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メンタルヘルスとポップカルチャー

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一端の若手精神科医が日々の診療で感じていること、そこから連想したポップカルチャーの話をまじえながら書き残していく文章のシリーズです。
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2023年4月の記事一覧

アジカン精神分析的レビュー①『崩壊アンプリファー』/初期衝動とアイデンティティ

アジカン精神分析的レビュー①『崩壊アンプリファー』/初期衝動とアイデンティティ

1stミニアルバム『崩壊アンプリファー』(2003.4.23)

2002年11月にインディーズでリリースされた初の流通盤を再録などもせず翌年にキューンレコードから再発売し、メジャーデビュー作となった1枚。再販に際してテレビアニメ『NARUTO』のオープニングテーマとして収録曲「遥か彼方」が起用され、アジカンの名は広く知れ渡るようになった。

アジカンの結成は1996年の4月。2000年代に入り大

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庵野秀明『シン・仮面ライダー』/仮面を被り成熟すること

庵野秀明『シン・仮面ライダー』/仮面を被り成熟すること

庵野秀明監督が池松壮亮を主演に迎えて「仮面ライダー」をリメイクした『シン・仮面ライダー』。幼少期に平成ライダーに親しんで以降、当たり前のようにそこにあった仮面ライダーの"仮面"の役割をあらゆる角度から捉え直し、庵野秀明の作家性と色濃く繋がったとても興味深い1作だった。

仮面の役割本郷猛(池松壮亮)は出てきて早々と緑川ルリ子(浜辺美波)に"コミュ障"とラベルを貼られる。本郷は仮面を被って甚大な力を

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『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

『ザ・ホエール』/あと数歩だけ光の方に

“ひきこもり”と“過食”の映画COVID-19で自宅療養した昨夏、最初は久々の長期休暇!などと考えていたが隔離期間が1週間を過ぎると無性に寂しさが募った。映画やアニメを楽しんでいたはずが、世界から隔絶された気分に陥った。部屋に閉じこもり、生のコミュニケーションを断つことは相当の忍耐が必要であり、"ひきこもり"は覚悟がなければ成立しないことを実感した経験だった。そして、それほどの苦痛を越えてでもひき

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「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

「機動戦士ガンダム 水星の魔女」で考える母娘関係のメンタルヘルス/同一化という呪縛は解かれ得るのか

母娘を描く「水星の魔女」精神科医として患者に接する上ではその人固有の苦しみに向き合うことに努めているが、時としてかなり似た苦しみを抱えているケースに直面することも多い。例えば摂食障害の女性患者は話を聞いていくうちに親子関係、特に実の母親との関係性に苦しめられていることが非常に多い。明確な虐待やネグレクトがあるというわけではない。むしろ、度を越えた関わりの深さゆえに娘の身体に強い影響をもたらしていく

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