見出し画像

演奏する人と教える人、そして教わる人の話 2(今の音大事情と世代で変わる音楽業界とのつながり方)

先日SNSとYouTubeを見ていて少々思うことがあったので、一旦冷静になって誤解のないようにnoteに少しずつ書くことにしました。前回は、自分のあんまり良い感じでもない音楽歴みたいなのを書きまして、何の関係があるのか?と思われたかもしれませんが、少しずつ核心に迫っていきますのでご興味ありましたらお付き合いください。

前回の記事はこちら。

ぜひこちらの記事をご覧になった上で続きとしてお読みいただければ幸いです。


音大に入り、優秀な結果を重ね続け、大学の先生やプロの目に止まり、仕事の依頼があってそこで十分な成果を発揮し、活動の場を順調に広げていく。この流れに乗れる音大生は極めて少ないと思います。
特に今の時代は昔の音大に比べて年代の離れた上下のつながりが希薄なので、この状況を作ることが大変に困難です。

昔は卒業生が音大で練習していました

数十年前までは卒業生が気軽に音大に入って練習できる環境がありました。卒業生の中には現役のオーケストラ奏者など音楽業界で活躍されている方もいらっしゃったため、そうした方々と直接繋がれる大変貴重な空間でもありました。しかし、セキュリティの関係で今は卒業生が大学に入ることは原則、認められません。したがって卒業生は現役の後輩たちがどんな演奏をするのかわからないどころか、面識がないわけです。こうした状況ですから、仕事の斡旋は見込めません。

飽和状態の音大生

今現在、音楽大学で器楽を専攻している学生がどのくらいいるのか、調べたことはありませんが、例えば東京音大のトランペットの学生だけでもおよそ50人前後在籍しています。音大によってはトランペットだけで100人を超える学生がいるところもあります。そんな音大が首都圏だけでもいくつもあるわけで、その中で音楽を生業としたいと頑張り続けている学生は非常に多く、そして、毎年大勢の学生が卒業し、社会に出るわけです。まずこの事実を知っていただきたい。

「売り込み」手段の変遷

そうなると今の若い人たちが音楽業界の中に居続けるために何をしなければならないかと言うと、まず考えられるのは大きなソロコンクールで入賞すること。
もうひとつはプロオーケストラ(付属アカデミーなども含む)等のオーディションに合格し、何らかの場所に所属して経歴や肩書きを手に入れて研鑽し、プロ奏者との繋がりを持つなど、要は何らかの結果を出して他者よりも実力があることを「オフィシャルなアピール」で示す必要があります。

しかしこれらが実現できるのは当然ほんの一握り。コンクールに入賞したいと思ったところで簡単に手に入るわけではありません。オーディションに通過したくてもそれはたった1名の席。叶わない人のほうが圧倒的に多いわけです。
そうなると、他の様々な手段を講じて自分をアピールし、売り込んで存在を示していく「自己のプレゼン」をする必要が出てきます。

自己のプレゼン

[コンサート企画]
では「自己のプレゼン」とは何か。手段はいろいろありますが、古典的な方法としてはコンサート企画です。会場を確保してリサイタルや室内楽等を催す。しかしこれ、本当に大変です。お金もかかるし準備も大変だし、そして集客が大変なのです。
そもそも上記で書いたように現役のプロ奏者との繋がりが希薄な現在、コンサートを企画したからと言ってそうした名だたるプレイヤーが会場に足を運んでくれるでしょうか。そもそも、そこまで情報が伝わるでしょうか。よほど注目された人や企画、もしくは主催や後援などに強いサポートを受けられている状態であればまだ話は別かもしれませんが、結果的に蓋を開けたら友人、知人、家族、師匠など関係者が客席にいらっしゃる状態が現実です。
これでは音大の学内コンサートと同じですね。果たしてプレゼンになっているでしょうか。もちろん「リサイタルを開催した」ということはプロフィールに書くことはできます。評判が良くて口コミで知ってくれる人が増えるかもしれません。しかし、やはりプレゼンとしては残念ながら弱いのです。
そしてコンサートは儲かりません。だから次を企画するのも資金面で結構大変なのです。

[インターネットへ流れていくのは当然]
そうなってくるとお金もほとんどかからず、短時間で形にでき、そして不特定多数の人へ発信できるものを求めていったら、やはりインターネットに流れてつく人が多いのは『この時代』当然です。

特に今の20代,30代は子どもの頃からインターネットが存在していました。何か調べる時にはGoogle検索、YouTube。SNSアカウントを作って自分の思いを書き込んだり、友達との写真をアップロードしたり。そんなことが普通に生活の中にあったわけです。
その世代がまずインターネットで何かをしようと考えるのは至極普通のことです。

[バブル期の音楽業界と音大生]
一方で僕の世代である40代(半ば)以上は、大人になってからインターネットが普及してきた世代です。ですので、バリバリにインターネットを使っているタイプと、インターネットを毛嫌いする(苦手意識を持っている)タイプに二分されます。

今の50代以上の方は、少なからずバブルの恩恵を音楽の仕事関連で受けてきた方々です。当時の音大生や若手でも細かな演奏仕事は今よりも圧倒的にありました。例えばどこかの小さい企業の社長さんが指揮者に憧れていて、会社のオフィスに音大生を集め、小さなオーケストラを編成してコンサートホールで本番をする、なんてのが実際にありました(そのエキストラで参加したことが実際にあります)。当然練習時からギャラは支払われていますし、それが結構良い額なんです。

また、前述のように卒業生との繋がりが強い時代だったので、きちんと演奏レベルが高いと認められた学生は、エキストラとしてプロオーケストラに参加できる、そんなことが結構ありました。そのように大なり小なりお金が発生するいわゆる「仕事」が多くの学生や若手に回ってくる時代であった、ということも覚えておいてほしいことです。


いかがでしょうか。音楽大学と音楽業界の現状、自己プレゼンの難しさについて今回は書いてみました。

次回は、自分はこのどちらでもない間の世代(氷河期世代)だったわけですが、僕が実際に何をして、どんな生活をしていたか書いてみたいと思います。
まだ続きますので長い目で見てお読みいただければと思います。次の記事は数日後になりそうです、すいません。


荻原明(おぎわらあきら)


荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。