実家の猫に懐かれない

秋からオランダの大学院に進学します。英語学習、大学院受験、奨学金についてなど、お伝えし…

実家の猫に懐かれない

秋からオランダの大学院に進学します。英語学習、大学院受験、奨学金についてなど、お伝えしていこうと思います。

記事一覧

固定された記事

人類学と出会ってしまった助産師の話

こんにちは、 助産師で、この秋からアムステルダム大学の医療人類学・社会学専攻修士課程に進学する、実家の猫に懐かれない、と申します。 留学で会う頻度が減ると、ますま…

メンバーシップ登録ありがとうございました / 助産師がフィールドワークに出かけるとき

日本の総合病院で働く助産師だったわたしが、仕事をやめ、オランダで医療人類学を学ぶようになってから、半年ちょっとがたちました。 メンバーシップの記事として、大学の…

「マザリング」を考える

オランダで出会った日本人の助産師さんに、この本を勧められ、読みました。 著者の中村佑子さんは、編集者やドキュメンタリー映像の仕事をしていた方で、『マザリング』は…

(妊娠・出産の人類学③)出産の現場における暴力

妊娠・出産の人類学シリーズ最終回となります。 今回は、出産の現場における暴力=産科暴力についてです。 産婦人科医の早乙女智子先生は、産科暴力について、このように説…

猫も杓子も医療人類学メンバーの皆様へ

いつもお世話になっております。 メンバーシップ登録されているみなさまにお知らせです。 7月までの期間限定のメンバーシップとしてご案内しておりましたが、5月以降、修…

(妊娠・出産の人類学②)利用される出産、差別される出産

前回、出産の医療化について取り上げましたが、今回はそれに続いて、出産と政治、そして出産の現場で起きている差別について取り上げます。 誰がどのように産むのか、とい…

(妊娠・出産の人類学①)医療化批判、そしてその先へ

今回から3本立てで、妊娠・出産の人類学を扱っていきます。 ベースとなるのは、こちらの英語のハンドブック(Handbook of Social Sciences and Global Public Health)のCh…

好みと習慣から社会について考える—ブルデューのハビトゥス

最近、ブルデューの理論について勉強する機会があり、日々の何気ない営みや好みがいかに社会的な構造や人々との関係性のなかで形作られているかを考えるきっかけとなりまし…

被災地での性暴力の見えづらさ

能登半島での大地震、多くの方が被災され、そこから長い間、物資や救援の手が十分に回らないとのニュースを目にして心を痛めていました。一日でも早く、安心できるくらしに…

リスクと文化

メアリ・ダグラス(1921-2007)はイギリスの女性の人類学者で、『汚染と禁忌』『象徴としての身体』などの著作が有名です。個人の考え方と社会の形は密接に結びついている…

あけましておめでとうございます

この記事はマガジンを購入した人だけが読めます

食べることのフィールドワーク

医療人類学・社会学専攻と言っても、実は医療そのものに関するテーマだけを学ぶわけではありません。動物と人間の関係、科学技術について、身体についてなど、幅広いテーマ…

道徳/倫理の人類学

11月は、修士論文のための研究計画書を書くため、とにかく必死の日々でした。研究のステートメント(これが問題なので、こういうことを調べます宣言、みたいな)を練り上げ…

インターセクショナリティと健康格差

インターセクショナリティ(交差性)は、フェミニズムの中で人種差別が無視されてきた文脈から生まれたアプローチです。女性である、と同時に、黒人である、という二つのマ…

『多としての身体』を読む

『多としての身体』は、オランダの医療人類学者、アネマリー・モルが2002年に発表した本で、日本語にも翻訳されています。タイトルは詩的で難しそうですが、実際に読んでみ…

多剤耐性菌、それは近代化の終焉のはじまり…?

「多剤耐性菌とワンヘルス」についての授業とディスカッションがありました。 多剤耐性菌、聞いたことはあるでしょうか。 医療者であればMRSAとか、CREとか、そういった…

人類学と出会ってしまった助産師の話

人類学と出会ってしまった助産師の話

こんにちは、
助産師で、この秋からアムステルダム大学の医療人類学・社会学専攻修士課程に進学する、実家の猫に懐かれない、と申します。
留学で会う頻度が減ると、ますます実家の猫からは嫌われそうです。

ぼんやり系助産師だった私が、血の冷たい蛇男と、文化人類学、医療人類学という学問に人生を大きく変えられつつある話をしたいと思います(多少のフィクションによる調整をしています)。

実家の近くの総合病院で働

もっとみる
メンバーシップ登録ありがとうございました / 助産師がフィールドワークに出かけるとき

メンバーシップ登録ありがとうございました / 助産師がフィールドワークに出かけるとき

日本の総合病院で働く助産師だったわたしが、仕事をやめ、オランダで医療人類学を学ぶようになってから、半年ちょっとがたちました。
メンバーシップの記事として、大学の課題で読んだ本・論文を紹介したり、授業で学んだことを毎月紹介してきました。なるべく、読んだこと・学んだことをただまとめるだけでなく、自分自身の臨床経験や日本での状況をもとに、私ならではの視点から書くことを意識していました。メンバーシップ記事

もっとみる
「マザリング」を考える

「マザリング」を考える

オランダで出会った日本人の助産師さんに、この本を勧められ、読みました。

著者の中村佑子さんは、編集者やドキュメンタリー映像の仕事をしていた方で、『マザリング』は初めて書かれた本とのことです。
母になる・母であることについて、産み育てることについて、様々な職業・立場の人に話を聞いてまとめた一冊です。ただ聞いた話をまとめるだけでなく、インタビューした相手の空気を伝えるような描写力が素晴らしく、まるで

もっとみる
(妊娠・出産の人類学③)出産の現場における暴力

(妊娠・出産の人類学③)出産の現場における暴力

妊娠・出産の人類学シリーズ最終回となります。
今回は、出産の現場における暴力=産科暴力についてです。
産婦人科医の早乙女智子先生は、産科暴力について、このように説明しています。

産科暴力は、身体的な暴力に限らず、言葉による暴力、同意なく医療行為を行うこと、入院や治療を強制されること、本人の主体性が考慮されないことなどが含まれます。医療者が女性を見下したり、叱ったり、冗談の対象にしたりなど、「マイ

もっとみる
猫も杓子も医療人類学メンバーの皆様へ

猫も杓子も医療人類学メンバーの皆様へ

いつもお世話になっております。
メンバーシップ登録されているみなさまにお知らせです。
7月までの期間限定のメンバーシップとしてご案内しておりましたが、5月以降、修士論文執筆で忙しくなることが分かってきたので、少し早めの4月いっぱいまででここを閉じることにしました。

(妊娠・出産の人類学②)利用される出産、差別される出産

(妊娠・出産の人類学②)利用される出産、差別される出産

前回、出産の医療化について取り上げましたが、今回はそれに続いて、出産と政治、そして出産の現場で起きている差別について取り上げます。
誰がどのように産むのか、という議論は、少子高齢化が問題となっている日本において非常に重要となっています。子供を産むことが推奨される一方で、産んだ後の子育てに必要なお金などの余裕がないと「無責任だ」と言われてしまう状況があると言えます。これまで、出産はどのように利用され

もっとみる
(妊娠・出産の人類学①)医療化批判、そしてその先へ

(妊娠・出産の人類学①)医療化批判、そしてその先へ

今回から3本立てで、妊娠・出産の人類学を扱っていきます。
ベースとなるのは、こちらの英語のハンドブック(Handbook of Social Sciences and Global Public Health)のChildbirth and Birth Careという章。この章を書いている先生から直接教わる機会があり、授業で扱った内容も含めて紹介していこうと思います。

https://www.a

もっとみる
好みと習慣から社会について考える—ブルデューのハビトゥス

好みと習慣から社会について考える—ブルデューのハビトゥス

最近、ブルデューの理論について勉強する機会があり、日々の何気ない営みや好みがいかに社会的な構造や人々との関係性のなかで形作られているかを考えるきっかけとなりました。

社会学や人類学を学ぶ人にとっては有名な理論かもしれませんが、一般にはまだまだ知られていないと感じたので、こちらでご紹介しようと思います!

突然ですが、あなたにとっての「ごちそう」はなんですか

被災地での性暴力の見えづらさ

被災地での性暴力の見えづらさ

能登半島での大地震、多くの方が被災され、そこから長い間、物資や救援の手が十分に回らないとのニュースを目にして心を痛めていました。一日でも早く、安心できるくらしに戻れることを心から祈っています。

さて、1月1日の能登半島で大地震をうけて、1月2日にはこのような記事を目にしました。被災地での性暴力について注意を呼び掛ける記事です。

被災地での性暴力は、これまでも話題になってきたと思いますが、震災が

もっとみる
リスクと文化

リスクと文化

メアリ・ダグラス(1921-2007)はイギリスの女性の人類学者で、『汚染と禁忌』『象徴としての身体』などの著作が有名です。個人の考え方と社会の形は密接に結びついているという考え方から、穢れ、身体、リスク、消費などのテーマについて取り組みました。
今回は彼女の本の中から『Risk and Culture』(リスクと文化)という一冊の前半部分(序章~第4章)を中心に紹介します。メアリ・ダグラスとアー

もっとみる
食べることのフィールドワーク

食べることのフィールドワーク

医療人類学・社会学専攻と言っても、実は医療そのものに関するテーマだけを学ぶわけではありません。動物と人間の関係、科学技術について、身体についてなど、幅広いテーマを学ぶ機会があり、興味は広がるばかりです。同級生の修士論文のテーマをみても、LGBTQ、タトゥー、水、畜産、環境問題など、いろいろな分野での研究があります。
新学期始まった当初から、なるべくいろんなことに好奇心を持って、自分の興味と異なる内

もっとみる
道徳/倫理の人類学

道徳/倫理の人類学

11月は、修士論文のための研究計画書を書くため、とにかく必死の日々でした。研究のステートメント(これが問題なので、こういうことを調べます宣言、みたいな)を練り上げるのに何時間もかけ、提出してみると先生から「一からやり直し!」のお達しがくるという、なんとも辛い時間です。

そんななか、頭の中を爆発させてた私に、理論の先生がお勧めしてくれた、道徳や倫理の人類学がとても興味深かったのです。これは、ざっく

もっとみる
インターセクショナリティと健康格差

インターセクショナリティと健康格差

インターセクショナリティ(交差性)は、フェミニズムの中で人種差別が無視されてきた文脈から生まれたアプローチです。女性である、と同時に、黒人である、という二つのマイノリティの交差点(インターセクション)にいる人々が、女性内でも黒人内でも差別を受けるという問題から端を発しました。
キンバリー・クレンショーというアメリカの弁護士は、このTED動画でいくつか例をあげてこの概念の説明をしています。

例えば

もっとみる
『多としての身体』を読む

『多としての身体』を読む

『多としての身体』は、オランダの医療人類学者、アネマリー・モルが2002年に発表した本で、日本語にも翻訳されています。タイトルは詩的で難しそうですが、実際に読んでみるととてもかみ砕いて説明されていて、わりと読みやすい本です。彼女の提唱する理論が上段に、背景知識として知るべき内容が下段に説明されている特殊な書き方をしています。個人的には、上段に原文が、下段に解説が書かれている古典文学の本みたいだなと

もっとみる
多剤耐性菌、それは近代化の終焉のはじまり…?

多剤耐性菌、それは近代化の終焉のはじまり…?

「多剤耐性菌とワンヘルス」についての授業とディスカッションがありました。

多剤耐性菌、聞いたことはあるでしょうか。

医療者であればMRSAとか、CREとか、そういった菌の名前や対処の仕方を知っている方は多いでしょう。
私は病院で働いていた時、年に1度の抗生剤適正投与の研修を必修で受けていました。だから、そういう菌が「おそろしい」存在であることは知っています。
抗菌薬を不必要な時にも使う、きちん

もっとみる