、食事を抜く、それだけで心配をかけてしまう。息がしづらい
2021年10月6日 00:35
桐の箱に納められたそれを使わないまま、二年が過ぎた。***二年前の秋、幼なじみの光一、優花と、久しぶりに再会した。三人の就活が終わった頃合いに、光一の呼びかけで、おつかれさま・おめでとう会をしようと集まったのだ。ふたりとも変わらず、地元の公園を駆け回っていたあのときの面影を残しながら、あどけなく笑う。思い出話に花を咲かせていたら、時計の針は日付が変わる時刻を指そうとしていた。店を出て
2021年9月24日 01:36
今日は、ちょっぴり特別な日。と言っても本当にちょっぴりで、今年初めて取れた有給休暇で、八年ぶりに髪をばっさり切ったのだ。何があったわけではない。ただそういう気分で、他でもない自分のためにボブにした。三十センチ近く切るのは、美容師さんもわくわくするみたい。「こんなにいいんですか。」「お願いします。」「とびっきり素敵に変身させちゃいますね。」しばらくして、目を開けて鏡に映る自分と向き合
2021年9月20日 23:02
ここは船の上。荷物は船室に置いてきた。今が何時だかわからないが、部屋を出たときは既に三時を回っていた。月も星も見当たらない。周りにはただ、船の灯りが映るばかりの黒々とした海が、どこまでも続いていた。***二泊三日の帰省を終えて船に乗り込み、八時間以上が経過していた。久々に帰省した私を、母は温かく迎えてくれた。父は出張でいなかった。元気にしていたか、仕事は順調かとの問いに、うん、大丈夫だ