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すーこ短編小説まとめ

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私の書いた短編小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
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#眠れない夜に

消えた鍵のありか

消えた鍵のありか

 消えた鍵。落とした? 盗られた? いや、それは……ただの私の日常。

 私は片付けが苦手だ。両親の祖父母から苦手という筋金入りの片付け下手。モノの管理がとにかく苦手なのだ。デスクトップやフォルダ整理は割とできるのに、メールの管理もできるのに、現実世界の物理的なモノの管理は苦手だ。鍵もよく消える。カバンの中ならまだいい。家の中に迷い込まれたら、物のジャングルの中から見つけだすのは至難の技であったり

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街クジラと海クジラ

街クジラと海クジラ

 街クジラが僕の街にはいる。
 僕の住む海沿いの街の沿岸に、一頭の小さなクジラが座礁した。たまたま下校時間に通りがかった僕が見つけて、慌てて近くの大人たちを呼んだ。大人たちは方々へ電話したり調べたりして、専門家の人たちがやってきて、みんなで協力して海へ戻すことに成功した。クジラが座礁すると、命を落とすことも少なくない。運良く海へ戻すことができたとしても。僕たちは、クジラの無事を願い、日々を過ごした

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海砂糖を求めて

海砂糖を求めて

「海砂糖はね、それはそれは美しくって、優しい甘さで美味しいのよ」

 瑞江ちゃんが言っていたのを、ふと思い出して、こんなところまで来た。海砂糖がどこにあるかは知らない。全国津々浦々の旅館や土産屋を訪ね歩くも、手掛かりは得られなかった。次はどこに行けばよいのか……
「あのう、海砂糖をお求めの方、ですよね?」
「……はい。何か?」
「私の祖母から聞いたことがあります、海砂糖」
「本当ですか! それはど

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銀河売りの旅へ

銀河売りの旅へ

銀河売り歩く交差点
人は僕になど目もくれない
この街に銀河を求める人は
いないのか

私のスマホはGalaxy
銀河だなんて素敵でしょ
小さなスマホに
星のように情報が詰まってる
この街で星なんてあまり見えないけど
小説やテレビのなかで見る満天の星空
スマホのカバーと壁紙の銀河系
実際は肉眼でどれほど見えるのかしら

銀河いりませんか
対価はあなたの「だいじ」です
あなたの「だいじ」と引き換えに

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子守唄に抱かれて

子守唄に抱かれて

 もうすぐ始まる一人暮らしに向けて、私は荷物をまとめていた。こうして部屋の整理をしていると、卒業文集や日記、アルバム、何度も読み返してぼろぼろになった本、18年間がんばってきた勉強に使った教科書やノート、幼いときの宝箱……たくさんの懐かしい物たちが次々と見つかって、一向に荷造りが進まない。来週にはここを出る。そんな思い出の詰まった品々や、砂遊びをしたり水やりをしてきた庭、壁のシミ、馴染んだ部屋の様

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守りたい灯り side:driver

守りたい灯り side:driver

 彼と最初に出会ったのは、一年前。営業所に定期点検で新しくやってきた「明石」と名乗る彼は、初々しさの残る人懐っこい青年だった。
 彼はこう語った。
「台風の日に留守番をしていたとき停電して、泣きそうになったとき、ぽっと灯りが点ったんです。早く復旧させてくれたあの灯りに、僕は温かさを感じました。そんなこの街の灯りを絶やさないよう、僕も一員としてがんばりたいんです。」
 彼のきらきらした目が眩しかった

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守りたい灯り

守りたい灯り

 飛び起きると、辺りはまだ暗闇に包まれていた。時計を見れば、深夜二時を回ったところだ。寝直そう。いつもならそう思うのに、胸がざわざわと落ち着かない。顔を洗い、コートを羽織り、鍵と財布を握りしめ、玄関のドアノブに手をかけた。
 外はしんとして、冷気が満ちていた。月も星も雲に覆い隠され、周りの家もみな灯りが消えている。ぽつぽつと点る街灯の先にある、ぼんやりと光を放つ電話ボックスへ、吸い込まれるように向

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星に願いを

星に願いを

 高校二年の冬、僕たち三人は、ふたご座流星群を見に、とある屋上に上った。

 寒い寒い夜だった。
 小白千尋、平山賢治と、エレベーターで上がる。
「楽しみだね!」
 とびきりの笑顔が輝く彼女を連れて、賢治と僕は、屋上へと続く扉を開けた。

 頭上に星空が広がる。
「結構見えるもんだな。」
「そうだな。」
「綺麗ね。晴れてよかった。」
 街明かりの滲む星空に、彼女は目を輝かせる。

「寒くない?」

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あったかココアのある部屋

あったかココアのある部屋

 今日も残業。もう定時という概念は頭の片隅に追いやった。へとへとになりながらも、あるものを楽しみに今夜もがんばっている。厚手の上着に身を包み、底冷えのする室内で一人、手を動かし頭を回す。

 やっときりがついた。明日は休みだから、職場の戸締まりのため、念入りに見回りをする。
 しーんと静まり返った廊下。もう社屋には私一人。音のない世界に取り残されたような気持ちになりながら、ゆっくりと歩みを進める。

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箱の中

箱の中

 今夜もひとり、夜景の綺麗な特等席へ足を運ぶ。その特等席は、カフェでもレストランでもバーでもない。廻る箱の中。

***

 休日はカップルや親子連れで賑わいを見せるその乗り物も、平日は空のゴンドラをぶら下げながら寂しく廻る。案内人の彼もぽつんと佇む。
「あ、おはなさん、こんばんは。今宵もようこそお越しくださいました。23番、空けています。」
 彼が微笑みながら話しかけてくる。23番が私の特等席。

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フレームの中の光

フレームの中の光

今日もまた、踊り場へ向かう。昼休みは五階。業務時間後のひとときは三階。
踊り場は、ひとやすみできる、私の居場所。

***

職場の同僚は優しい人が多い。だから、決して嫌いではないし、尊敬している。
ただ、私は人見知りだ。忙しくて家より職場にいる時間のほうが長いのに、今、職場の部屋は少人数になるよう振り分けられ、どこにも人がいる。咳を一つ溢す、食事を抜く、それだけで心配をかけてしまう。息がしづらい

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夏の約束

夏の約束

桐の箱に納められたそれを使わないまま、二年が過ぎた。

***

二年前の秋、幼なじみの光一、優花と、久しぶりに再会した。三人の就活が終わった頃合いに、光一の呼びかけで、おつかれさま・おめでとう会をしようと集まったのだ。
ふたりとも変わらず、地元の公園を駆け回っていたあのときの面影を残しながら、あどけなく笑う。思い出話に花を咲かせていたら、時計の針は日付が変わる時刻を指そうとしていた。

店を出て

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道

今日は、ちょっぴり特別な日。
と言っても本当にちょっぴりで、今年初めて取れた有給休暇で、八年ぶりに髪をばっさり切ったのだ。
何があったわけではない。ただそういう気分で、他でもない自分のためにボブにした。

三十センチ近く切るのは、美容師さんもわくわくするみたい。
「こんなにいいんですか。」
「お願いします。」
「とびっきり素敵に変身させちゃいますね。」
しばらくして、目を開けて鏡に映る自分と向き合

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夜明け

夜明け

ここは船の上。荷物は船室に置いてきた。今が何時だかわからないが、部屋を出たときは既に三時を回っていた。月も星も見当たらない。周りにはただ、船の灯りが映るばかりの黒々とした海が、どこまでも続いていた。

***

二泊三日の帰省を終えて船に乗り込み、八時間以上が経過していた。
久々に帰省した私を、母は温かく迎えてくれた。父は出張でいなかった。
元気にしていたか、仕事は順調かとの問いに、うん、大丈夫だ

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