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#夢

長いトンネルを抜けると記号の国であった。(連想で読む・02)

長いトンネルを抜けると記号の国であった。(連想で読む・02)

「「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」(連想で読む・01)」の続きです。

連想を綴る この三文は私にいろいろな連想をさせ、さまざまな記憶を呼びさましてくれます。

・「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

 約物である句点も入れると二十一文字のセンテンスをめぐっての連想を、前回は書き綴りました。

 今回は、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号

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『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』終章の「のびる」時間

『雪国』の終章では二つの時間が流れています。「縮む時間」と「のびる時間」です。「縮む時間」については「伸び縮みする小説」と「織物のような文章」で詳しく書きましたので、今回は「のびる時間」に的を絞って書いてみます。

 ここからはネタバレになりますので、ご注意ください。

     *

「のびる時間」というのは、火事になった繭倉の二階から葉子が落下する瞬間が、くり返し描かれるという意味です。

 

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見えないものを描く、見えないものが描く

見えないものを描く、見えないものが描く

 梶井基次郎の『交尾』は二部構成になっていますが、今回は「その一」について書きます。引用にさいして使用するのは、『梶井基次郎全集 全一巻』(ちくま文庫)です。

『交尾』は青空文庫でも読めます。

◆写実的な俯瞰の難しさ 上の引用文から、「その一」は物干し場を定点とした俯瞰だと分かります。

 語り手である「私」が物干し場から移動しない、しかも双眼鏡のたぐいを使うのでもないとすれば、「私」の目から

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人が映画の夢を見るように、映画が人の夢を見る

人が映画の夢を見るように、映画が人の夢を見る

 俯瞰とは場所つまり空間だけの話ではありません。時間的な俯瞰もあります。スケジュール表、タイムライン、カレンダー、年表などは、時間を見える化するだけでなく、時間の流れを時系列で視覚化する仕掛けとか仕組みとか装置だといえるでしょう。

 地誌・地史、家系図、伝記、国の歴史、世界史、文学史、音楽史、科学史、宗教の歴史というぐあいに、個々の事象にまつわる出来事を時系列で記述しようとする人の試みと情熱には

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葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

葉子を「見る」「聞く」・その1(する/される・04)

 今回は『雪国』冒頭の汽車の場面で、葉子が島村から一方的にその姿を見られ、さらには声を聞かれる部分を見てみます。

 結論から言いますと、映っている現実(うつつ)は美しいということです。現実そのものではなく、映っている現実だからこそ、美しいのです。

エスカレート
 これまでの回をお読みになっていない方のために、この連載でおこなっている見立ての図式を紹介いたします。

・『雪国』(1948年・完結

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隙間だらけの器

隙間だらけの器

 私たちは立体の世界に住んでいますが、立体を隈なくとらえることは難しいのではないでしょうか。

 隈なくとは隅から隅までです。こっちの隅から向こうの隅にまで移らないかぎり、隅から隅までをとらえることはできません。この「移る」が曲者であり難物なのです。

・重箱の隅を楊枝でほじくる。
・重箱の隅は杓子で払え。

 こんなことわざがありますが、重箱の隅をほじくったり、つつくのはいかに大変かで、立体(重

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人というよりもヒト(する/される・03)

人というよりもヒト(する/される・03)

 川端康成の一部の作品では、一方的に見る登場人物と、一方的に見られる登場人物が出てくるという話の続きです。

「相手に知られずに相手を見る(する/される・01)」で触れた、川端康成の一部の作品に認められる傾向がエスカレートするさまを、ここで再びまとめてみます。

・『雪国』(1948年・完結本出版)
 一方的に相手を見る、一方的に相手の声を聞く。
     ↓
・『眠れる美女』(1961年・出版)

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「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

「ない」文字の時代(かける、かかる・02)

 川端康成の『反橋』は次のように始ります。

 興味深いのは、この歌を覚えて帰った語り手の「私」の手によって歌が書き写され、それが切っ掛けとなって、絵や他の歌へと話がつぎつぎとつながっていく展開になることです。

 歌が架け橋になっていると言えます。

 かけはし、架け橋、掛け橋、懸け橋、梯、桟。

 当然のことながら、「書く」と「かける」と「縁」という言葉が頻出します。連想が連想を呼ぶように、さ

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正方形と長方形で悩む夜

正方形と長方形で悩む夜

 印象やイメージの話ですが、長方形や直方体は親しみやすくカジュアルに感じられ、正方形や立方体は正式というか格式張って感じられて身構える自分がいます。

 そもそも角(かど・かく)があるものは人がつくったから、そうなっている気がするのですが、角があるほうが測りやすく細工がしやすいのではないでしょうか。

 家屋や建物一般が直線と四角で成りたっているのも、測りやすかったり、作業がしやすかったり、運びや

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くり返すというよりも、くり返してしまう

くり返すというよりも、くり返してしまう

 創作と読書と夢に耽っているとき、人は似た場所にいる。自分以外の何かに身をまかせている、または身をゆだねているという点が似ている。

 そこ(創作、読書、夢)で、人は自分にとって気持ちのいいことをくり返す。気持ちがいいからくり返す。というより、くり返してしまう。

 創作であれば、その「くり返してしまう」が作家のスタイルになり、読書であれば、そのこだわりが読み手の癖になる。夢はその人の生き方と重な

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