『「いいね!」戦争』を読む(18) SNSが「グローバルな疫病」を生んだ件
▼『「いいね!」戦争』の第5章「マシンの「声」 真実の報道とバイラルの闘い」では、人間の脳がSNSに、いわばハイジャックされている現状と論理が事細かに紹介されている。
▼その最も有名な例であり、その後の原型になった出来事が、2016年のアメリカ大統領選挙だった。それは、何より「金儲け」になった。本書では
「偽情報経済」(216頁)
という術語が使われているが、フランスでも、ドイツでも、スペインでも、イタリアでも、「偽情報経済」が選挙に新種の混沌を生んだ。たぶん、これから日本でも起こるだろう。
▼「選挙」を論じる時には戦争を比喩に使うが、本書で描かれているのは比喩の戦争ではなく、リアルな「戦争」がSNSに左右される現実だ。
「パキスタン」と「イスラエル」が核戦争の何歩か手前まで行ったきっかけ。
「南スーダン」が内戦に逆戻りしてしまったきっかけ。
「インド」での暴動の発生。
「ミャンマー」でロヒンギャ虐殺が起きたきっかけ。
「スリランカ」で仏教徒がイスラム教徒を焼き殺したきっかけ。
これらのきっかけはすべてSNSだった。
あの「イスラム国」ですら、偽情報に悩まされたという。
〈わずか数年で、オンラインの誤った情報はタブロイド式の好奇心からグローバルな疫病に進化してきた。
アメリカ人の90パーセントが、フェイクニュースのせいで何が真実か見分けにくくなったと考え、4分の1近くがフェイクニュースをシェアしたことがあると認めている。
2015年末には、ワシントン・ポスト紙がネットのでっち上げを暴く週1回の特集記事をひそかに終え、でっち上げがあまりにも多すぎると認めた。〉(218頁)
▼「偽情報経済」は「グローバルな疫病」と化し、一言でいえば惨憺(さんたん)たる状況になっている。
人間の脳の進化が、技術の進化に追いついていないわけだ。これはおそらく、追いつかない。だから、使い方を変えるしかないだろう。
〈アメリカの中学生の半数以上が毎日放課後にオンラインで平均7.5時間を過ごすが、複数の研究の結果、彼らはネット上の宣伝と本物のニュースを区別できず、でっち上げと基本的な事実も見分けられないことがわかった。スタンフォード大学の研究によれば、「拡散されていれば、きっと真実だ」と言い張る生徒もいるという。「自分の友だちは真実しか投稿しないんだ」〉(219頁)
「でっち上げ」が「現実」になってしまう、ということは、歴史上たくさんあった。しかし、「量」の変化が「質」の変化に変わることがある。現実の戦争の局面において、明らかに「でっち上げ」とか「偽情報」とか「フェイクニュース」とかの「価値」が変わりつつある。(つづく)
(2019年7月12日)