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土竜のひとりごと

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エッセイです。日々考えること、共有したい笑い話、生徒へのメッセージなどを書き綴っています。
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記事一覧

第32話:命の摂理

第32話:命の摂理

退職者を祝う宴のたけなわ。

退職者の一人である老教師が
「皆さん、聞いて下さい」
と、突然席を立って大きな声で言った。

一同、静まりそちらに注目すると、

皆さん、私は長年かかって人間が癌に冒される仕組みを解明しました。
それをご披露したいと思います。

そう、老教師は言った。

物理を専門とする教師だった。
どちらかと言えば目立つところのない、
風変わりなところのある人で、
それゆえ一部の若

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第35話:壁

第35話:壁

人間というやつは不思議なもので、海に向かって浜辺に立つと必ず石を手に取って海に投げ込もうとする。どういう習性に基づいた行為なのか知らないが、それは毎日誰かの手によってなされているに違いない。
人類が発生してからかなり長い年月が経った訳だが、こんなに石を投げ込まれて、それでも埋まってしまわない海ってやつも、こう考えると感動に値する何かなのかもしれない。
ご多分に漏れず僕も大概は石を投げ込む。無論、理

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第4話:おばあちゃん

第4話:おばあちゃん

おてんとうさま

おてんとうさまに
恥ずかしくないように
生きなさい

いつもおばあちゃんは
そう言った

ふと見上げると
頭の上には
青い空と
ほっかりと
おだやかな
おてんとうさま

正しさとは
案外
そんなものなのかもしれない

これもまた愚話である。

学生時代、ガラにもなく思いっきり贅沢をしてみたいと思うことがあった。別段これと言って深い理由があるのではなかったが、時としてほとんど衝動的

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イタチ?フェレット?

イタチ?フェレット?

昨年度末の人事異動で学校を変わりました。
勤務形態も再任用フルからハーフに変えました。65歳まであと2年こんな形で勤務して、そこからまた講師の口でも探すのかなあと思っています。

ハーフというのは文字通り半分の勤務で、朝から午後3時くらいの日が1日あるほかは、午前中の勤務が週3日、午後に2.5時間くらいの日が1日といった感じです。
授業はこの勤務時間の中で毎日2時間、1週間で計10時間を担当してい

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第29話:親友の死

第29話:親友の死

克彦が死んだ日
僕は妻と芝居を見に出掛けた
訃報を受け取った時泣きじゃくっていた妻は
芝居に行く道の車の中では
明るく 芝居の粗筋など僕に聞かせたりした
妻が僕の気持ちをどう考えているのか
僕にはよく解らなかったが
話題に克彦をのせない妻に全てをまかせたまま
芝居を観てそれなりに笑い
それなりに拍手などして
帰る車の中でも 流行の歌など聞きながら
お互い 克彦のことには
一言も触れずにしまった

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第28話:正座

第28話:正座

これも愚話にすぎない。

日本には「正座」という文化?があって、いかにも「正しい座」としての地位に君臨している感がある。それは確かにそうではあるのだろうが、高校生時分までの僕らにとっては、悪いことをした「罰」として「正しさを強制させられる」苦い苦い思い出の位置に君臨していたような気がする。

正座の効用について寺の住職をしていた高校時代の倫理の先生に聞いてみたところ、彼は実際に机の上に座ってみせて

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普通の卵焼きと異常な卵焼き

普通の卵焼きと異常な卵焼き

過去記事を加筆訂正しながらひとつのマガジンに整理を試みています。その中で割と自分が好きな記事を再掲してみたいと思います。
記事にスキやコメントもいただいているので、こんな「妙な」元記事の投稿になりますがよろしければお付き合いください。

なお、まことに勝手なお願いで申し訳ありませんが、このページ自体は順次削除したいと思いますので、もしスキやコメントなどいただける場合には元記事にお願いできればと思い

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第20話:昭和が終わった

第20話:昭和が終わった

昔、クラス通信に書いていたものを読み返していたらこんな記事があった。

なんだか読み返してみると歯の浮くような恥ずかしさも感じる文章だが、ここに留めてみたい。
昭和の課題は解決されるどころか、平成を経て令和に至り、ますます複雑多岐、深刻化していると、読み返してみて思った。混迷する時代の中では、ますます「自分のことば」を持ち、追従や迎合を自分に戒める必要があるに違いない。

(土竜のひとりごと:第2

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私が先生をちゃんと死なせます

私が先生をちゃんと死なせます

昨年の8月の人間ドックを受けました。血液検査、腹部エコー、胸部レントゲン、胃のX線検査、すべて異常はないとのことでした。

もう15年以上毎夜、酒を飲み、煙草は40年間、コンスタントに一箱を吸い、日々はほとんど疲れ切ったボロ雑巾のように生きているのに。丈夫な体をくれた親に感謝したいと思います。

ただ、今回のカウンセリングの先生は呼吸器系の専門の先生で、こうも言われました。
「レントゲンで見る限り

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初桜

初桜

前回と似たような自分本位な記事で申し訳ありません。

3月は卒業式、離任式でいろんな方から花束をいただきました。

花束をいただいて 春のはぐれ雲

昨日は部活の生徒たちが送別会をしてくれ、今日は強風の中、最後の練習をしてきました。たくさんの餞の言葉をいただき、時を共に過ごすということの大切さを改めて感じました。
この子らと巡り会えたことを感謝したいと思います。

初桜 別れの言葉あたたかく

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さよならを空高く

さよならを空高く

今回の異動で転勤することになり、勤務も再任用のフルからハーフに切り替えるため、基本的にはテニスの指導から足を洗うことになりました。中学以来、考えてみれば50年間もテニスに関わってきたなあと思ってみたりします。

まったくの個人的な感傷にすぎない記事で申し訳ありませんが、昨年4月、現在の3年生がインターハイ予選を迎える時に送ったラインのメッセージに、少し言葉と写真を足して、とりあえずこの学校での「自

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恩師?にインタビュー

恩師?にインタビュー

教育学部に進学した教え子が「母校の恩師にインタビューして来い」というレポート課題を出されてやって来た。

先生の一日の過ごし方を教えてください。

あのね、僕はだいたい6時45分に起きて、7時に出勤するの。最近は早く目が覚めてしまうことが多いけど、起きていきなり朝ごはん、すぐ着替え。その間、15分。すごいでしょ。車に乗って50分くらい、混んでいると1時間以上かかる時もあるかなあ。

学校に着くとバ

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「とみに」ってなに?

「とみに」ってなに?

先日、部活動の引率でテニスの試合に行った時、女子生徒と他の選手の試合を見ながら、「あの選手は派手さはないが、プレーにそつがない。見習わないといけないね」と言ったら、生徒にきょとんとされた。「そつがない」という言葉が未知との遭遇であったらしい。
同じ日、試合を終えたペアがアドバイスを聞きに来たので、あるミスを指摘し「君たちは最近そのミスがとみに多くなった」と言ったところ、二人はアドバイスの内容などそ

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葡萄に足音を聞かせる

葡萄に足音を聞かせる

今年度途中から、学校でAIによる採点システムが試験的に導入された。どうでもいいが、その名を百問繚乱と言う。多忙を極める教員たちはこれに飛びついた。あっという間に採点は済み、合計点はもちろん、順位や偏差値、設問別の正答率もあっけないほほ瞬間的に出してくれる。来年度から本格導入されるらしい。

採点は勿論だが教員になった頃はPCなどなかったから、大抵のことは「手」で行われていた。成績をつけるときも手計

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